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4-3 ルメシアとユリーシャ③

 上司たちの食事が終わったのは、それからしばらく経ってだった。ルメシアも神太郎を飼い犬のように待たせて少し申し訳ないように感じていたが、これも仕事だと教え込む必要がある。心苦しさを見せず堂々と店を出た。


「お待たせ」


 が……、


「あれ?」


 いない。店の前で待機させていたはずの神太郎がいない。いや、それどころか、ジルストもいない。


「ジルストも?」


 彼の上司であるユリーシャも驚く。あの真面目な男が務めを放棄するなんて考えられなかった。


 すると、どこからか笑い声が聞こえてきた。その元を探ってみれば、少し離れた場所のベンチに座る二人。神太郎とジルストが飲み物片手に談笑していたのだ。


「それでさ、ジルスト。俺は言ったんだよ。ブラックコーヒーの何が偉いんだってな。ミルクを入れないなんてあり得ないだろう? こっちの世界でもさ」


「普通は入れるな。つまり、お前の世界ではコーヒーにミルクも砂糖も入れないことが大人の証だと?」


「ああ、変な見栄だろう? だから俺はミルクコーヒーを飲むためにこっちに亡命してきたんだ」


「ハハハ、しかしワザと不味い飲み方をすることが大人の証だなんて、変わった風習の国だな」


 と、ミルクたっぷりのコーヒーを飲みながら語り合う男たち。


 それを見て唖然とする女たち。


「あのバカぁ……」


 待つ仕事すら満足に出来ない神太郎を見て、ルメシアは肩を震わせる。


 片や、ユリーシャの反応は真逆だった。


「あの堅物で清廉なジルストをサボらせて談笑させるなんて……。三好神太郎……。ルメシアが戸惑う理由も分かったわ」


 ただの怠け者ではない。彼女は神太郎により興味をもった。もっと知りたくなったのだ。だからこそ、あの提案が生きてくる。


 やがて男たちも彼女らに気付くと、ジルストは慌てて立ち上がり敬礼、神太郎もゆっくり腰を上げた。


「おう、何食ったんだ?」


 当然、悪びれる様子もない神太郎に、ルメシアは先ほど決めたことを宣告する。


「実はユリーシャと相談したんだけど、神太郎には出向してもらうことにしたの」


「はい?」


「明日から一週間、東門で働いてもらうわ」


 更にユリーシャが告げた。


「おい、嘘だろ? 東門なんて嫌だよ。北門がいいよ」


 必死に拒む神太郎。ルメシアは自分が恋しいのか? と少し嬉しくなる。……も、


「家から遠過ぎるよ。北門に合わせて近場に家を借りたのにさ」


 それは間違いだと知ると、途端に不機嫌になる。


「アンタ不真面目だから、厳しい東門でしごいてもらうことにしたの。少しは門番らしくしてもらってきなさい」


 有無を言わさない上司命令。


 神太郎は再び下っ端の不条理を味わうのであった。




 そして一週間が経った。


 北門、ルメシアの執務室。ルメシアは再び来訪したユリーシャを歓迎していた。ソファに座らせた彼女に茶を出す。


「神太郎を一週間預かってくれてありがとうね。どうだった? そういえば先日、東門の方で大騒ぎがあったようね。そういうのもあって大変だったでしょう」


 東門でも色々あったようだが、神太郎の出向は無事終わったようだ。ルメシアも彼の上司として協力に感謝を示す。


「え、ええ……。まぁ」


 ただ、何やらユリーシャの返事が芳しくない。様子が変だ。


 顔を俯かせ、両手をモジモジと弄り回す。そういえば、今回は部下を連れず一人での訪問。異様だった。幼馴染もそれに気付く。


「どうしたの?」


「い、いや、ちょっとね」


「……神太郎が何かしでかした?」


「いえ、彼はよくやってくれたわ。とても助かったから」


 そう言ってくれるのなら、ルメシアも一先ず安心。茶のカップを手に取る。


 次いでユリーシャも意を決した。


「その……こういうことは、ルメシアにも早いうちに伝えておくべきだと思って」


「? うん」


「実は……」


「うん」


「神太郎の家にお泊りしちゃって」


 ブーーー!


 思わず飲んでいた茶を噴き出すルメシア。それがユリーシャの顔にモロに掛かっても、彼女は全く怯みもせず紅くなった顔を俯かせているだけだった。


「しかも、二人っきりで……」


 顔を青ざめるルメシアに、顔を紅くするユリーシャ。


 こうして、二人の乙女は幼馴染から好敵手へと変わったのであった。



―ルメシアとユリーシャ・完―

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