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ザクロに連れられて赤紫の霧に包まれた村に戻ると、早朝だというのににぎやかだった。宴の準備が進められていたのだ。あたしは忙しく駆けずり回る村人たちの中から目的の人物を探し当てると、すぐに怒りを爆発させてその思いを台詞に込めた。
「村長っ! よくもあたしを生け贄にしてくれたもんですねっ!」
「おお、戻って来たのかい。無事で何よりだ」
「無事って……酷いじゃないですかっ! あたし、本気で死ぬんじゃないかって思ったんですよっ!」
あたしが怒りを込めて抗議していると言うのに、村長はとても涼しげに微笑んでいる。そして中年の彼の視線は、あたしの後ろに立つ大柄の青年に向けられた。
「やはり彼女が君の探していた娘だったのかい?」
「えぇ」
照れくさそうに頬を掻くザクロ。そんな彼に村長は話を続ける。
「それは良かったな。こちらに顔を見せたという事は、適性もあるとみてよいのかな? うまくやれそうかね?」
「この地域の呪縛を破るには充分な力は宿してるし、問題ないでしょうね。相性も悪くないはずなんだが、今のところ片想いのようで」
軽い口調で冗談めかし、ザクロは肩を竦めて自嘲気味に笑う。
(ん……あたしはどこから突っ込んだら良い?)
ザクロの何気ない台詞には気になる単語がたくさん並んでいた。どこから詳しい説明を求めたらよいだろうか。
あたしがむすっとしたまま視線をザクロに向けていると、彼は気の良いお兄さんのような調子で話しかけてきた。
「何がそんなに不満なんだ?」
「村長も共謀者だったのね。――んで、みんなであたしを『龍の繰り人』の適性があるかを試していたってことなんでしょ? ひどいわ、黙ってるだなんて」
責めるような口調で告げるあたしに返してきたのは、ザクロだった。
「そう腐るなよ。――それに、君は本来ならこの村か、少なくとも俺の支配する地域で育ち、もっと早く出会うはずだったんだ」
びくっ。
あたしはザクロの話に耳を傾け集中する。自分の出生についてに触れたからだ。
「何らかの因果で君は別の町に引き取られることになり、今やっと巡り会えたんだぜ? 地域の龍神ってのは他の地域に行くには『龍の繰り人』の力が必要なわけで、俺は君に会いたくても叶わなかったんだ。そういう態度をされると、正直俺は寂しい。寂しくてたまらない」
「別にあなたが寂しいかどうかなんてあたしの知ったことじゃないわよ。――そんな話より、ザクロさん、あなた、あたしの両親を知っているの? あたし、一人ぼっちじゃないの?」
施設で育てられ、あたしはずっと一人ぼっちなのだと思い続けてきた。あたしを保護したとされる地域の龍神なら、家族のことを知っているんじゃないか、そう思ってここにやってきたのだ。
あたしは不意に話題に上がった出生の謎に、ザクロの前についと出て訊ねる。彼の表情が曇った。
「あ……期待しているところ言いにくいのだが、君のご両親はもうこの世にはいない。君に『龍の繰り人』の力が宿っているのに気付き、余計な脅威からしばし身を隠すために封印の儀式をしていたところ、獣に襲われてなくなったんだ。君の力を善しとしない他の龍神が邪魔をしたのさ」
(他の龍神が邪魔を……?)
口を噤み、項垂れるあたしの頭をザクロの大きな手のひらが包み込む。
「アンズ。俺は君の両親を守ることができなかった。だから、せめて君を守りたい。万が一『龍の繰り人』の力が不足していても、そうするつもりだった。結果としてこの土地に君が縛り付けられることになろうとも、俺の知らないところで一人寂しく死なせるよりは良いと思ったんだ」
「ザクロさん……」
「今の君には、充分に『龍の繰り人』としての素質が備わっていると思う。きっと他の龍神たちと対話し、力を借りることができるだろう。そして俺をこの土地の呪縛から解き放ってくれるだろうとも、な。――アンズ。急な申し出になるが、『龍の繰り人』となって他の龍神たちの力をまとめる手助けをしてくれないか? 他の龍神が君を排除しようとするならば、全力で守り抜くことを誓う。だから――」
重々しい口調で告げるザクロ。
あたしは顔を勢いよく上げると、ザクロの手を払って真っ直ぐにらんだ。
「長ったらしい理由なんていらないわよ。あたしはこそこそされるのが嫌ってだけ」
そう告げると、あたしはふっと緊張を解いた。
「アンズ……?」
「――文化調査員ってのはね、『龍の繰り人』を探すための組織でもあるの。あたしが『龍の繰り人』になれるなら、前例がなくてもあたしはやるわよ。やるしかないってことなんでしょ?」
あたしは自分の首に下げた身分証を握る。新しい目標ができた。とてもやりがいのある仕事だ。
「協力してくれるなら、あたし、頑張るわ。至らないところも多いと思うけど、よろしくね」
言ってあたしはザクロに手を差し出す。ザクロの表情がぱっと明るくなった。
「あぁ。よろしく頼む!」
「よーしっ! これから祝いだっ! 『龍の繰り人』の誕生を祝してなっ!」
村長の号令に村がざわめき、盛り上がる。
こうしてあたしはザクロとともに『龍の繰り人』を目指すための旅を開始することになったのだった。
【了】
いかがでしたでしょうか。
少しでも楽しんでいただけたようでしたら幸いです。
また、途中で設定を変えて、ルルルカップ版とコバルトノベル版をひとまとめにしてしまいました。
以降はコバルトノベル大賞に投稿して落選した作品を投稿時そのままで公開しています。
内容はほとんど同じになりますが、ノベル版は加筆修正分もたっぷりになっております。
そんなわけで、物語はここでひとまずおしまいです。
改稿版も読みたい方はそのまま先へ、物語が完結したとして去る方はご自由にどうぞ。




