欲しいもの。
『瑞季のそのカバン、可愛い!どうしたの?』
親友の香織がカバンを指差して言った。
『あー、えーっと貰ったんだっけな?』
そんなあやふやな返事をすると香織はまたか!と笑っていた。
瑞季の周りには男からの貢物であふれていた。カバン、キーケース、ポーチ、アクセサリー…今日持ってる物の半分以上が貰ったものだった。もちろん瑞季がねだったわけではない。いつも、自然と増えていく。
だけど、本当に欲しいものは一つもなかった。
香織とのランチを終え帰宅して部屋で一息つきながら部屋を眺め香織に今日言われた事を思い出す。
『誰に貰ったんだろう…』
今まで自分で買った物だと思って使っていたものもよくよく思い出すとプレゼントされたものだったりする。
これも、あれも…気付けば部屋には沢山の人の思い出が溢れていた。瑞季の部屋のほとんどは男からの気持ちでできていた。
引き出しをあけると、箱に入ったままの石鹸があった。手に取ってみると海外のお土産でもらった物だった。一体何年前に貰った物だろう、確か元彼がくれたような気がする。
瑞季は初めて石鹸の箱を開けた。
懐かしい香りがした。
沢山の人と出会った分、忘れて行く思い出の方が圧倒的に多いと痛感した。
『いちいち覚えてられないよ…』
そう言って瑞季は石鹸を持ち風呂場に向かった。