天罰
レオは恐怖を露にした男の顔に満足したのか立ち上がり、声を元に戻して話を続けた。
「それにお前らは何か勘違いしてる。確かに神術は召術しか使えない人間からすれば脅威だが、ぶっちゃけ詠唱しなくていいだけだろ。手を翳さないといけないことに変わりはないんだから。二人を襲撃する際の注意事項もそこらへんだろう、どうせ。だがそこが間違ってる。・・・まあ、お前らやお前らの上司の神術に対する知識も所詮その程だってことだけどな。」
「どいう、ことだ。」
少し悩む様子を見せたあと、レオは男の質問に答えてやることにした。悩む仕草自体遊びだったかもしれないが。
「召術っていうのはこの世界に住む人間の一般教養の一つだ。どんなに馬鹿でも基礎さえ知っていれば老若男女誰でも使える。しかし神術は違う。あれに基礎というものはない。あの力は想像力と直結している。造りたい物や起こしたい事象を想像することができればいい。そして、お前らに欠けている情報がいくつかある。ひとつは既にお前達は目撃してる。」
「っ!」
「そう、神術は手だけじゃない、四肢の何処からでも陣を展開できるんだよ。そして、もう一つは神術、というよりあの方の特徴の一つだな。・・・四肢を介さず、特定の言葉を発することで術の展開や発動を行うことができるんだよ。」
言葉を失った男に、レオは構わずあることを尋ねた。
「一つ聞いておきたいことがある。・・・彼女の、ニコの父親はどうした。」
その質問とレオの目、自身の本心を告げた時と同じ目を見て、男の顔は恐怖を越える、絶望に染まった。
それは小さな声だった。
万物の創造主
四界に満ちる数多を司る者達よ
大いなる意志のもと
汝らの領域を汚すものを罰せよ
直後、男達の頭上に雷が落ちた。
既に片足を出入り口に続く廊下に出していたチャックと、クリスの両手首を掴んでいた男の上には落ちなかった。しかしクリスは動揺し掴みが弱くなったことを見逃さず男の両腕を払い解き、瞬時に傍から離れ、そのままニコの傍まで行き、彼女の肩を掴んだ。
我 神命のもとに生きる者なり
それだけ言うと、クリスはニコの肩から手を退けて未だに立っている二人の男の方に向き直った。クリスの手首を掴んでいた男は、クリスの方に体を向けながらゆっくりと一人茫然としているチャックの傍に近づいて行く。仲間が明確に見えるようになって正気に戻ったのか、腕を震わせながらチャックは口を開いた。
「何を、した。」
「単純なことさ、天罰を落とした。まあ、彼らに落ちたのは天罰のなかでも軽めの電気ショックだけど。・・・どうする? ジェフさんは何もしてないから当然だけど、私達もついさっき除外されるようにしたから好きなように動けるし落とせるんだけど。」
「・・・クソッ!」
「ヘタを打ったな。こういった行動に出なければ、私達はニコを帰すほかなかった。半日もすれば自然に手元に手戻ってきたのに。」
「・・・なにかしら動くと思っていたのか。」
「いや、何時でも会いに来られる範囲に私達がいることを示すことを兼ねてニコを街に誘った。あんた達の行動はいわば予想外だった。でもこの状況下では結果オーライだけど。」
強く握られている両拳が震え、全身から怒りが滲み出ている。この場合、自分に対する怒りなのかクリスに対する怒りなのか聞いてみたくもあったが、クリスはこれ以上火に油を注ぐ真似は止そうと、代わりに選択を再度迫った。
「どうする、私達を襲って自動的に天罰を受けるか私の力で受けるか。退散するのもありだ。後を追うようなことはしない。」
クリスを険しい顔で睨みつけたまま、吐き捨てるようにチャックは男に告げた。
「・・・行くぞ。」
出入り口に向かって歩き出したチャックの後を、男もクリス達に注意を向けながら追った。
完全に姿がみえなくなったことを確認して、クリスは無意識に入っていた力をその場に座り込んで抜いた。ニコはその場に崩れるようにしゃがみ、床に尻をついた。
「はぁ、疲れた。」
「・・・。」
クリスのため息交じりの言葉にニコは何も言わなかった。クリスとしても反応を期待しての言葉ではなかったが、ニコの動揺を強く感じた。そこへジェフが急いで彼女らの傍まで走ってきた。
「怪我はありませんか。」
「大丈夫です。掴まれていた手首もどうともありません。」
「・・・大丈夫です。」
「何か飲める物を持ってきましょう。ここでじっとしていてくださいね。」
そう言うと、二人の返事を聞くことなくジェフは奥の廊下に向かって走っていってしまった。
残された二人の間には沈黙が流れた。




