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光芒  作者: 藍原燐
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会遇

 アン・カーバインがクリス・クロフォードと出会ったのは、二十四歳の時だった。

彼女は軍の学校を卒業したばかりの新人で、上官に呼ばれて訪れた部屋でガチガチに緊張していた。クリスは眼鏡をかけた役人の男と見るからに腕の立つ軍人二人に連れられてそこへやってきた。役人の男が上官と別室へ移り、部屋にはアンとクリスが残された。貴族か王族の子供かとアンは思っていた。しかし、二人の軍人がクリスに向ける視線は、警護しているというよりも監視しているようだった。

 数分後、役人の男と上官が戻ってきた。軍人と子供が役員と共に部屋を出ていったあと、彼女は上官から一枚の辞令を渡された。そこには、彼女が四月からクリス・クロフォードという人物の監視及び保護の任に就く旨が書かれていた。その時はまだ一月末で、そのことを尋ねると、相手方の準備がまだ不完全で完了するのが四月なのだという。訳が分らないことだらけだったが、彼女は命令に従うほかなかった。

 四月、指定された場所にあったのは、十mの壁に囲まれた小さな宮殿だった。そして、そこに居たのは、上官の部屋で会った子供、クリス一人だけだった。

 その日から、十年に及ぶ二人きりの生活が始まった。

 クリスは十三歳に見えないほど落ち着いていて近寄りがたく、アンは必要以上に近づくことを避けていた。そんな二人に転機が訪れたのは、次の月から始まった月に一度の定期面会という名の尋問だった。尋問時、アンはクリスと役人の居る応接室に入ることはできない。その代わりにこの前の軍人二人がその部屋に入るのである。

 一時間ほどして三人が帰った後、応接室に彼女が入ると、クリスは手前の椅子に座っていた。寝ているのかとアンは思ったが、椅子の横まで進むと、クリスは正面の壁に飾られた肖像画を眺めていた。つられてアンも絵に目を向ける。王冠を椅子に載せ、赤い生地に金の刺繍がされたマントを羽織、王笏を持って横を向いている。

 「ルドルフ・リックウッド、アボリア王国初代国王。現国王の高祖伯夫、つまり曾祖父の父親の兄。政治にかかりっきりで結婚するも子供はできず、死後は弟のフリードが二代目国王に就任。死因は毒蜘蛛に刺されたからだとか暗殺されたとか、色々言われていますよね。」

クリスの声は怠惰だが、絵を見つめる目は真剣そのものだった。

 「あまりにも突然だったそうですからね。無理もありません。」

 クリスは肘掛けに肘を置き、頬杖をついた。

 「この絵は元々謁見の間に置かれていたのをフリードがこの建物に移動させたんです。」

 しかしルドルフの肖像画は王の間に今もある。

 「絵は今も王の間に置いてありますよ?」

 「この絵のルドルフは王笏を持っていますよね。今現在王の間に飾られている絵には王笏は描かれていません。フリードがわざわざ同じ絵師に王笏が描いてない物を描かせたんです。」

 「なぜそのようなことを?」

 「ルドルフが持っていた王笏は、彼が青年期のころ遊びで入った洞窟の奥で見つけた物で、見つけたその日の晩に彼の夢に神が現れ彼に王になるよう示したとせれています。ですが、ある時期を境に王宮から姿を消し、自らが正当な王であることを示すためにもフリードは血眼になって王笏を探したが見つからなかった。そして最終手段として、それが描かれている唯一の絵を隠すことにした。」

 アンはすべてのことが初耳でどう返せばいいかわからなかった。しかし、どこでそのようなことを知ったのか疑問にも思った。

 「どこでそれを?」

 クリスは頬杖をやめ、背もたれに背を預けた。

 「この建物に備え付けられている図書館です。あそこに置いている本、面白い本ばかりですよ。ここを利用していた三代前までの国王の日記だとか、国宝級の物がわんさかあって。ここに私を連れてきた人たちはそういうことを全く知らないんでしょうね。」

そういうとおもむろに立ち上がって伸びをし、アンの方を向いた。

 「眼鏡をかけた役人、あの人カルロスっていうですけど、あの人に頼んで、庭を作る道具一式を持ってきてもらったんです。今日の残りの時間は全部それに使おうと思っているのですけど、手伝ってもらえませんか?」

 「・・・わかりました。」

 そのあと二人で玄関に無造作に積まれ道具や土を移動させながら、アンは自分が先ほどここに来て初めてクリスと会話らしい会話をしことを理解した。


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