世界
「紹介をまだしていませんでしたね。神位第三列の一人、知識の神をしています、ソフィア・クリティスティルと言います。」
さらっとした、しかしとんでもない自己紹介に、ニコは目を瞬かせた。
「か、神、様・・・。」
「貴女のお名前を教えてくださる?」
「え、えっと。ニコ・サンジェルマンとも、申します。」
ニコの焦りように、ソフィアは苦笑いを浮かべる。
「私を起こすためにここを訪れたのではないのですか?」
「それは、そうなのですが。・・・もっと、こう・・・違う雰囲気の存在を想像していたので、こんな風に対面できるとは思っていなかったので。」
「昼間、クリスさんも同じようなことを仰っていましたね・・・。その、神に対する偏ったイメージはどこから来るのでしょう? そういった方は居ないと思うのですが・・・。」
ソフィアが何気なく口にした、『クリス』という単語に、ニコは強く反応した。
「あ、あの、クリスさん達はどうなったのですか⁉ イヴァーノは⁉ 父は⁉」
ニコの質問に、ソフィアはゆっくりと一つずつ答えていく。
「クリス様達は貴女が眠っていたのとは別の部屋で休んでらっしゃる。父親も同じ。イヴァーノとかいう者は、私が対処して神の森に入れないようにしたから、心配要りません。」
「そうですか・・・。ありがとうございます。」
ソフィアはニコが少し落ち着くのを待って、話し始めた。
「ここに来るまでのことは、大まかにではあるけれど聞きました。酷い目に合いましたね。」
「・・・家はまた建てなおせばいいのです。父も皆さんのおかげで助かりました。初めて住んでいる街以外の場所を訪れることができて、神を目覚めさせることまでできたのですから、悪いことだけではありませんでした。」
「それはよかった。こう言ってはなんですが、さすが神代、私が認めた者なだけはあります。」
ニコには、神を本当に起こすことができ、許されるのなら聞きたいことが有った。
「私が神代であることを知ったのは、クリスさんが私の家に家宝として伝わっていた木箱の文字を読むことが出来たからです。いざ、目覚めさせようとしても、必要なことは読むことができず、三つの特徴のうち、実際に私に出来たのは『顕現させる』ことだけでした。伝説のなかでしか語られてこなかった神代とは、私は、いったいどういう存在なのですか?」
ソフィアは肘掛けに肘を置いて目を瞑った。その姿は、悩んでいるようにも困っているようにも見えた。その姿に、投げかけたニコも目を下げる。
「教えられないと仰るなら、それはそれで結構です。今後そういった質問はいたしません。」
ソフィアは目を開けて態勢を戻す。
「いえ、教えましょう。ただし、私が話せるのは神々が眠りに着くまでのこと。それが貴女の疑問を解決するものであるかは保証できません。逆に、複雑になるかもしれない。それでもいいですか。」
「・・・かまいません。」
「そうですか・・・。なら、『世界』についての説明から始めましょう。」
ソフィアはニコに、今いる世界とは別に、三つの世界が存在することを教えた。そして、それらを創った四人の神によって二十の神が生まれたのだと。
「ついでに言っておくと、神位第何列というのは、生まれた順番というか名簿順のようなもので、決して位の高低を指したものではありません。」
「それでは、ソフィア様は三番目に生まれた神々の一人、ということですか?」
「そう。第三列が一番多くてあと四人いるは。彼らのことは追々ね。」
話を本題に戻すと、ソフィアはゆっくりと語り始めた。
二十の神は、それぞれ天上世界で自らが受け持つ地域に神の森と天蓋を創り、そこから人間達を統治した。それは直接ではなく、その地域に住む者の中から一人指名し、その者に統治させる形を取った。だがある時、神の優劣について人々が争い始めた。先程言ったように、神々の間に優劣は存在しない。幾度のなく忠告し、時として、天罰として多くの者達を霊魂世界に帰らせた神もいた。しかし、争いは続いた。そしていつのまにか理由はすり替わり、単なる領地争いと化していった。神が直接統治する天上世界でこれなのだから、神という存在が姿を全く見せない、完全に人が人を統治する地上世界の争いは、やがてその世界を崩壊させるに至るほど、苛烈だった。四つの世界は、等しく命が満ちていることで均等を保っている。世界を創った神々は、次第に四つの世界を維持できなくなり、全ては一度闇に包まれた。その闇のことを我々は『混沌』と呼んでいる。そして、そこから神々はもう一度世界を創り、混沌の名残として、『虚無の海』という四つの世界を包む存在が生まれた。それは『五つ目の世界』とも言えるが、そこには文字通り何もなく、そして誰にもそれを認識することはできない。できるとしたら、それは世界を創った神々だけ。
再び創られた世界で、神々は前と同じよう人々の中から自分達の代わりに人々を導く存在を選んだが、前回までと違ってその者を自らの傍に置くようになった。そして、神の森と天蓋に人が足を踏み入れることを許した。
しかし、世界を再び創ったことによる疲労で、神々は眠りに就くことになった。神々は、自らが選んだ神代に、自分を起こす時に必要な、そしてその者が神代である証として腕輪を与えた。




