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光芒  作者: 藍原燐
43/43

開始

 十分ほどして、広間にこの森に今いる人間全員が揃った。すぐに陣を展開させると思われたソフィアは予想に反してニコに握手を求めてきた。前に出された手を握る前に、ソフィアは一つの確認を取る。

 「貴女が暮らす町のことを知るために、昨日一日の記憶を覗きますがですか。」

 「・・・かまいません。」

 「苦痛を感じるようなことはしませんから心配しなくても大丈夫ですよ。・・・では。」

 ソフィアに手を握られるのと同時に、ニコは目を瞑った。

 十秒もしないうちに手は離され、同時にニコも目を開ける。

 「位置は分かりました、ありがとう。ではみなさん、準備はよろしいですか。」

 一度レオの力で転移を経験しているクリスやニコはリラックスしているが、唯一初めてのブルーノは少し緊張気味のようである。

 構わずソフィアは片足で床を一度叩き、陣を展開する。次の瞬間、昨日レオが行った時と同じように周囲が歪み、マーブル模様になったかと思うと、頭上から徐々に青くなり、彼らはいつの間にかニコ達の家の前に立っていた。

 「何度経験しても、すごいよなあ。」

 「私、フェルリに行って帰って来たこと報告に行ってきます。おとうさんも一緒に行きましょう。」

 「・・・あ、ああ。」

 「すぐに行ったりしないでくださいね。それにソフィアさん、その服装では少しまずい気がしますので、適当でよければ買ってきますがどうしましょう?」

 「ではお願いしようかしら。」

 道路に出て右に曲がり、酒場を目指して消えていった二人を見送った後、三人は昨日と何も変わらない焼けた家を見上げた。

 「結局、この家を焼いたのは誰なんだ?」

 「イヴァーノの部下だろう。ニコを素早く街に連れてくる為に、ブルーノを確保してすぐこちらに犯人を送り込んだ。お前がチャックの馬車で見かけた男が犯人だったんだろうさ。」

 「全部燃えたんでしょう? 建てなおす資金はあるのかな?」

 「こっちに来る前に貯蔵石とお金をもう一度交換してきたから、金ならあるだろう。少し使っちまってたが、今回の謝礼金ってことで折り合いつけたし。」

 「昨日天蓋に来た男どもについても心配はありません。今朝地域長にあの者達をこの地域内から追放するように言っておきましたから。」

 「大陸中の人間を相手に商売してる男だけど、神直々の命で本拠地のある地域を追放された男がトップの会社と仕事したい奴はいないだろうなあ。」

 しばらく三人がボーとていると、片手に服の入った紙袋を持ったニコが小走りで戻って来た。一緒に行ったブルーノの姿はどこにも見受けられない。

 「礼なら朝会った時に言ったし金も払ったと、フェルリでそのままご飯を食べています。すいません。」

 「いいよ、あいつの場合丸一日食事取ってなかったかもしれないしな。」

 ニコは手に持っていた紙袋をソフィアに渡す。

 「長めのスカートと上着を何枚か買いました。ここでは着替えられないと思うので、街に着いた後、お着替え下さい。」

 「ありがとう。当分の間、天蓋のことは気にしなくていいですよ。殆ど人は訪れないでしょうし、来たとしても正式な謁見希望者でない限り私が神代代行として捌いておきますから。」

 「申し訳ありません。落ちつたら再度行かせていただきます。・・・それまでにもう少し神術が扱えるように慣れておきます。」

 「ええ、頑張って。」

 二人が話している風景は親子のようにも、年の離れた姉妹にも見えた。

 ソフィアとの会話を終えて正面から向き合ったクリスとニコはどこかくすぐったい気持ちになった。

 「なんだか改まって顔を向け会うと変な感じだね。」

 「そうですね。・・・本当に、ありがとうございました。」

 「悪い奴らの相手をしたのもニコの義父さんの危機を察知したのもレオで、私は何もしてないよ、本当に。」

 「ですが、私がこの街を出る時一緒に出ることを提案なさったのはクリスさんです。あれがなければ何も始まっていませんでした。それに、貴女がいたからこそ神を目覚めさせることができたのです。」

 「・・・ありがとう。」

 「また会いましょうね、必ず。」

 「ええ、必ず。」

 続けて顔を向けられたレオは、礼を述べようとするニコを片手をあげて制した。

 「俺は足の役割を果たしただけだ、気にするな。」

 「・・・色々教えて下さってありがとうございました。」

 ニコが指し出してきた手を渋々握ったレオの顔には照れを隠した苦笑いが浮かんだ。

 二人の手が離れると同時に、三人の足元に陣が展開される。一歩下がったところから、ニコがクリスに向かって叫んだ。

 「次会ったら、今度はちゃんと二人で街を歩きましょうね!」

 「じゃあ、話題に事欠かないように色々知識を深めとくよ!」

 次の瞬間には、その場所にはニコしか立っていなかった。


 三人は天蓋に居た。神の森のではなく街にある天蓋の方の。

 彼らがそこに現れた時、偶然にも広間には誰もいなかった。部屋がある方通路に向かってクリスが叫ぶ。

 「ジェフさん! 居ますか?」

 「天蓋か・・・。一番無難だな。」

 「クリスさんの記憶を読むのは失礼にも程があると思いましたので、昔から位置は絶対に変わっていないであろう場所にしました。」

 廊下を走る音がして、広間にチャックが現れる。ニコではなく見知らぬ人物と一緒に来たことを訝しがりながら、彼は三人の下に駆け寄った。

 「部屋から姿が見えなくなった時はどうじようかと思いましたが、無事で何よりです。ニコさんの姿が見えませんが、大丈夫ですか?」

 「大丈夫です、彼女は無事住んでいる場所に戻りましたから。・・・いきなりで悪いんですが、この人に部屋を少し貸してもらえませんか。服を着替えたいそうなので。」

 紹介されたソフィアは二人の前に出て、自己紹介を済ます。

 「ノウンと言います。いいでしょうか?」

 「・・・構いません。こちらへどうぞ。」

 ジェフに連れられて奥へと進むソフィアの後ろ姿を眺めながら、クリスは口を開いた。

 「分からないことだらけだ。神代のことも全てが分かった訳じゃないし、天蓋もそう。〈声〉のことも、特殊だっていう神のことも。第一、自分がどういう存在なのかっていうのもいまいちはっきりしないしな。」

 「・・・全部一気に知るのは無理だぞ。」

 「分かってる。だから四苦八苦しながら色々なところをこれから回って、探して、見つめるんだ。」

 「俺はそれを補佐するわけだ。」

 「そういえば、私の『王笏の上に乗ってたトラ』発言を否定も肯定もしなかったお前のことも、調べないとな。」

 「!・・・」

 レオの反応を気にせずクリスは続ける。

 「あのトラが着けていた玉とお前が首に掛けていた貯蔵石とでは大きさが合わない。自由に姿を変えられるのは、あの姿から今の姿に変わるのを直接見たから疑ってないけどね。・・・ソフィアとの関係も気になるところだな。」

 「・・・俺は付いて行くだけだ、歩く辞書として。」

 「それでいい。知りたいことは自力で探す。さしあたって今日することは、ニコとの散策の予行としてソフィアと街を色々回ることかとかな。」

 着替えを済ませ、通路から姿を現したソフィアに向かって手を振った。


ここまでありがとうございました。

続きはいずれ。

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