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光芒  作者: 藍原燐
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石板

 ゆっくりとその空間に入り、二人はまず椅子と石板に近寄った。

 椅子は乳白色をしており、背もたれと肘掛けが付いている。表面はピカピカに磨かれ、角という角は全てなめらかに削られている。しかし、何の装飾も施されていない外観は、見るからに重そうである。

 床に目をやれば、椅子を囲うように円が描かれ、陣の一部となっている。

 両脇に置かれた石板には、椅子に向かって左にその世界の文字が、右に壁に書かれているものと同じ文字が刻まれている。クリスは、右側の石板の前に立ちながら、左側の石板の前に立っているニコになんと書かれているのか尋ねた。

 「一行目は、『ここに眠るは知識の神である。彼の者の意に従いて、ここに以下を記す。』と書いてあります。次の二行目から、知識の神がこの地に来てから眠りに就くまでのことが箇条書きで書かれています。その終わりに『神の目覚めを望む者よ、思うがままに彼の者の名を呼べ。正しき行いにのみその者は応える。』、最後の行に『我 神の言葉を以て真実を記す。』だそうです。」

 「・・・ありがとう。」

 クリスの硬い返事に、ニコは目の前の石板から目を離して左を向いた。目線の先には、難しい顔をしたクリスが、石板を睨むように見ていた。

 「そちらの方にはなんと?」

 少し間を開けてから、言葉を選ぶようにクリスは言った。

 「そうだな・・・。『正しい行い』っていうのはこの石板に書かれている方法のことだと思う。」

 「難しい顔をして、どうなさったのですか? 解読が難しかったとか?」

 「いや、解読に時間は掛からなかったよ。・・・神代は、例えるなら、神が眠っている部屋を開けるための鍵なんだ。でも、『鍵がある』だけでは、錠は開かない。正しくそれをカギ穴に差し込む存在が必要なんだ。その役割は私にある。この石板に書かれていることを大まかにいうと、そういうことかな。」

 「つまり、神を起こすためには私とクリスさんの二人が必要で、イヴァーノのやってきたことは、根本的に無意味だったということですか?」

 「・・・そういうこと。まあ、神代の特徴の中に『神を目覚めさせる』っていうのが大きく出ているところを見ると、一人でできることだと思われてもおかしくないけどね。」

 クリスは大きくため息を吐き、再度石板に目を向ける。

 ニコに言った通り、起こす方法は分かった。しかし、彼女に難しい顔をさせている原因はそれではない。『鍵』を差し込む役に明確に『執行者』と書かれている点である。その言葉が指す存在は、先の木箱の件から言って自分であることは分かっている。一から探さなくてもいいのは、ここに来たことが骨折り損にならなくてよかったのだが、『都合がよすぎる』という点に、彼女は薄気味悪さを感じた。

 今は悩んでも仕方ないかと、もやもやに区切りを付けて、クリスは陣の中心に向かった。彼女に付いてニコも移動する。

 そこには、半径四〇センチほどの円が描かれていた。中にはなにも描かれていない。二人は円の中には足を入れず、ガラス張りの天井を見上げた。そこには、床とはまた違った陣が描かれている。中心約四〇センチ、つまり、床に広がる陣の中央の真上にある部分だけ赤い色をしている。

 「あれってさ、もしかして・・・。」

 「色が濃いですが、貯蔵石ですね。」

 「やっぱりか。あんなに大きいのがあそこにあったら、建物のなかに大きいのが有るかもって思うかもねえ。」

 顔を下ろして床に目をやるクリスに向かって、ニコは切りだした。

 「クリスさん、腕輪を頂けますか。」

 クリスは一拍置いて鞄から腕輪を取り出し、ニコを正面に見据えた。

 「石板には、神が起きた後の神代がどうなるかは書かれていなかった。それでも、いいんだね。」

 「・・・私にしかできないことなら、それ以外の選択肢はありません。」

 「分かった。」

 ニコはクリスの前に右手を差し出す。

 クリスが腕輪をニコの手首に填めると繋ぎ目が消え、外すことが出来なくなった。

 腕輪の付いた手首をじっくりと見つめた後、ニコは指示をクリスに仰いだ。

 「私がいいと言ったら、円の中に入って。それと、中に入ったら最後、全てが終わるまで出られないから。」

 「分かりました。クリスさんはどちらに?」

 「私はあそこ。」

 そう言って彼女は椅子を指差した。

 「あの椅子は一種の目印で、本当に重要なのはあれを囲う円なんだ。」

 厚い壁を越えて、微かに馬車の音が聞こえる。レオが言っていたのよりだいぶ早い。よほど急いでいるらしい。しかし、クリスに焦りはない。

 クリスは所定の円の中に入り陣中央を向いて口を開いた。




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