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光芒  作者: 藍原燐
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拘束

 三十分は経っただろうか。ニコは飽きてしまったのか満足したのか分からないが、像を見て回ることをやめ、ジェフと談笑している。クリスは壁に沿って一周回ったあと銅像の足元に胡坐をかいて、本に解読した文章を書き込んでいる。

 (よし、書けた。)

 全てを終えたクリスは立ち上がり、本を鞄にしまってニコ達の元へ向かった。

 「思考に耽ると時間を忘れちゃって。一緒に見て回ろうって誘ったのは私なのにほったらかしにしてごめんね。」

 ニコはジェフが持ってきてくれた椅子から立ち上がりクリスに向き合った。

 「いえ、ジェフさんから見るだけでは分からない、色々なことを教えていただけたので私はとても満足しています。クリスさんの方はもういいのですか?」

 「ええ、こっちは終わった。まだ分からないことはあるけど、満足した。」

 「まだレオさんが迎えに来られるのには時間があるでしょうから、クリスさんもジェフさんのお話をお聞きになったらどうですか?」

 「実はさっき聞かせてもらった話の中に気になる語句がいくつかあったんだ。教えてもらえますか?」

 ジェフはもちろんと了承したが、同時に疑問も投げかけてきた。

 「私には、貴女が壁の文章を読んでいるように見えたのですが、何をなさっていたのですか?」

 壁を一周している時、彼の前も一度通った。その際椅子で隠れた文字もわざわざど退いてもらってみていたのだ、疑問に思わないわけがない。その時聞けばよかったのだが、ジェフはクリスの集中のした顔を見てその場では聞くのを止めていた。

 入口の廊下から足音がした。

 「その質問はまたの機会でいいですか? もうひと組訪問者が来たようなので。」

 クリスの言葉に、全員が入口から続く廊下に一斉に目を向けた。するとそこから黒服を着た男達四人と、それらに守られるようにチャックが姿を現した。彼を認めたジェフは椅子から立ち上がり、二人の前に立った。チャック達は迷うことなく三人の元にやってきた。

 「お久しぶりでございます、チャックさん。イヴァーノさんとご一緒ではないのは初めてですね。」

 前に立っていた黒服二人が横に退き、チャックはジェフの前に足を進めた。

 「抜けられない仕事を抱えていましてね、今回は私だけで来ました。と言っても、今回は寄付の話をしに来たのではありません。」

 ジェフを含めた三人はいつの間にかチャックが連れて来た黒服の男達に包囲されていた。うち一人はクリスの背後に異様に近づき、彼女の動きを全神経を使って注視している。後ろから突き刺さるそれに、クリスは眉を顰めた。ニコも流石に何かがおかしいと気付いたらしく身を小さくしている。

 男達の様子にジェフも苦言を呈す。

 「天蓋に詳しいあなた方が、なんの真似です。」

 「私たちは御二人の御迎えにあがっただけです。イヴァーノ様にクリスさんのことを申し上げたら、是非屋敷に招待しろと仰ったので。」

 チャックの言葉にクリスの彼を見る目が厳しくなる。当の男は涼しげな顔でそれを受け止めている。無意識のうちに腕が動いていたのか、右手首を後ろの男に掴まれてた。男はそのままゆっくりと左手首にも手を伸ばす。

「チャックさん。」

ジェフの強い口調も、彼には痛くもかゆくもないらしい。

 「天罰は、身体に害をなす行為に執行されるものですから、手首を掴んだくらいでは起きませんよ。」

 どうにかしようとすれば出来なくもないが、他の三人が残りの二人にどう動くか分からないのと同時に、天罰がクリスに落ちる危険性もある。しかし、自分達に対する印象を悪くしてでも確保することを最優先にした彼らについて行って良いわけがないのは分かり切っている。ニコもチャックを見る目が当初とは明らかに変わっている。

 (レオを行かせるんじゃなかったかな・・・。何かないか、何か⁉)

 周りを観察し始めたクリスに、チャックも男達も一瞬動揺したが、すぐに無駄なあがきと思ったのか特に注意しなかった。

 「屋敷に戻りましょうか。ではジェフさん、また近いうちに。」

 苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、ジェフにはどうすることもできなかった。クリスは引っ張られるような形で歩きながら、この状況を打破する方法を探し続けた。

 壁の文章と床の陣を見回すうち、彼女にある考えが思い浮かんだ。しかしそれは、成功するか分からない、ある意味命がけの方法だった。


 男達が落ちたのは直径七十センチほどの人がすっぽり収まる丸い穴で、深さは三メートルある。ぴったりの為、腕を上げることも座ることもできない。出来ることと言えば、上を見上げることぐらいである。レオは自分の最も遠くに立ち、屋根の淵からクリス達の入った建物の見ていた男の落ちた穴の傍にしゃがみ込んでその中を覗いた。男は特にパニックになっている様子もなく、逆に服のことは度外視して肘で土の側面を削って行動範囲の拡大を進めようとしているようだった。成果が出るかは分からないが。

 「以外に粘るね。そういう諦めない奴は嫌いじゃないが、今回は別だ。」

 レオは地面に手を当て、数秒して離した。少しずつではあるが削れていた土は突如として岩のように硬くなり、削れなくなってしまった。男は舌打ちし、レオが覗いている上を見上げた。

 「何が『死ぬなよ』だ。こんな穴に落とされたくらいで死ぬか。」

 「いやいや、そうとも限らないぞ? お前らが落ちた周辺を硬化したことに加えてここは若干傾斜してる。これからの天気は知らないが、雨なんか降ってみろ。地面に吸収されない雨はこの穴に流れてくるし、上から降ってくる雨は言わずもがなだな。下手すると溺死するかもしれないぞ? 雨が降らなかったとしても、立ちっぱなしで水分も何も補給できないんじゃあどっちみち一緒だ。」

 「・・・クソ野郎。」

 「人を殆ど殺すつもりで襲撃しといてよく言うよ。・・・心配すんな、ここはお前らのご主人様の住んでる敷地の一角だ。端の端だがな。運が良ければ使用人か誰かが見つけてくれるさ。」

 「こんなところで俺に駄弁ってていいのか。仲間はここに居る奴らだけじゃないんだ。今頃女共はこっちの手にあるかもしれないぞ。」

 男の精一杯の強がりをレオは鼻で笑ったあと、今日一番、いや、今までで一番冷酷な声で答えた。

 「あまりあの方を馬鹿にするなよ。俺は暗にではあるが手加減するようあの方に言われたからお前らを始末しなかっただけだ。本来ならあの下衆な言葉だけでも晒し首にしてやりたい気分なんだよ。」

 その声は本気で、男は背中に嫌な汗をかくのを感じた。


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