火事
物が燃える臭いがする。火は見えないが正面から煙が上がっているのが見えた。二人は立ち止まることなく煙が見える方向に向かって走り出した。夕方の店主の説明によれば、金貸しの家の前には他の家よりも多くの木が植えられている。家が燃えているのならそれらの木に燃え移ってもおかしくない。それだけで済めばいいが、他の家の庭にも燃え移るようなことになれば被害は家一軒ではすまなくなる。一〇〇メートルほど走ると火が見えた。さらに五〇メートルほど走ったところで、目的の場所に到着した。駆け付けて来た住人達は各々手を前に突き出して陣を展開し、そこから水を噴射して何とか消火しようとしている。その甲斐あってかどうか分からないが、庭の木には全く燃え移っていなかった。しかしよく観察すると、火の子は木に降りかかっている。しかし葉に火が着くことはく、焦げを付けるだけで火自体は消えている。それはまるで家以外は焼くなと命令されているようだった。
クリスが他の者たちと同様に消火活動を開始しようした時、正面で人が揉み合っているのが目に入った。
「行かせてください‼ 今ならまだ間に合います‼」
「そんな訳ないだろう‼ 目当ての物を見つけ出す前にお前が窒息死しちまう‼。」
「家宝だろうがなんだろうがここは耐えろ‼」
どうやら家の中にある家宝とやらを取りに入ろうとしているニコを抑え込んでいるらしい。クリスが三人の元へ行こうとした時、左肩を誰かに掴まれた。振り返るとそこにはレオが立っていた。
「この炎、普通じゃないな。」
クリスはレオの手を退かそうとするが予想以上に強く掴まれていて手から逃れることができない。彼女は仕方なく口を開いた。
「ええ、どんなに火の子が降っても庭の木に燃え移らない。」
「おそらく術でつくられた火が原因だろ。ところで、前の三人は何をやってるんだ?」
「・・・家宝を取りに入りたい住人を町の男が必死に止めてるの。」
「そうか。」
そう言うとレオは三人の元へ走っていく。その後を慌ててクリスも追う。レオはニコの肩を掴み意識を自分に向けさせると、家宝が置いてある場所やそれが入ってる入れ物などについて尋ねた。一通り質問を終えると、レオはニコの肩から手を退け今度はクリスの方を向いく。
「俺は今から中へ入る。お前は俺が出てきてからすぐに火を止める方法を考えておけ。力を出し惜しみするなよ。」
言いたいことだけいうとレオは家の中へ走って行ってしまった。
「ちょ、くそっ‼ 言い逃げかっ‼」
扉を突き破って中に入ると、中は灼熱地獄だった。熱風で服を通り越して肌も肺も焼ける感覚がする。しかし実際には彼の服は燃えず、ましてや皮膚は焼けていない。
(よし、予想は当たったな。)
レオはニコから聞いた家宝が置かれている二階に上がるため、正面に伸びる階段を駆け上がった。二階に上がると正面に一つ左右に一つずつ扉がある。そのうちの右側の扉を開けて中に入った。そこはまだ火の海とは化してはいなかったが正面の部屋と接している壁が火に覆われている。急いで奥に進み、正面にある窓の横に置かれた箪笥の一番下の引き出しを開けて目的の物を探した。右端に手の平ほどの長方形の箱を見つけ、それを持って立ち上がり、入ってきた扉の方を向くと、そこは火に包まれていた。自身が燃えないことは分かっているが、それでも燃え盛る扉を開ける気は起きない。レオは後ろの窓を見た。ガラスが一枚はめられているだけの簡単な窓。はめ殺しではない、人一人通れそうな大きさの窓。レオは迷わなかった。左足を一歩下げ、窓に向かって走り出す。
なんとか消す方法を自らの頭の中でまとめることができたころ、クリスは正面二階の窓に人影を見た。
(レオか・・・!)
一瞬影が消えたかと思うと急激に大きくなりそれは窓を突き破った。彼は両足を開き気味で地面に着地し、そのまま前方に何回転かすると止まった。その光景にその場に居たクリスを含めた全ての人間が呆気にとられていたが、飛び降りて来た人物が顔を上げて叫んだ。
「クリス‼」
現状を把握した彼女は右腕を勢いよく前に突き出し、掌を前にしてそれを左から右へ力強くそして勢いよくスライドさせた。すると家を囲うように四枚の陣が展開する。続けてクリスが正面に掌を突きだすと、四枚の陣に蓋をするように家の上にもう一枚陣が展開した。
誰かが呟いたのが聞こえた。
「神術だ・・・。」
火は瞬く間に小さくなり、ついには消えた。




