血縁
クリスは木箱を丁寧に受け取って、底の文章に改めて目を向ける。本の文字を読むように自然に文字を追っていく彼女を見て、レオは問いかけた。
「分かるか?」
「・・・口に出していいの?」
「いや、今はいい。貸してくれ。」
差し出さした手に置かれた木箱を手前に持ってきて、クリス同様文字を目で追ったあと
「当たりだな。」
そう呟いて木箱をニコに返した。
何が何だかさっぱりわからないといった顔のニコとクリスの顔を見て、レオは話を戻す。
「縛りを解く方法は簡単だ。本当の、対応している神代が神を目覚めさせればいい。そうすれば自然に意識は戻る。そしてその木箱に書かれている言葉は、知識の神をさしている。」
「つまり・・・。」
「あんたが神を目覚めさせれば万事解決ってことだ。」
ニコは固まっていた。彼女自身、自分は何に対して驚き固まっているのか分からなかった。木箱の底に書いてある文字をさも読めているかのように振る舞う目の前の二人に対してか。
「大丈夫?」
「一気に喋り過ぎたか?」
自分の一族が伝説上の存在だと思っていた者達だったからか。
「もうちょっと間を挟んだ方が良かったかもね。イヴァーノが神代に目を付けたってあたりで一回休憩を挟むとかさ。」
「休憩開けに、それまでのことを大まかに言わなきゃいけなくなるだろうが。ならいっそ一気に言った方がスムーズだろう。」
それとも、そんな重要なことをさらっと口にしたレオにだろうか。
思考が無意味に二周しかけた時、ニコは二人に重要なことを話していないことに気がついた。
「あの・・・レオさん。」
「おお、直ったか。どうした?」
「あの、その神代の力は、サンジェルマン家の血を引く人間でなければ持っていないのですよね?」
「おう、絶対条件だな。」
「このことは知ってらっしゃるのは町の中でも一部の方だけなんですが・・・。私と父の間に血の繋がりはないのです。」
「何だと・・・⁉」
「養女ってこと?」
「いえ、そうではないの。私の本当の両親は、私が十歳になる前に亡くなりました。家出同然の結婚だったらしく、元々住んでいた町には親戚は一人もいませんでした。母方の親戚探しは壊滅的で、やっとのこと見つけたのがサンジェルマン家出身の父の妹夫婦でした。その二人が住む町に私がやってきて、今に至るのです。お世話になるようになって一年と少し経った頃、当時から金遣いの荒かった父を置いて叔母さんは家を出て行きました。町の方々の殆どは、私が父の隠し子で、その子供との生活に耐えられなくなった末の離婚、と勘違いしてらっしゃる様なのですが。」
「じゃあ、なんで本来なら叔父さんである人を父って言ってるの?」
「始めのころは叔母さん叔父さんと呼んでいたのだけで、叔母さんが出て行った頃に間違って『お父さん』と呼んでしまったことがあったの。その時、怒ったり嫌がったりせず当たり前のように返事をしてくれのがきっかけで。」
話をじっと聞きながら、レオは思考を巡らせていた。
(ニコと父親の関係を知っていれば、父親に用はないはずだ。イヴァーノがなぜ彼を傍に置いているのか。いざという時の人質、あるいは先に父親で試してみる気か。後者だったとしても、この木箱の中身がなければ完全に起こすことはできない。第一、木箱を持つ一族を五つも見つけだした男が二人の関係を知らないのはおかしくないか? まだ何かがあるはずだ。チャックの記憶の中にヒントはないか・・・・。)
自分のものではない記憶を再度振り返った時、ごく最近の記憶に気になる単語がいくつも飛び交う会話がチャックとイヴァーノとの間でやり取りされていることに気がついた。
『死者』『生き返る』『蘇生』『条件』『伝説』。
「!」
突然立ち上がったレオとはずみで倒れた椅子の音に驚いたクリスとニコは、顔を若干青ざめたレオを見上げた。
「今何時か分かるか。」
レオの質問に答えたのはニコだった。
「三時前ぐらいだと思います。」
「クリス、町で買った地図は持ってるな。出してくれ。」
倒れてしまった椅子を元に戻し、板の上に地図を広げる。相変わらず緑の点が目立ちそれを、レオは真剣に見つけながら、今度はニコに質問した。
「この街はこの地図のどのあたりか分かるか。」
ニコは迷わず大陸の東にある楕円形の湖の下、指の第一関節ほど空けた場所を指差した。その場所のすぐ上には、緑の点があった。




