再会
ソフィアの話を一通り聞いても、彼女の前置き通り、ニコの疑問全ては解消されなかった。不満げなのが顔に出ていたのか、ソフィアは苦笑いを浮かべている。ニコは慌てて礼を述べる。
「教えて下さって、ありがとうございます。」
「いいえ、自分で言っておいてなんだけど、なんの答えにもなっていなくてごめんなさい。」
「そ、そんな! ・・・正直に言うと、まだ分からないことが有ります。はっきり言うと、半分は分からないままです。でも、とても貴重なことを教えていただいたことは分かっています。本当にありがとうございました。」
座ったまま頭を下げるニコに、ソフィアは優しく笑い、話を切り替えた。
「話を聞くばかりでは退屈でしょう、息抜きを兼ねて少し遊びましょうか。」
「遊ぶ? はあ・・・」
ソフィアが椅子から立ち上がり体を解すのに従って、ニコも椅子から腰を上げて次を待つ。
「クリスさんは例外として、神代が特徴の一つである神術を使えるようになるのは、神を覚醒させてからなんです。だから、私を目覚めさせた貴方にも使えるようになっているはず。これからそれをやってみましょう。」
「は、はい。よろしくお願いします。」
神術については、それを伝える物が少なく、詠唱を必要としないといった最低限のことしかニコはしらない。クリスが家の火事をどうにかするために神術を使ったらしいが、その時はパニックを起こしていてはっきりはっきり見ていなかった。レオの神術をつかった転移術しかしはっきりとしらないニコは、ああいった大規模な力を使いこなせるのか少し不安になった。
「神術を一言で表すと、『想像を現実にする』こと。実際にやってみるのが一番いいでしょう。手の平を上にして前に出してみて。」
ニコが言われたと通りすると、ソフィアは次の指示を出す。
「目を閉じて、前に出した手の上に、何でもいい、ぱっと思いついた物が乗っているのを想像して。」
「・・・それだけでいいのですか?」
「ええ、それだけ。あえて言うと、氷でできた形が単純な物が初めはいいですね。」
ニコの頭に最初に思い浮かんだのは、出した手に付けている腕輪だった。目を閉じ、自分の手の平に氷でできたそれがあることを想像する。
一分もしないうちにソフィアに目を開けるように言われそうすると、手の平のすぐ上に陣が展開され、その中心に創造した物と同じ腕輪が存在していた。
「慣れたら、それぐらいの大きさは一瞬で創り出せるようになりますよ。」
「・・・どうなっているのですか。」
ニコは自分の手を引き寄せ、そこに乗った腕輪を観察する。展開されていた陣は引き寄せた際に消えてしまった。直に手の上に乗った透明な腕輪は冷たかった。
「空気中に含まれる水分を凍らせたの。そのまま握れば壊れますよ。」
「これが・・・神術・・・。『想像を現実にする』力。」
「次は目を開けたまま同じ物を造ってみましょうか。」
「・・・はい!」
いずれ融けてしまうのは分かっていたが、握って壊してしまうのは惜しい気がして、ニコは腕輪を床にそっと置いた。
クリスは、ソフィアとの話を終えて部屋にやってきたレオの手によって左隣の部屋にあるベッドで寝ていた。
彼女は、いつかの暗い海に似た、闇の中に一人立っていた。
頬を抓ってみる。・・・痛い。
声を出しみる。・・・出ている気がする。
「久しぶり。」
すぐ後ろで声がした。振り返りそうになったが、寸前でそれを止める。
「あれ、ひり返らないのか?」
「お前の顔を知ったところで、何の意味もない。」
「ちぇ、驚かせてやろうと思ったのに。」
〈声〉を無視してクリスは話を進める。
「ここは何処だ? こっちに来るときに通ったところに似ているけど、立てている。もしかして、また違う世界に飛ばされるのか?」
「ここは前の来た時と同じ、『虚無の海』さ。この世界に決まった形はない。常に変化し、一定であることはない。ほら、変わり始めた。」
地面に足が沈んでいく感覚がする。次の瞬間、クリスは暗闇の中を落ちていた。しかし変わらず、声は後ろからする。
「ついでに言っておくと、お前の体は今も天上世界にある。ここに来ているのは魂だけだ。」
「! 私は死んだのか⁉」
「言い方が悪かったかな。正確には意識だ。覚えていないのか? お前は元の世界を離れる時、こう言っただろう。『全てを包む虚無の海よ、始まりたる我がもとへ来、我がものとなれ』って。お前はここを自由に出入りできるんだよ。体は正式に詠唱しないと無理だけど。」
いつのまにか降下は終わり、クリスは水の中に立っていた。
「前はこんなに激しくなかった。」
「むき出しの魂だからね、周りの影響を直に受ける。体で来ると少しの間空間の固定がされる。でも限度っていうものがあって、それを超えるとこれよりももっと激しい変化が起こる。」
「・・・死ぬより先に狂いそうだな。何にしても、私はここに自由に来る方法をまだ知らない。連れてきたのはお前だろう? 何の用だ。」
「いやなに、一つ自分の発言の訂正をしにね。その前に、少し落ち着きたいな。」
指を鳴らす音がして、クリスは初めの暗闇に立っていた。




