招待
盛大に置いてけぼりをくらっている実感があるクリスだったが、今はニコとその父親の方が重要で、彼女はソフィアに言われるがまま空間の奥、街の天蓋でいうところの避難所に当たる場所に三人と共に場所を移していた。ここに通じる通路は、ソフィアが翳した壁がせり上がって現れた。
部屋の中にベットがあることにも驚いたが、それ以上に、試しに覗いた最奥の部屋で見た光り物の数々の方が衝撃は強かった。
(当てって、もしかしてあれのこといってるじゃないだろうな、あいつ。)
そんなことを思いながら欠伸をしたクリスは、落ち着いて一気に疲れが出たのか、椅子に腰かけたまま、瞼を下ろした。
レオはソフィアが即席で造った、座り心地最悪の椅子にだらっと座っていた。
「会うのは何年振りだろうな。」
ソフィアは乳白色の椅子には座らず、壁の周りをゆっくりと歩いている。
「私からすれば、眠った次の瞬間には起きていましたから、瞬きの間ほどしか空いていない気がします。」
「熟睡だな、いいことだ。」
「実際には何年経っているのですか?」
「二千年弱ってところかな。」
「・・・ようやく重い腰を上げたんですね。」
「準備がようやく整ったんだろう。」
「クリス様は、自らの特異性と重要性をあまり認識なさっていないようですね。」
「『自分のもとへ来い。そうすれば全て教える』っていう言葉に従ってるんだ。本当は逆なんだがな。色々もがいて知っていくのを見ているのも一興だと思ってるんじゃないか?」
「・・・一発殴られればいいんです。」
「その通り。でも、お前が教えるっていう手もあるぞ。」
「それを望まれるのであれば喜んで。ですが、きっとそうはならないでしょう。」
「なぜ?」
「・・・勘です。」
一周して椅子に座ったソフィアと交代して、レオが壁の周りを歩き始める。
「これからどうするよ。」
「まずはニコが目覚めるのを待つしかありません。それに、まだクリス様に例の物を渡していませんから。あなたも、明日あたり色々聞かれるのでは?」
「それはいいさ、俺は歩く辞書だからな。」
「情報の多様さでいえば、専属のタダの情報屋に近いと思いますが。」
「そうともいうかもな。」
奥へと続く道の前に立ち、レオはソフィアの方に振り返る。
「奥の部屋に、装飾品が売るほどあると思うんだけどよ、適当な物いつくか貰って行っていいか?」
「私はそういった物に執着はありませんから、お好きにどうぞ。」
「助かる。じゃあ俺もそろそろ休ませてもらうよ。」
「また後ほど。」
「ああ、後ほど。」
レオの消えていた通路を眺めたあと、ソフィアは天を見上げた。
草木も眠る真夜中、ニコは目を覚ました。
頭の右横に、昼間クリスが廊下を進むために造った物と同じ光の玉がランプの中に入れられている。
上体を起こし、自分が見知らぬ部屋のベッドに寝かされている状況に戸惑いつつも、床に足を下ろして立ちあがる。ランプを持ち、正面に見えた扉をゆっくりと開けて、先に広がる通路を見渡す。自分のいる部屋は角部屋で、右奥の壁に一つ部屋がある。
ニコは部屋を出て左に進んだ。
ゆっくり進むと、広い空間に出た。そこが、月明かりに照らされた、昼間クリスと入った空間であることに気がつくのには少し間があった。こちらに背を向ける椅子も無かったし、床に広がっていた陣は、今は無い。
通路の出口から中をキョロキョロとしていると、奥から声がした。
「起きたのですね。」
やさしそうな女の人の声。歩く音がして、その人は中央の椅子の横に現れた。
「体の調子はどう?」
うっすらと優しく微笑んでいる女性は、それ以上動かない。
「・・・大丈夫です。」
「今から部屋に戻っても眠れないでしょう。少しの間、私とお話していきませんか?」
月の明かりだけで十分明るく、ニコは足元にゆっくりとランプを置いて空間に足を踏み入れる。そこから中央の椅子に向かい、椅子の横に着いた時、女性はニコから二メートルほど下がっていた。
女性が指を鳴らすと、彼女に横に椅子が一つ現れた。そのことに驚いている暇もなく、女性に座ることを勧められ、言うとおりにする。そして女性は、中央の椅子に腰を下ろした。
「この椅子は座り心地が悪いらしくて、すぐみんな立ちたがるの。だから、だらだらと話を長引かせるようなことはないから安心して。」
その後小声で、
「座にクッションくらい付けてもいいかしら。」
と呟くのが聞こえた。




