両替
そこは畑に囲まれた小さな町だった。それぞれの家が低い塀に囲まれ、建物も低い二階建ての三角屋根をしている。そして木が多い。
二人はとりあえず水分補給も兼ねて腰を下ろせる店を探すことにした。しかし町に入って五分ほど歩いたがそれらしい建物も店も見当たらない。そこへひとりの男が通りかかった。
先に動いたのはレオだった。
「すまない、少し聞きたいことがあるんだが、今いいか?」
レオが口にしたのはクリスがよく知る地上世界での音声言語と同じだった。違った場合のことを一瞬考えて話しかけられなかったクリスとしては、安心半分驚き半分といってところか。
男はレオの全身をじっとりとした目で観察しながら言った。
「ん? 見ない顔だな。旅の人、にしちゃ荷物が少なすぎるが。」
レオは男の目を気にすることなく答える。
「急いで家を出てきたものでね。」
そう言いながら彼の眼は斜め後ろに控えているクリスに向けられ、それに従って男も彼女に目を向ける。そして合点がいったという顔をした。
「訳ありか。まあいい、何が聞きたいんだ。」
クリスとしては男がしているであろうとてつもない勘違いを今すぐに解きたいところだが、苦虫を噛み潰したような顔をするだけで堪えた。
「一日歩き通しで少し休みたんだ。この町に休憩できる店はないか?」
「この道をまっすぐ行った曲がり角に小さい飲み屋がある。酒しか出さねえ店だが、水くらい出してくれんじゃねえか。」
「ありがとう、邪魔して悪かったな。」
「どういたしまして。精々がんばれよ。」
男は片手を上げてクリス達が来た道を去って行った。その後ろ姿を先ほどと同じ様な顔で見送ると、そのままレオを睨んだ。
「なに、あの勘違いを誘発する説明の仕方。」
「とっさに思い浮かんだのがアレだったんだ。それに別にいいだろう、自分が今どんな顔をしているのかいまいち俺には分からんが、お互いどちらかというと整った顔しているんだし。」
「・・・そういう問題じゃないんですけど。」
クリスはため息を一つ大きく吐いて、顔を元に戻して続ける。
「教えてもらった店に向かおう。ついでに今日泊まれる場所も探せると良いんだけど。」
「小さい町にある店だ。ここの住人のたまり場になっているだろうから、そういったことも行けば聞けるんじゃないか。」
二人が言われた通り道を五分ほど進むと、[フェルリ]と書かれて看板が掛かった店に辿り着いた。看板がなければ周りの家と全く見分けがつかない二階建ての建物で、窓から漏れる光が営業していることを示している。迷うことなく中に入ろうとするレオの袖をクリスが引っ張った。
「ここまで来て何なんだけど、私この世界のお金一銭も持ってないよ?」
若干引きつった笑顔でクリスが言ったことにレオはなんだそんな事かという顔をして答える。
「心配するな、俺は持ってる。」
「つい何時間か前までただの棒だったのに?」
レオは首にかけていた赤い石を指差した。
「これを売ればいい。お前をここに運んだ術はここに貯めてあった力を基に発動した。今は力も何もない石だが、再度貯めることはできる。ここでの休憩に今日宿代、これからの旅で必要な物一式買ってもお釣りがくるくらいの価値は有る。」
クリスは掴んでいた袖を離し、石をマジマジと見た。
「入るぞ。」
先を行くレオの後に続いてクリスも中に入る。中はうるさくもなければ静かでもない話声で満ちていた。奥にカウンターがあり左端に一人座っている。それ以外のテーブル席は先客で埋まっている。二人は迷わず奥のカウンターに向かい、席に着いたとほぼ同時に店の店主らしき男が話しかけてきた。
「注文は。」
「その前に悪いんだがこのペンダントを金に換えられる場所を教えてほしいんだ。なんならあんたが換えてくれてもいいんだが。」
そう言うとレオは、ペンダントを首から外し店主に見せた。
「この色に丸み、貯蔵石だな。」
「御名答。わけあって今一文なしでな。これが金に変わらないと何もできなんだ。」
「悪いが俺では無理だな。家の蓄えが空になる。この店を出てまっすぐ進んだところにひと際木が多く植えられている庭がある。そこに住んでる男が質屋みたいなことをしているよ。」
「助かった。」
レオはクリスにここで待っているよう言った後すぐに店を出て行った。彼女としてはレオを待っていたい気持ちもあるが、喉の渇きが限界に近付いているのもあって水を一杯だけ頼んでそれをちびちび飲みながら彼が帰ってくるのを待つことにした。




