寄道
「父が言っていた得意先とはそちらだったのですね。」
「はい。ブルーノ様は臨時収入でもう少し街を回られるそうなのですが、その間のニコ様ことを心配なさっていたので、旦那さまがこの際貴女様を招いたらどうだと提案なさいまして。この度御向かいに上がりました。」
「えっ、私をですか?」
「はい。」
チャックは、こちらで向こうでいる物は全て用意する、今日中には街へ向かいたい旨をニコに説明する。それにニコは、突然のことで頭が回らないのか昨日の今日だからかほぼ流されるままといった印象だった。
一時間後に迎えに来ることで全てを話し終えたチャックにクリスが話しかけた。
「街へ行くなら私達も連れて行ってくれませんか? 旅をしている者なんですが、この町から次までの足の確保がまだできていなくて。無理なら結構なんですが。」
クリスの思わぬ提案にチャックはあからさまに嫌な顔をしたが、一瞬でそれを消した。
「構いません。ですが、街に入ってすぐに降りていただくことになると思いますが、それでもよろしいですか?」
「送ってもらえるだけ万々歳です。ここから歩いてはきついですから。」
「・・・それでは、そちらも一時間後に。」
チャックが部屋を出ていった後、クリスも準備を理由に病院を出た。外には玄関横の壁にもたれてレオが立っていた。
「二時時間後、町をでることになった。」
「・・・そりゃまた突然だな。」
宿に向かって歩きながら二人の会話は続く。
「ニコがあの男の案内で父親のいる街まで行くことになったんだ。それに便乗することにした。楽に進めることに越したことはない。」
「俺はお前が決めたことに従うだけだ。ただまあ、火事のことは少し気になるがな。」
「あれはニコや彼女の家族を狙ったものだった。標的である彼女がこの町を離れる。次に何か起こるとすれば彼女が行った先だろう。」
「それが急に出発を決めた理由かな?」
クリスは歩きながら少し俯いて呟いた。
「・・・昨日の夜会ったばかりの人のことに首突っ込みすぎかな。」
「お前のこの世界での最終目標は〈声〉の正体と会うことだ。だが全くヒントが無い中で探すのは難しい。」
「だから?」
「思うことしたいことをしろよ。この旅に順路なんて存在しない。」
「・・・ありがとう。」
二人の会話はそこで終わった。
四人が乗り込んだのは、二頭の馬が引く四輪馬車だった。進行方向を向いて右側にニコ入り口にチャック、二人の正面にそれぞれクリスとレオの順番で座っている。外の景色はあまり変わらず、木と畑と草原の中を一時間ほど走り続けた。家がぽつぽつと見え始めたころ、クリスとレオは馬車を下ろされた。二人は残りの二人を乗せて去っていく馬車を見えなくなるまで見送った。
クリスが、荷物が入ったトランクを持とうとすると、横から手が伸びレオに先に取られてしまった。
「荷物は俺が持つ。元々移動手段は俺になるはずだったんだ、ここから馬になったって仕方ないから、それぐらいさせろ。」
唯一手元に残った鞄を両肩にかけながら、クリスはぐちぐち文句をたれる。
「これじゃ従者か家来みたいじゃん。」
「実際そうだよ。だから気にするな。俺はやりたくてやってるんだから。」
なおブーブー言っているクリスを置いて先を歩き始めたレオは、正面を向きながら後ろを歩くクリスに話を振る。
「中心街から離れた住宅地ってとこだな。街中までどれぐらいあるかねえ。」
ダラダラ歩くのをやめたクリスは遠くを見るような目をして自らの聴覚に集中する。十秒もしないうちにそれを解くと、
「人の雑踏はそんなに遠くない。一キロもないんじゃないかな。」
とレオに返答した。
「じゃあ歩いて十分ぐらいだな。宿や店に入る前に二つ三つほど砂金を現金に換えたい。現物支払いなんことができたのは小さい町だったからが。でかいところでそんなことはしたくない。」
二人でそれらしいものがないかあたりを見渡しながら歩いていると、壁一面を蔦に覆われた一軒家が曲がり角に建っていた。よく見ると、玄関横の立て看板に「買い取り中」と書かれている。前庭に植えられた何本もの低木のせいで中を覗き見ることは難しい。レオはクリスに外で待っているよう告げて、トランクを持ったまま店の中へ入っていった。
店の中は外見に反してすっきりしていた。壁に棚が取り付けれ、その上に高級そうな鞄が並べて置かれている。床の中央に置かれている大きな机の上には小物や宝石が規則的に並べられている。質屋というより雑貨屋のように見えた。
扉に付けられたドアチャイムを聞いて、正面カウンターの奥から老婆が現れた。手短に用件を告げると、レオは腰に付けていた巾着から三粒ほど砂金を取り出して老婆の前に置いた。鑑定を終えると老婆はカウンター下に身を屈めて金貨を二枚カウンターの上に置いた。レオはその場で金貨一枚を銀貨に両替した。




