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11-2 結婚挨拶②

 ルクレイム公爵家。古くから武門の家柄として名を馳せている名門貴族の一つで、一族の多くが軍人の道を歩んでいる。また、長らく東門を守護する東衛門府とうえいもんふの長、東衛長とうえいちょうの職を世襲しており、王国でも厳格な家系として有名だった。


 そんな家に、令嬢を妻の一人にと願いにきた平民の男がいた。


 豪壮な屋敷のだだっ広い応接室。ユリーシャの父を訪ねた神太郎は、そこで一人待たされていた。出された茶を啜り、或いは天井をボーっと眺める。席を立って大窓から広い庭を眺めもしていた。緊張感が全くない。


 やがて再び席に着くと、やっと扉が開かれた。


「お前が三好神太郎か?」


 そして、入室して早々刺々しく問うてきたのは、将校の軍服を着た男だった。ただ、当主と言うにはあまりにも若過ぎた。二十歳くらいか?


 続いて、ユリーシャも慌てながら入ってくる。


「待って下さい、ミランお兄様」


 彼女のその言葉で神太郎も察することが出来た。


 その後、二人も席に着くと妹は兄を紹介する。


「こちらは私の三番目の兄、ミランお兄様です」


 ミラン・ルクレイム。武門の家柄らしく軍人なのだろうが、しかしその目つきも軍人過ぎた。まるで敵でも見るかのように神太郎を睨んでいる。まぁ、既に神太郎がここに来た理由を聞いているだろうから、歓迎されないのも当然か。


 ただ、神太郎の方もまた彼を歓迎していなかった。


「パパは?」


 ミランを差し置いてユリーシャに問う神太郎。その態度が、更に兄の癇に障らせる。


「おい、生意気なことを言うな。お前如きが公爵に会えると思っているのか?」


「公爵と話せるまで帰らん」


「いや、不要だ。俺が今返答してやる。お前のような平民に妹をやるつもりはない。しかも妻の一人にだと? ふざけるのも大概にしろ。とっとと帰れ!」


「公爵と話せるまで帰らん」


「会わせんと言っている!」


「公爵と話せるまで帰らん」


「オウム返ししか出来ないのか!?」


「っ! 帰らん、公爵と話せるまで」


「倒置法にするな!」


 自分が願う立場なのに、あまりにもふざけた態度を見せる神太郎。それを目の当たりにしたミランは、怒りを通り越して呆れてしまった。


「ユリーシャ、お前、本当にこんな奴のことが好きなのか? 何かの間違いじゃないのか? 連れてきた奴を間違えたとか……」


「い、いえ、確かに抜けているところもあるんですけど、いいところもたくさんあるんですよ」


 兄の問いに、彼女は気まずそうに弁解した。しかし、それは到底彼が納得出来るものではない。


「どこが!?」


「いつもは不真面目で仕事をサボることも多いんですけど、いざというときは活躍してくれるんです。それで私も命を救われました。それに身分や立場に縛られず、私のことを公爵令嬢としてではなく一人の人間として見てくれるんです。それがとても心地がいい……」


「それは礼儀を知らないからだ。そんな人間、お前の夫に相応しくない。我が家の婿に相応しくない!」


「でも……」


「母上はお前を産んですぐに亡くなったが、その分、父上を始め俺や兄上たちがお前のことを大切に育ててきた。たっぷり愛情を施してきた。どこに出しても恥ずかしくない淑女にしたつもりだ。なのに、そのお前が選んだのは、どこに出しても恥ずかしいこの男なのか?」


「皆、第一印象はそうなんです。けれど、付き合っていくうちに彼の良さが分かります」


 兄を説得出来なければ、父を説得するなど夢のまた夢。そう考えるユリーシャは、必死に彼を説いた。しかし、神太郎の魅力は口で説明出来るものではない。


 なので、本人が説く。


「多分、不良がたまに良いことをすると、よく見える感じじゃないかな?」


「自分で言うか!」


 神太郎の要約に、ミランは堪らず突っ込んでしまった。


「だって、ルクレイム家って皆厳格で上品なんだろう? その上、ユリーシャが勤めている東門も四つの門で最優秀だから、衛士も皆真面目だ。そのせいで俺みたいないい加減なタイプに耐性がなく、結果、新鮮で魅力的に感じたんじゃないかな?」


「むむむ……」


 ただ、そう言われると、ミランも理解出来なくもなかった。大切に育て過ぎたかもしれない。


「まぁ、神太郎は別世界人なので放っておけない気持ちもあって、色々見てあげたくもなるんです」


 彼女も苦笑しながら説明した。


 更に神太郎も。


「けど、お兄ちゃんの気持ちも分かるなぁ。俺にも最愛の妹がいるけど、俺みたいな男と付き合うなんて言ったら間違いなく激怒するね」


「自分で言うか!」


 神太郎の同情に、ミランはまた突っ込んでしまった。


 呆れて、呆れて、呆れ尽くすミラン。しかしその一方で、このマイペース男が只者ではないことも認めざるを得なかった。公爵家に無茶苦茶な願いをしに乗り込みながらもこの緊張感のなさは、大物か大馬鹿者かのどちらかだろう。ただ、兄としては堅実な男と一緒になって欲しいのだ。


「考え直せ、ユリーシャ。今ならまだ父上に会わせずに済む」


「でも、お父様も彼と話してみれば考えを変えてくれるかも」


「お前は今ハイになっているんだ。冷静じゃないんだよ。こんな男と一緒になれば、我がルクレイム家の最大の汚点となる。父上を悲しませる真似はよせ」


 その説得には、神太郎も「酷い言いようだ」と眉を八の字にしてしまった。だが、それは今回の用件から少しずれてもいる。神太郎は返答に窮しているユリーシャをこう慰めた。


「ユリーシャ、今日は俺が公爵と話しに来たんだ。お前が頭を悩ませる必要はない」


 その堂々とした口振りは、ユリーシャを安堵させ、ミランすら言葉を呑んでしまった。


 そして、その時がやってくる。

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