クモをつつくような話 2025 その4
11月20日。晴れ時々曇り。最低2度C。最高14度C。
午前10時。
ゴミグモの4ミリちゃんの隠れ帯は昨日と同じだった。低温側の活動限界の見当が付きそうだな。横糸なら空腹の時は少々無理をしても張り替える可能性があるわけだが、隠れ帯だけなら影響するのは気温だけだろう。
自転車置き場の17ミリちゃんも円網を張り替えていなかった。
午前10時。
光源氏ポイントで「卵囊を守る」をしていたジョロウグモはまだそこにいた。寒さと疲労で動けないんだろう。
森の縁には円網を張り替えていないジョロウグモが2匹、縦横20センチくらいの円網を張っていた体長17ミリほどのジョロウグモが1匹いた。
女王様ポイントには縦横15センチくらいの円網を張っている体長18ミリほどのジョロウグモしかいなかった。そろそろジョロウグモのシーズンも終わりそうだ。
その代わり、というわけでもないんだろうが、体長6ミリほどで白っぽい体色に赤茶色の尖ったサングラスをかけているアズチグモが木の葉の上で待機していた。
本日の行き倒れはクサキリと車に轢かれたらしいスズメバチが1匹ずつだった。
11月21日。晴れ。最低2度C。最高18C。
午前10時。
ゴミグモの4ミリちゃんは隠れ帯を外していた。この寒さの中では外すのも大変だろうに。働き者なんだろうかなあ……。〔いくら働いても隠れ帯だけでは獲物を捕獲できないんだぞ〕
自転車置き場の17ミリちゃんは円網を張り替えていなかった。
午前11時。
光源氏ポイントの落葉広葉樹の葉が散り始めていた。すると、いままで木の葉の陰にいたジョロウグモたちが現れるんだ、これが。ジョロウグモのシーズンはまだまだ続きそうだ。
女王様ポイントにはジョロウグモが見当たらなかったが、ここには常緑広葉樹が多いので、見えない場所にジョロウグモが残っているかもしれない。
今日は体長12ミリほどのハエを捕まえた。そろそろ自転車置き場の17ミリちゃんが円網を張り替えるだろうという判断である。張り替えてくれないと無益な殺生になってしまうのだが、いままでさんざん殺生をしてきたのだから、いまさら命を大切にしたところで地獄行きが覆るわけでもあるまい。
午後3時。
スーパーの北側にいたジョロウグモが姿を消していた。午前11時頃には確かにホームポジションにいたから、気温が下がる前に産卵するための行動を始めたんだろう。つまり、最低気温が低い日が何日かあったという経験を基に今夜も冷え込む可能性があると予想して対策をしたというわけである。過去の記憶を基に未来を予測して行動するというのは知性の存在を示唆していると作者は思うのだが、「クモなんかが知性を持っているわけがない」と考えたいのなら「本能のプログラム」ということにしておいてもいいだろう。
午後6時。
ゴミグモの4ミリちゃんが隠れ帯なしの円網を張っていた。やればできる子だったんだなあ。直径は6センチくらいでしかないが円網は円網だ。
自転車置き場の17ミリちゃんも古い円網を回収している様子だった。
どうやら2匹とも、気温が下がる前に円網を張ってしまおうと考えているようだ。賢いなあ。
11月22日。晴れ。最低5度C。最高16度C。
午前1時。
今の気温は7度Cらしい。
自転車置き場の17ミリちゃんが縦15センチ、横25センチくらいの馬蹄形円網を完成させていたので、体長12ミリほどのハエを投げ込んであげた。飛行性昆虫ならば、積極的に牙を打ち込んでもらえるのだ。あくまでも、比較的積極的に、という話ではあるが。
午前7時。
自転車置き場の17ミリちゃんはホームポジションでハエを食べていた。次の円網張り替えは1週間後くらいになるかなあ……。
午後1時。
森の縁には今日もハエが各種合わせて5匹くらいいた。これはどうやら日光浴をするために集まっているようだ。ここは南に向かって開けているので、昼頃から陽が当たるようになるし、地面近くから1.7メートルくらいまでの高さに葉を茂らせている落葉広葉樹がたくさん生えているのがポイントらしい。ハエたちは地上0.5メートルから1.5メートルくらいの高さの葉にとまることを好むのだろう。
自転車置き場の17ミリちゃんが円網を張り替えてもハエがいてくれるようなら楽でいいなあ。
午後4時。
帰宅してみると、マダラヒメグモの右前隅ちゃんが住居から出ていた。ダンゴムシはほぼ1年中活動しているから休眠する必要もないんだろう。たまには獲物をあげるべきかもしれない。確実に捕食してもらわないと、室内をウロウロされてしまうんだけどなあ……。
今日はヤッケパンツを鋏で切って作った風よけ短パンを使ってみた。ポケットなどいらないし、毎年作り直せばウエストのゴムが劣化するという問題も発生しないのだ。ただ、近くで見られると切り口の処理が雑なのがわかってしまうのだが、その恥ずかしさもやがて快感に――。〔やめんかい!〕
11月23日。曇りのち雨。最低7度C。最高14度C。
午前6時。
ゴミグモの4ミリちゃんは円網を張り替えていなかった。隠れ帯もなし。
自転車置き場の17ミリちゃんは円網の縦20センチ、横15センチくらいの範囲を張り替えたらしかった。張り替えた時間帯の気温はさほど低くなかったということだろう。小さな羽虫も5匹かかっていた。なお、食べ終えたらしいハエは背面側のバリアーに取り付けてあった。
落ち葉の下で丸くなっていたダンゴムシを2匹捕まえた。
午前7時。
マダラヒメグモのガス漏れ警報器ちゃんが住居から出ていたので、その不規則網に体長12ミリほどのダンゴムシを落とし込んだ。これはちゃんと不規則網に引っかかって、ガス漏れ警報器ちゃんは糸を投げつけ始めた。
右前隅ちゃんの不規則網にも同じくらいのダンゴムシを落とし込んだのだが、こちらはコンクリート面まで落ちてしまった。獲物に気付いたらしい右前隅ちゃんは不規則網の中をダンゴムシに向かって行ったのだが、途中で見失ってしまったらしかった……というのは不適切な表現だな。ダンゴムシが動きを止めたので、獲物の位置がわからなくなったようだ。右前隅ちゃんはいったん住居の近くまで戻ったのだが、ダンゴムシが歩き始めると、それを追いかけて行って吊り上げた。
今の気温は9度Cらしい。台所の室温は13.7度C。これくらいの温度ならマダラヒメグモも活動できるということなんだろう。ああっと、室温が高いのをいい事に産卵されたりしたら困るなあ。まあ、その時はまたダンゴムシを探すことにするが。
11月24日。晴れ時々曇り。最低4度C。最高19度C。
午前1時。
ゴミグモの4ミリちゃんは直径8センチくらいの円網を完成させていた。
その隣のゴミグモも身動きしているから、これから横糸を張るのかもしれない。
自転車置き場の17ミリちゃんも縦20センチ、横15センチくらいの範囲を張り替えていた。どうしていきなり積極的になるんだろう? 太ったせいか? 体重が増えれば獲物を仕留める能力も食べる能力も向上するのかもしれない。森の縁でハエを捕まえておこうかなあ……。
午前10時。
マダラヒメグモのガス漏れ警報器ちゃんはダンゴムシの食べかすを捨てていた。それに対して、右前隅ちゃんの不規則網にはダンゴムシがかかったままだ。2匹の体長に大きな差はないから、台所と玄関の温度差による影響が大きいのではないかと思う。
ゴミグモの4ミリちゃんの円網には小さな羽虫がかかっていた。この季節でも円網を張る意味はあるわけだ。
その隣にいるゴミグモも直径10センチくらいの円網を張っていた。
午前11時。
光源氏ポイントにいるジョロウグモの7本脚ちゃんは円網に付いた黄色い木の葉を外そうとしていた。それだけの体力があるのなら2度目の産卵を目指したらいいだろうに……と、人間である作者は思ってしまうのだが、そうしないのは、2度目の産卵を目指す子とただ一度の産卵にすべてを賭ける子が存在しているということなのではあるまいか? つまり、それぞれの本能に「あなたは2回産卵することを目指しなさい」「あなたは1回でいいわ」と書き込まれているという仮説である。これは気温・湿度・獲物の量などを同じにして育てたジョロウグモが何回産卵するかを……いやいや、これではノイズが多すぎるだろうな。少なくとも100匹くらいは育てないと説得力のある論文にはならないかもしれない。まあ、作者はやらないからどうでもいいのだが。
午後1時。
草の茎に取り付けられた小指の先くらいの大きさの白い糸の塊を見つけた。クモの卵囊のような気もするのだが、何グモのものなのかまではわからない。
きれいに黄葉したイチョウを見つけたのだが、その近くまで行く道がみつからない。民家の間の舗装路を走って、さらにその先の地道に入り込んで、やっと撮影ポイントを見つけた。これでもう、今年度はイチョウを撮影する必要はないな。これがほんとの「イチョウ上がり」――。〔「一丁上がり」だ!〕
午後5時。
今日は95キロ走ってしまった。今月の走行距離も1000キロを超えた。手首と肩と骨盤の背面側と背中が痛い。
午後10時。
自転車置き場の17ミリちゃんの円網にに体長13ミリほどの潰れてしまったハエを投げ込んだ。かなり大型で、しかもまったく羽ばたかない獲物なので、17ミリちゃんは知らん顔をしていたのだが、しばらくしてから確認すると、ちゃんとホームポジションに持ち帰っていた。何よりである。
今回はハエをサドルバッグに入れて持ち帰ったのだが、生きたまま冷蔵庫に入れるのにはバンダナに挟んでポケットに入れた方がいいかもしれない。
11月25日。曇り一時雨。最低6度C。最高15度C。
午前10時。
ゴミグモの4ミリちゃんとお隣ちゃんは、それぞれ直径8センチと12センチくらいの円網を張っていた。
4ミリちゃんが円網を張らずに隠れ帯を付けていたのは、お隣ちゃんと足並みを揃えるための暇つぶしだったのかもしれない。4ミリちゃんが雄でお隣ちゃんが雌、さらに近くには他の雌がいないという条件が重なれば、そこまで気を遣うことにもメリットが生じるだろう。まあ、「単なる偶然」で片付けてしまっても問題は何もないのだが。
自転車置き場の17ミリちゃんは円網を張り替えたらしかった。
「バカな。獲物をあげたはずだ!」〔…………〕
よく見ると、昨日の潰れたハエは背面側のバリアーに取り付けてある。
「ええい、連邦軍のジョロウグモは食欲の化け物か!」
もしかすると、17ミリちゃんはジョロウグモ第四形態に進化してしまったのかもしれない。しかし、こんなこともあろうかと、作者はもう1匹のハエを用意していたのだった。
「作戦第2段階。体長10ミリのハエ攻撃、開始!」〔いい加減にせんかい!〕
というわけで、17ミリちゃんの円網に2匹めのハエを投げ込んだのだが、17ミリちゃんは左の第一脚と第二脚をわずかに動かしただけでハエに近寄ろうとしない。これは多分、羽ばたかないせいだな。ハエを捕まえたら、力尽きる前に食べてもらえるようにする必要があるかもしれない。
午後5時。
17ミリちゃんはホームポジションでハエを食べていた。
11月26日。曇りのち晴れ。最低4度C。最高18度C。
午前7時。
玄関先に黒に近いくらいのグレーのイモムシがいた。何の幼虫なんだろう?
ゴミグモの4ミリちゃんとお隣ちゃんは、それぞれ直径8センチくらいと10センチくらいの円網を張っていた。
自転車置き場の17ミリちゃんは円網の縦20センチ、横15センチくらいのほとんど三角形の部分を張り替えたらしかった。小さな羽虫が2匹かかっている。なお、17ミリちゃんのお尻は中央部が太くなり始めている。やはり、ラグビーボール形になっていくタイプのようだ。
※念のために言っておくと、ジョロウグモの網は「蹄形円網(作者は「馬蹄形円網」としているが)」と呼ばれているので、三角形でも「円網」なのである。
午前10時。
スーパーへの道で、多数の黒いナメクジと体長50ミリほどの赤みがかった白色のナメクジを1匹見つけた。舗装路が濡れていると現れるようだ。
帰宅してから調べてみると、白っぽいのは若いチャコウラナメクジのようだ。ということは、黒いのはコーヒーコウチャコーラナメクジ――。〔嘘つくな!〕
もとい、若いヤマナメクジのようだ。
午後1時。
光源氏ポイントにいるジョロウグモの7本脚ちゃんは縦25センチ、横20センチくらいの円網を張っていた。
森の縁にいるジョロウグモ2匹のうち、体長17ミリほどのお尻がラグビーボール形の子も縦横20センチくらいの部分を張り替えていたので、体長8ミリほどのハエをあげた。この季節では獲物を積極的に仕留めてくれる子がいるのは嬉しいものだ。
午後4時。
自転車置き場の17ミリちゃんの円網にも体長7ミリほどのハエを投げ込んだのだが、はじき返されてしまった。これは張り替えてなかったのか、あるいは横糸の粘球が劣化しているのかもしれない。今後は張り替えたのを確認してから投げ込むことにしようかねえ……。
午後5時。
今日はサドルを5ミリくらい前に出してみた。これが当たりだったらしくて、座骨が痛くない。当面はこれで行こうと思う。
午後10時。
スマートフォンが充電できなくなってしまった。充電ケーブルを替えてもパソコンに繋いでも充電できない。「充電中」という表示は出るのだが、電池の残量が増えないのだ。結局、電源をオフにしてから再度オンにしたら回復した。やれやれ……。
スマホにマイナンバーカードをインストールすることもできるらしいんだが、電池が切れたら身分証明ができなくなってしまうだろう(警察官は充電器を持ち歩いているのかもしれないが、車道に落として車に轢かれてしまう可能性もないとは言えまい)。スマホを連絡手段以外の用途に使うのは危険だと作者は思う。もちろん、支払いも通販を利用する時以外は現金決済派だ。
11月27日。晴れのち曇り。最低3度C。最高16度C。
午前10時。
ゴミグモの4ミリちゃんとお隣ちゃんは、2匹とも昨日と同じくらいの円網を張っていた。
自転車置き場の17ミリちゃんも円網を張り替えていない。食べ過ぎだということにやっと気が付いたのらしい。
「そんなこともあるさ、ジョロウグモだもの」
この季節に絶食を始めたとなると、5日から1週間くらいは円網を張り替えないかもしれない。
困った。ネタがない……なーんて思ったら大間違い! ホラガイは大巻き貝。スーパーの北側の壁に体長4ミリほどのコガネグモの幼体と同じくらいのオニグモの仲間の幼体(多分)がいたのである。作者は普段の行いがいいのでクモの神様が救いの手を差し伸べてくださるのだ。〔……非科学的だな〕
とはいうものの、どうして陽当たりの悪い北側にいるのかは謎だ。もしかすると、気温が低い時期には体温の変動が少なくなるような場所の方がいいんだろうか?
今日は背骨の脇が筋肉痛だし、左腿の背面側が痙攣してしまったので1日休むことにする。やはり、1日70キロくらいが作者の活動限界なんだろうな。
11月28日。晴れ。最低7度C。最高18度C。
午前1時。
星は見えるが路面は濡れている。ナメクジたちも舗装路を這っていた。なお、このナメクジたちは舗装路脇の草地から出てくるようだ。
ゴミグモの4ミリちゃんとお隣ちゃんの円網は縦糸だけになっていた。今夜も張り替えるつもりらしい。
自転車置き場の17ミリちゃんの円網は昨日のままだった。脚先を舐めているから円網にかかっていた小さな羽虫くらいは食べたのかもしれない。
もしかすると、この脚先を舐めるという行動(作者は「爪のお手入れ」と呼んでいる)は、脚先に付いた粘液を舐め取っているんじゃないだろうか? 粘球付きの円網を張るクモについては「粘球の付いていない縦糸を選んで歩いている」という話もあるのだが、獲物に素早く駆け寄る時には縦糸だけを選んで歩いているようには見えない。また、「脚先には毛が生えているので粘液が付いても、真っ直ぐ引き抜けば粘液はほとんど残らない」というような話もあるのだが、「ほとんど」は「ゼロ」ではあるまい。ごくわずかであっても脚先に粘液が付いていたら、その分、獲物にたどり着くまでの時間が長くなるのではないかと作者は思う。そのわずかな時間を短縮するのには、ホームポジションに戻った時に脚先に残っている粘液を舐め取ってしまうのが有効だろう。
念のために「クモはなぜ自分の網にかからないのか」で検索してみた。すると、意外に多数の解説が出てきたのだが、それらの中で一番信頼できそうなのが『GIZMODO』というサイトの「蜘蛛が自分の巣にくっつかない理由が判明。複雑の三重奏。」(2012.03.27 10:00)という記事(?)だった。
「顕微鏡を使って蜘蛛の動きを研究したWilliam Eberhard博士とDaniel Brieno
氏は、くっつかない理由は3つのことがうまくかみ合って実現していることを発見しました」「まず、蜘蛛の脚は何百という毛で覆われているため、巣にあたる表面積がそもそも少ないこと。次に蜘蛛は実に用心深く特殊な歩き方をすることで、蜘蛛の糸をうまくかわしていること。そして最後は、脚にあるこの何百という毛には巣のベタベタにくっつかない特別な成分で覆われていること」だそうだ。なるほど、顕微鏡を使ったりするとこういうものを「発見」してしまうのだな。
脚が毛で覆われているのは確からしいが、あいにくと作者は顕微鏡など使っていないので、クモは常に「用心深く特殊な歩き方」をしているわけではないのを知っているのだ。特に鱗粉を持つチョウ目昆虫が円網にかかった場合は、クモは獲物に逃げられる前に素早く駆け寄る必要があるし、お尻が大きいオニグモが円網にかかった獲物に駆け寄った後には隣り合う横糸がくっついてしまっていることがよくある。よく言われている「縦糸だけを選んで歩いている」ではこうはならないはずだ。
そして「巣のベタベタにくっつかない特別な成分」は消化液に含まれているのではないかと思う。脚先を順に舐める爪のお手入れには、脚先に残っている粘液を舐め取るのと同時に、脚先の爪や毛に消化液の成分をコーティングする効果もあるのだろう。池田博明編『クモの巣と網の不思議』(2003年発行)には、かの有名なジャン・アンリ・ファーブルによる硫化炭素で洗ったクモの肢は横糸に非常によく張り付いたという実験が紹介されているのだが、これも硫化炭素で消化液の成分を洗い流したという解釈が可能だと思う。
※この場合、水で洗ってもよかったような気がするのだが、なぜ硫化炭素を使ったんだろう?「油が付いている」という先入観のせいか? よい子のみんなは「偉大なるファーブル先生が行った実験だから正しいに違いない」なんて思ってはいけないよ。それは宗教であって科学ではないからね。
午前10時。
体長3.5ミリほどの雪虫(白い毛と翅を持つアブラムシ)を捕まえたので、ゴミグモのお隣ちゃんの円網に投げ込んであげた。この程度の獲物なら積極的に仕留めてくれるので助かる。
午前11時。
光源氏ポイントにいるジョロウグモの7本脚ちゃんは今日も穴だらけの円網にたたずんでいた。
森の縁にいる体長18ミリほどのジョロウグモは黄色い糸で円網の3分の2くらいの範囲を張り替えていた。これはダメかもしれないと思いながら体長7ミリほどのハエを投げ込んだのだが、案の定、知らん顔である。
もう1匹の体長20ミリほどの子は無色の糸で張り替えていたので、同じくらいの大きさのハエをあげると、この子は駆け寄って牙を打ち込んでくれた。
20ミリちゃんがハエをホームポジションまで運んだのを確認してから17ミリちゃんの様子を見に行くと、ちゃんとハエを仕留めていた。無益な殺生をせずに済んで何よりである。
午後1時。
街灯の配線ボックスの蓋の下で「卵囊を守る」をしている体長16ミリほどのジョロウグモを見つけた。今年度では初観察の人工物に産卵したジョロウグモである。やはり、ジョロウグモは人工物よりも木の葉や木の幹で産卵することを好むのではないかと思う。ジョロウグモという種が生まれた時代に鉄のポールやコンクリートの壁など存在していなかっただろうしな。
午後3時。
1本のイチョウの下に黄色い絨毯ができていたので撮影しておく。どうしてもガードレールや電柱が写り込んでしまうのだが、撮らずにはいられないのである。
本日の行き倒れはクサキリとスズメバチが1匹ずつだった。
午後4時。
マダラヒメグモの右前隅ちゃんとガス漏れ警報器ちゃんが住居から出ていた。休眠しないクモの観察にはオフシーズンがないから大変だ。〔観察しなければいいだろが!〕
そういうわけにも……。
11月29日。晴れ時々曇り。最低2度C。最高14度C。
午前7時。
ゴミグモの4ミリちゃんは円網を張り替えていた。
お隣ちゃんと自転車置き場の17ミリちゃんは張り替えていない。明日は暖かくなるらしいんだが、問題は夜中頃の気温だろうなあ。
午後1時。
気温は上がったのだが、疲れているので今日はサイクリングしないことにした。
暇なので、『別冊日経サイエンス 昆虫王国をゆく』を股開いて――。〔股なんか開くな! 見たくないぞ、そんなもの〕
もとい、また開いてみると、E.A.ティベッツ(ミシガン大学)・A.G.ダイアー著「昆虫の顔認識」という記事もあった。
その「キーコンセプト」には以下のように書かれている。
「近年まで、個々の顔を認識するには哺乳動物の大きな脳が必要だと考えられていた」
「しかし、アシナガバチとミツバチの研究から、小さな脳しかない昆虫の中にもこの離れ業をやってのけるものがいることが示された」
「これらの昆虫は、人間が顔を見分けるのに用いているのと同様の顔情報処理メカニズムを使っている」
「この発見は顔認識ソフトウェアの改良に役立つ可能性がある」
脳が大きかろうが小さかろうが、仲間の顔を認識できた方が子孫を残す上で有利になるのなら、いずれは顔認識ができる方向への進化が起こるのだろう。ということは、狩りバチのように群れないタイプのハチは他の個体の顔を認識できないんじゃないかと思う。まあ、「~できない」という論文よりも「~できる」という論文の方が高く評価されやすいのかもしれないが。
ちなみに作者は人の顔を憶える能力が低い。毎日のように顔を見ていれば誰だかわかるようになっていくのだが、1ヶ月も会わないでいたらわからなくなってしまうのだ。作者の脳はアシナガバチやミツバチ以下なのかもしれない。「人間失格」どころか「哺乳動物失格」だなあ。あっはっはっはっは。
この特集号にはM.ディキンソン(カリフォルニア大学バークレー校)著「昆虫飛翔の空気力学」という記事もあった。
「ハエやトンボが空中で静止したり、急旋回できるのはなぜなのか」
「飛行機やヘリコプターとはまったく違う仕組みが働いているらしい」
「ロボットを使った研究で、昆虫が空中で静止する秘密がわかってきた」
ということなのだが、あまり正しくないことも書かれているような気がする。
第一に、この記事には「トンボ」はまったく出てこない。
東京工科大学の『プレスリリース』の「トンボの優れた機動飛行のメカニズムを解明 高性能な羽ばたき型飛行ロボットの創出に期待」には「トンボの飛行の特徴は、多くの昆虫が前翅と後翅を一つのペアとして羽ばたき運動を行っていることに対し、これらの翅を独立して制御できる点にあります」という一文がある。つまり、ハエとトンボの飛行メカニズムは同じではないのだ。
クモ学の世界では「すべての昆虫はショウジョウバエである」という考え方が一般的なのだが、昆虫学の世界も同じようなものなのかもしれない。「私が……」よりは「日本人が……」、さらに「世界中の人間が……」と、話を大きくした方が論文の価値は向上するのだろう。「嘘も方便」だな。
第二に「3種類の飛行メカニズム」というイラストがあるのだが、これは「ミバエの空中静止のメカニズム」である。まあ、羽ばたきによって生じる渦が揚力を発生させていることと、腹側へ羽ばたく時と背側へ羽ばたく時では翅を反転させて、揚力の方向を後ろ上方から前上方まで変化させて空中静止していること、そして、翅を反転させる時にバックスピンをかけたテニスボールのように上向きの力が働くのは確からしいが。ちなみにハチドリも空中静止する時には翼を反転させながら羽ばたいているそうだ。
そしてチョウの仲間などは4枚の翅を持っている。そこで『チョウの飛翔』というサイトで各種のチョウの羽ばたきのスローモーション動画を見てみると、前翅と後翅はほぼ一体となって、ハエと同じような羽ばたきをしていた。しかし、種によっては前翅と後翅の間にわずかな隙間ができる瞬間があるようだ。4枚翅にも何かしらのメリットがあるのかもしれない。
さらに甲虫の仲間の多くは前翅が硬い鞘翅になっているので、前翅はあまり動かさず、主に折りたたみ式の後翅の羽ばたきで飛行する種が多いようだ。
ハエの空中静止のメカニズムがわかったからといって、「昆虫の飛行メカニズムがわかってきた」と言っては……いやいや、「わかった」ではなく「わかってきた」なら「正しくない」とは言えないのだな。素晴らしい。これは科学だ。
11月30日。曇りのち晴れ。最低5度C。最高18度C。
午前10時。
乾いている側溝のコンクリートの蓋の上に体長30ミリから15ミリくらいのナメクジが5匹いた。雨上がりの時ほど多くはないが、濡れていないと出てこられないということはないのらしい。
ゴミグモの4ミリちゃんは直径10センチくらいの円網、お隣ちゃんは12センチくらいの円網を張っていた。
11月21日に姿を消したジョロウグモがいた場所で、体長20ミリほどのジョロウグモが横糸を張っているところだった。産卵して戻ってくるまでに1週間以上もかかったのか、別の子が空き家に住みついたのかはわからない。お尻はソーセージ形だが、角度の関係でまだら模様なのか、黄色と青灰色の横帯模様なのかも確認できなかった。
午前11時。
森の縁にいるジョロウグモの17ミリちゃんは円網の半分の縦20センチ、横15センチくらいの範囲を無色の糸で張り替えていた。残り半分は黄色いままである。そこらで捕まえた体長12ミリほどのハエを投げ込むと、飛びついて牙を打ち込んでくれた。
光源氏ポイントにいる7本脚ちゃんは縦35センチ、横25センチくらいの円網を張っていた。何だ、これは? もしかして、この子は2度目の産卵を目指しているんだろうか? ジョロウグモは何を考えているのかわからん。〔あなたは人間よ。人間なのよ!〕
円網にかかっていた小さな羽虫を引き抜いて食べたし、体長5ミリほどのアリを投げ込んだら、これにも牙を打ち込んだ。食欲はあるのらしい。
街灯で「卵囊を守る」をしていたジョロウグモはいなくなっていた。これ幸いと卵囊を撮影しておく。
午後4時。
帰宅してみると、マダラヒメグモの右前隅ちゃんが住居から出ていた。暖かくなるまでは産卵しないで欲しいんだけどなあ……。
今日も80キロ走って、11月の走行距離は1307キロになった。年寄りでもこれくらいは走れるのである。手首と肩と背筋が痛いけどね。
12月1日。晴れ時々曇り。最低2度C。最高20度C。
午前1時。
ゴミグモの4ミリちゃんは直径12センチくらいの円網の横糸を張り始めたところだった。さすがに空腹になったのらしい。
お隣ちゃんの円網は直径10センチくらいだ。
自転車置き場の17ミリちゃんは円網を張り替えていなかった。
ツツジの植え込みの下にはダンゴムシが数匹いた。気温は6度Cだが、歩行できる節足動物はいるのらしい。
12月2日。曇りのち晴れ。最低8度C。最高16度C。
午前10時。
陽当たりのいい場所に生えているアサガオの花がだいぶ小さくなっている。花の直径が一時期の半分以下だ。もっとも、陽当たりの悪い場所のアサガオはとっくに枯れているから、咲いているだけでもたいしたものだと言えるかもしれない。
11月21日に姿を消したジョロウグモがいた場所に居着いた子のお尻は黄色と青灰色の横縞模様だった。ソーセージ形のお尻で横縞模様ということは、おそらく一度産卵した子だろう。今言えるのはそれだけだ。
自転車置き場の17ミリちゃんは円網を回収しているところだった。30分くらい経ってから見に行くと、ホームポジションに戻っていたから、夜中に新しい円網を張るつもりなのかもしれない。
なお、11月以降のジョロウグモは古い網の糸をまとめたものを円網のホームポジションに取り付けていることが多いのだが、これも「隠れ帯」になるかもしれない。ウィキペディアの「隠れ帯」のページによると「隠れ帯、白帯、スタビリメンタム(英:stabilimentum)は、クモの円網に付けられた糸の装飾である」のだそうだ。ただし、バリアーは円網ではないので、バリアーに付けられた古い円網の糸は「隠れ帯」にはならないだろう……多分。
午前11時。
光源氏ポイントではジョロウグモの7本脚ちゃんが円網にかかっていた小さな羽虫を引き抜いて食べていた。マイペースで2度目の産卵を目指しているようだ。
森の縁には、今のところ2匹のジョロウグモがいるのだが、体長20ミリほどで、お尻がソーセージ形の子は円網に付いている落ち葉を外していない。産卵前の絶食に入っているようだ。
体長17ミリほどの子は円網の半分の縦15センチ、横10センチくらいの範囲をわずかに黄色い糸で張り替えていた。食欲がありそうな感じなので体長6ミリほどのハエを投げ込んだのだが、知らん顔をされてしまった。張り替え範囲が小さい分の食欲しかないようだ。
※2時間くらい後に確認すると、ちゃんとホームポジションでハエを食べていた。やれやれ……。
午後1時。
木造ガレージの近くにもジョロウグモが2匹いるのだが、どちらも円網を張り替えた様子がない。特に体長20ミリほどの子は、小さな羽虫だらけの円網に付いている落ち葉も外していないから、この子も絶食しているのかもしれない。
12月3日。曇りのち雨。最低6度C。最高14度C。
午前1時。
自転車置き場の17ミリちゃんは円網を張っていなかった。まったくもう……ジョロウグモは何を考えているのかわからん。〔あなたは人間よ。人間なのよ!〕
ああっと、もしかして脱皮してオトナになるんだろうか? このところ、ハエのような比較的大型の獲物ばかりをあげていたので、脱皮を終えるまで獲物がかからないように円網を外したという可能性はあるかもしれない。もう12月なんだから、脱皮回数を減らしてでも早くオトナになってしまうべきだと思うんだけどねえ……。
12月4日。晴れ。最低0度C。最高9度C。
午前10時。
気温は6度C。寒いのでナメクジはいないだろう……と思ったら大間違い。1匹だけだが、体長30ミリほどの黒いナメクジが側溝の蓋の上にいたのだった。飛行性の昆虫のほとんどは飛べないような気温なのだが、歩いたり這ったりすることはできるのらしい。
スーパーの北側にいるジョロウグモの円網には小さな羽虫が13匹かかっていた。
ゴミグモの4ミリちゃんとお隣ちゃんは横糸を張っていなかった。
自転車置き場の17ミリちゃんも円網を張っていない。
午前11時。
光源氏ポイントにいるジョロウグモの7本脚ちゃんも円網を張っていなかった。舗装路の端に水たまりが残っているから雨で円網がたたき落とされたのかもしれない。
森の縁にいる17ミリちゃんは横糸の間隔が揃っていない縦横10センチくらいの部分を張り替えていたのだが、いつ張り替えたのかわからない。観察をサボるとこういうことになるのだ。なお、この子のお尻は頭胸部側がボンレスハム形で後端側がラグビーボール形だった。
そこから10メートルくらい先の森の中にもジョロウグモが2匹いた。
木造ガレージ付近でもジョロウグモの新顔を1匹見つけてしまった。ジョロウグモのシーズンはまだまだ終わらないようだ。
午後2時。
クサキリ(多分)を1匹見つけた。しかも生きている! 寒くて動けないらしくて、撮影は楽だった。
12月5日。晴れ時々曇り。最低-2度C。最高11度C。
午前8時。
洗濯物が凍っていた。この気温で活動できるクモは多くはないだろう。というか、円網を張っても、それにかかる獲物はいないはずだ。落ち葉の下やうちの玄関のように局地的に気温が高い環境であれば活動するクモもいるかもしれないが。
なお、ジョロウグモは氷点下の冷え込みにも数回は耐えられる。ということは、細胞内の水分を結晶化させない程度の体温維持システムを持っているはずだ。個人的にジョロウグモは熱帯から亜熱帯の環境で生まれた種だろうと思っているのだが、温帯地域の冬にも適応しつつあるのだろう。
しかし、上には上がいるもので、宮下直編『クモの生物学』の「第3章 耐寒性と季節適応」によると、ナカムラオニグモは夏の過冷却点(組織が凍り始める温度)が-8度Cであるのに対して冬は-23度C、エビグモの一種では-6度Cから-26度C、札幌のオオヒメグモでは-7度Cから-20度Cまで下がるのだそうだ。裸で-26度Cに耐えられるなんて人間じゃないぞ。〔クモはヒトじゃない〕
午前10時。
寒い。今日は休み。
12月6日。晴れ時々曇り。最低-1度C。最高13度C。
午前7時。
今日も車の屋根が真っ白になっている。ただ、最高気温はいくらか高くなるらしいので、そうしたら走る気になるかもしれない。
話は変わるのだが、左の踵が痛い。また割れてきているようだ。で、最近になって踵が割れる原因は長時間の入浴らしいことがわかってきた(実は昨夜も本を読みながら1時間くらい入浴してしまったのだ)。
長時間入浴すると踵の角質にお湯が染みこんで柔らかくなる。その後、風呂から出ると角質から水分が抜けていってまた硬くなるのだが、その段階で踵が割れてしまうのらしい。つまり、作者の踵を傷つけていた犯人はお湯だったというわけだ。英語にすると「Oh! You are guilty」である。〔英語じゃねえ!〕
それと同じようなことが日本列島付近の地下深くでも起こっているのらしい。
『日経サイエンス』2026 01号の「地震・噴火の黒幕が見えてきた!「地下の大河」から湧き上がる水」によると、中央海嶺で生まれた海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込んでいく海溝の手前の部分では海洋プレートが大きく曲げられるために、アウターライズ地震が発生してプレートに多くの割れ目が生まれ、そこに海水が入り込む。含水したプレートは大陸地殻の下に沈み込み、地下深部の高温高圧によって地下深部で水を放出する。この水によってマントルの融点が低下してマグマが生じ、火山噴火や地震を発生させるということらしい。作者の踵で言えば、これらの地震は踵の痛み、火山噴火は出血のようなものだろう。〔大げさだな〕
※密着した海洋プレートと大陸プレートが剥がれる時にもプレート境界地震が発生するのだそうだ。
というわけで、日本列島付近で発生する地震に対する根本的な対策は太平洋プレートに海水が入り込まないようにすることだと言える。つまり、太平洋の海底に巨大なビニールシートを敷いて――。〔できるかあ!〕
確かに中央海嶺付近でシートを敷いて、海溝で回収するのはかなり困難だろうし、大規模な環境破壊になるかもしれない。となると、日本人にできることは、地震や火山噴火はかならず起きるという前提で備えをしておくことだけになるだろう。「発生確率はそれほど高くない」などと思っていると福島第二原発のようなことになるからね。
午前10時。
ゴミグモの4ミリちゃんとお隣ちゃんは横糸を張っていなかった。
自転車置き場の17ミリちゃんも円網を張っていない。この子の場合は産卵前の絶食に入っている可能性もあるかもしれない。気温が高い日が来れば、ある程度見当が付くと思うが。
午後1時。
光源氏ポイントにいるジョロウグモの7本脚ちゃんは木の枝の間に残っている数本の糸にぶら下がっていた。
新たなジョロウグモの卵囊とイラガの繭を1個ずつ見つけた。
森の縁にいる17ミリちゃんは円網の縦7センチ、横8センチの範囲を無色の糸で張り替えていた。
森の縁に生えている広葉樹の葉がすべて落ちていた。もちろん、日光浴をしていたハエたちもいなくなっている。どこへ行ったかというと、木の幹や電柱の南側で日光浴をしているようだ。
午後2時。
ガードレールとポールの間に張り渡された糸に体長2ミリほどのクモが2匹いた。その隣のガードレールには縦横17ミリほどの白い卵囊もあった。ただし、2匹がこの卵囊から出囊したのかどうかはわからない。
12月7日。晴れ。最低0度C。最高16度C。
午前7時。
今日も車の屋根が白い。暖かくなるのを待って走ろうと思う。
午前8時。
台所の壁にハエが1匹とまっていた。今はハエを捕食できそうなクモもいないから無益な殺生はしないでおこう。
午前10時。
ゴミグモの4ミリちゃんとお隣ちゃんは直径10センチくらいの円網を張っていた。
自転車置き場の17ミリちゃんは今日も絶食している。そんなに太ってはいないと思うんだけどなあ……。
午後1時。
森の縁にいるジョロウグモの17ミリちゃんは円網を張り替えていなかった。なお、この子はお尻を「く」の字に曲げていたのだが、角度が微妙で、体温が上がらないようにお尻の後端を太陽に向けているのか、それとも側面を向けて日光浴をしているのか断言できない。
午後2時
木造ガレージまで行ってみると、ジョロウグモが1匹増えていた。体長は16ミリほどで、お尻は細めのラグビーボール形。そして、この子の特徴は頭胸部が大きいことだ。今の頭胸部と腹部の比率は1対1.3くらいだが、脱皮直後なら1対1.2くらいだったかもしれない。それくらい頭胸部が大きいのである(体長は短いが体型だけなら女王様だ)。
なお、この場所では16ミリちゃんも含めて3匹のジョロウグモがお尻の後端を太陽に向けていた。というわけで、これは体温を上げすぎないための姿勢なのかもしれない。
その近くにもジョロウグモが1匹いたのだが、この子は木の枝の下面で足探りをしていた。お尻も十分に大きいし、これで円網が無事なら産卵場所を探していると言ってしまうところなのだが、残念ながら円網は細い帯状になっている。したがって、円網を張る場所を探しているという可能性もないとは言えないかもしれない。こまめに観察するようだな。木造ガレージは短いが急な坂の上にあるので、あまり行きたくないんだけどねえ……。
12月8日。晴れ時々曇り。最低0度C。最高17度C。
午前6時。
寝起きの血圧は166と93。そこで高さ25センチくらいの踏み台で踏み台昇降運動モドキを10分間行うと129と81まで下がったのだった。血圧などそんなものなのだ。ただし、冬は血圧が上がりやすい。しばらく前に198と116を記録してしまったので、春が来るまでは降圧剤を服用しようと思う。
降圧剤を服用していると、半年に一回くらい脳貧血が起こる。高血圧よりも意識を失ったまま転倒する方が危険なので、あまり下げたくはないのだ。
午前7時。
今日もほとんどの車の屋根が白い。
近所の店舗の塀に体長15ミリほどのクサカゲロウと5ミリほどのコガネグモの幼体がとまっていた。昨日はクサカゲロウが飛べるくらいの暖かさだったということだろう。
午前11時。
ゴミグモの4ミリちゃんとお隣ちゃんは円網を張り替えなかったようだ。
自転車置き場の17ミリちゃんは今日も絶食中。なお、この子のお尻の白斑は出会った頃よりも小さくなったような気がする。
午後1時。
森の縁にいた体長20ミリほどのジョロウグモは姿を消していた。産卵だと思う。
17ミリちゃんも円網を張り替えていなかった。
光源氏ポイントにいる7本脚ちゃんは木の枝に張り渡した糸の下にいた。
午後3時。
昨日、木造ガレージの近くで足探りをしていたジョロウグモは数十センチ移動して、木の幹が二股になる部分にいた。いかにもジョロウグモが産卵しそうな場所ではあるのだが、どうなんだろうねえ……。
12月9日。晴れ時々曇り。最低3度C。最高13度C。
午前10時。
スーパーの北側にいたジョロウグモは円網の残骸ごといなくなっていた。庭木の剪定のついでに追い払われたようだ。クモには生きる権利はないのである。
ゴミグモの4ミリちゃんは直径10センチくらいの円網を張っていた。
お隣ちゃんは張り替えた様子がない。
自転車置き場の17ミリちゃんは今日も円網を張っていなかった。この子はオトナになることを諦めているんじゃないかという気がする。確認はできないが、交接していないという可能性もあるだろうし。
午後1時。
光源氏ポイントにいるジョロウグモの7本脚ちゃんは縦25センチ、横20センチくらいの円網を張っていた。小さな羽虫も1匹かかっている。
食欲があると判断していいのかどうか微妙なので、落ち葉の下にいた体長7ミリほどの甲虫を円網に投げ込んでみた。すると、駆け寄って牙を打ち込むんだ、これが。どうやら夜間の気温が活動限界よりも高い夜には円網を張り替えることにしているようだ。
ちなみに、作者はもともと油を消化する能力が低いのだが、最近はカツ丼を食べる気にもなれなくなってしまった。これが作者の「カツ丼限界」である。〔…………〕
小さな羽虫を食べないのは、逃げられることのない獲物なら食べるのはいつでもいいという判断なんだろう。
森の縁にいる17ミリちゃんも縦横15センチくらいの範囲を張り替えていた。しかも、何か獲物をもぐもぐしている。この子も暖かい夜には張り替えるようだ。
木造ガレージの近くにいる足探りちゃんは昨日と同じ場所にいた。おそらく、円網を張る気にもなれないので、ここで陣痛が始まるのを待つつもりなんだろう。〔クモにもあるのか、陣痛?〕
ないとは言い切れないかもしれないとしか言えない。〔…………〕
2日前に頭胸部とお尻を「く」の字にしていた小柄なジョロウグモは今日も「く」の字になっていた。もしかすると、お尻の重さを支えるだけの体力がなくなっているのかもしれない。
クモに捕食されたらしいハエの翅が虹色に輝いていた。回折現象なのか、屈折なのかはわからない。
森の縁に残されていた数本のクモの糸にも虹色が現れていた。こちらは問答無用で屈折である。
12月10日。晴れ。最低-1度C。最高14度C。
ゴミグモの4ミリちゃんの円網に付いていた枯れ葉2枚がゴミリボンの上下の端に移されていた。円網を張り替えたというわけだ。
お隣ちゃんは張り替えていないようだった。
自転車置き場の17ミリちゃんも円網を張っていない。
気温が低いせいだろうが、この3匹はほとんど動かないし、獲物もかからない。かといって、大きなイベントだけ記録しておけばいいというものでもないだろう。退屈だったら読み飛ばしてくれてかまわないよ。
午後1時。
木造ガレージの近くにいる足探りちゃんは5センチくらい移動していた。この子も動きが少ないのだが、観察をサボった途端に産卵されてしまいそうな気がするんだよなあ……。
午後2時。
常緑広葉樹の葉の表面に取り付けられた糸の塊を見つけた。糸の取り回しにはジョロウグモの特徴が見えるのだが、縦15ミリ横20ミリくらいしかない。しかもむき出しだ。うーん……体力に余裕がなかった小柄なジョロウグモの卵囊だろうかねえ……。
12月11日。晴れ時々曇り。最低1度C。最高14度C。
午前10時。
ゴミグモの4ミリちゃんとお隣ちゃんの円網が汚れていた。2匹とも張り替えなかったようだ。
自転車置き場の17ミリちゃんも絶食中。
手首と骨盤の背面側と腿の腹面側が痛い。今日は休む。
午後1時。
暇なので関根康人著『生命の起源を問う』を読み始めた。この本のプロローグには「仮に、生命の材料といわれるアミノ酸や核酸塩基、リン酸、糖などを一つに集め、溶かした水を試験管に用意したとしよう。まさにオパーリンのいうところの「有機物スープ」である。しかし、これを煮ても、焼いても、それから運よく生命が誕生することはまずありえない」と、かなりまともなことが書いてあったので期待したのだが……。
第一章「生命とは何か、地球とは何か」には「たとえば、現在の生命の細胞膜をなすリン脂質の分子構造は複雑であり、原始生命はもっと単純な分子――ポリエチレンのような――で細胞膜をつくっていたかもしれない」と書かれている。その先には「固体の氷では流動性に乏しく、また気体の水蒸気では多くの物質を溶解することができない」とも。
何なんだ、これは? 関根氏は基礎的な生物学や化学の知識も持っていないんだろうか?
第一にポリエチレンのようなものは細胞膜に適さないだろう。地球の生物の細胞膜は「膜」と言われてはいるが、実際には多数のリン脂質分子が平面的に並んだ構造になっている。こういう構造だとリン脂質分子を追加するだけで細胞を大きくすることができる。大きくなりすぎて生命活動に支障が出るようになったら、細胞の中身を左右に寄せれば、中央でくびれた細胞膜がつながって2個の細胞に分裂することもできるだろう。細胞の外にある物質を細胞内に取り込む時にも、リン脂質の膜で包んで取り込めば細胞膜に穴を開けなくてもいいのだ。
ポリエチレン製の細胞膜も不可能ではないのだが、外界と隔離された生物は呼吸ができなくなるか、栄養を使い尽くして飢え死にするか、自らの排泄物で溺れ死ぬかだろう。かといって、細胞膜に穴を開けると中身が流れ出してしまう。もちろん、成長することも細胞分裂も不可能だ。つまり、生物の定義のうち、代謝と自己複製ができないのである。
「気体の水蒸気では多くの物質を溶解することができない」については、いったいどこから突っ込んでいいのやら……。
まず「溶解」という現象は液体の溶媒が存在しないと起こらないような気がする。水蒸気に限らず、窒素でも酸素でも酸素でも二酸化炭素でも、自由運動している単分子である気体に他の物質を溶解することができるとは思えない(混合か化学反応なら別だが)。さらに「多くの物質」と書いてしまうと「少ない物質」なら溶解できるという印象を与えることになるのではないかとも思う。実に非科学的だ。
この程度の基礎知識しかないのに、なぜ博士号を取れたんだ? そう思ってカバー裏のプロフィールを読んでみると、関根氏の専門は惑星化学なんだそうだ。つまり、生物学についてはズブズブの素人でしかないわけだ。もしかすると、博士号は銭さえ払えばいくらでも買えるような性質のものなんだろうか?
第二章以降にはどんなデタラメが書いてあるのか楽しみでしょうがない。
12月12日。晴れ。最低4度C。最高9度C。
午前10時。
ゴミグモの4ミリちゃんとお隣ちゃんは円網を張り替えなかったようだ。
自転車置き場の17ミリちゃんは5センチくらい移動していた。屋根の下でほぼ水平の姿勢を取っている。今日は風が強いからバリアーの糸が切れたのかもしれない。
午後6時。
今日は診察日。先生には「先月の血液検査の結果は異常なしだ」と、実に残念そうな顔で告げられた。患者を病気にして処方箋を大量に発行しないと薬屋が儲からないということなんだろうな。さらに薬屋から医者へのキックバックがあると仮定すると、患者が必要としない薬の処方箋を書くことは医者にとってもメリットがあるということになるわけだ。
12月13日。晴れのち曇り。最低-1度C。最高10度C。
午前10時。
ゴミグモの4ミリちゃんとお隣ちゃんは円網を張り替えなかったようだ。獲物である飛行性昆虫の活動限界を知っていて、気温がそこまで上がらないと予想した場合は張り替えないことにしているんじゃないかという気がする。
なお、ダンゴムシのように歩くタイプの節足動物は飛行性昆虫よりも低めの気温でも活動できる。マダラヒメグモのように歩くタイプの獲物を狙うクモが冬でも活動するのは、獲物がかかる可能性がゼロではないからなのだろう。
自転車置き場の17ミリちゃんは屋根の下から動いていない。
動物は食べなければ生きていけない。これほど長期間絶食するということは、交接できないまま冬になってしまったので生きることを諦めているという可能性もあるかもしれない。陽当たりの悪い場所にいるので産卵前の絶食期間が長くなっているだけならいいのだが……。
午後4時。
『生命の起源を問う』を読み終えた。今数えたら付箋が16枚付けてある。それだけ印象的な点があったということだ。いい印象も悪い印象もだが。
とりあえず第二章「地球システムのつくり方」から見ていこう。ここにはアポロ計画によって持ち帰られた月の石によって、1946年に地質学者のレジナルド・デイリーが提案したジャイアント・インパクト説がおよそ30年後に再び注目されることになったという話が面白い。この辺りはさすがに惑星化学の研究者だ。そしてこれは「あり得ない!」と否定されてしまうような論文であっても発表しておけば、いつかは再評価されることもあり得るということでもある。希望を捨ててはいけないのだな。
いい機会だから書いておくと、作者はSTAP細胞のようにわずかな刺激だけで万能性を獲得してしまう細胞が存在してもおかしくはないと思っている。
分化してしまった細胞もフルセットの遺伝子を持っているわけだが、それが万能性を獲得することは、通常はないことになっている。皮膚の細胞が「俺は眼になりたかったんだ!」とか「私は口がよかったのよ!」などと勝手なことを始めたら妖怪百眼や妖怪二口女になってしまう。そういうことが起こっては困るので、不要な遺伝子は戸棚に入れて鍵をかけてあるわけだ(多分)。
しかし、ごくまれに戸棚の鍵をかけ忘れたとか、蝶番が壊れたというようなことも起こるのだろう。そうでもないと、がん細胞も存在できないことになる(あれも本来の役目を忘れて勝手なことを始めてしまった細胞なのだ)。というわけで、がん細胞が存在するのならSTAP細胞も存在するはずだ、と作者は思う。
ただし、免疫システムを持っている生物も多いので、異常な細胞が生まれても、そのほとんどは駆逐されるはずだ(多分)。しかし、人工的な環境には免疫システムが存在しない。したがって、ごくまれにSTAP細胞が生まれても駆逐されることはないわけだ。
そして人工的な環境はいじりやすい。「STAP細胞はありません!」と言いたい研究者なら、そういう実験結果が出るように環境を微調整することも可能だろう。研究者だって人間なのだ。
話を『生命の起源を問う』に戻そう。
その先には「たとえば、RNAの単量体であるヌクレオチドを、単純な材料の分子から作ろうとすると、材料となる分子たちが濃集しているだけでなく、数多くの連続した化学反応の連鎖が必要になる」
「このヌクレオチドの合成に初めて成功したのは2009年で、驚くほど最近のことである。マンチェスター大学のサザーランドは、光やリン酸、熱、金属イオンといった諸条件を組み合わせて、これに成功したのであった」と書かれている。
この話は『次回予告』でネタにした記憶があったので投稿済みの原稿をチェックしてみたら、作者自身が3巻の前編の「RNA起源説の逆襲」で扱っていた。元ネタは『別冊日経サイエンス 生命の起源 その核心に迫る』で、これはすでに手元にないのだが、「RNA起源説の逆襲」には「2009年春にマンチェスター大学のサザーランドらが「ヌクレオチドが自然に生成しうる方法を見つけたと発表した」のだそうだ」と書いてあった。
ただし、彼らが作ったのはシトシンとウラシルだけらしい。つまり、RNAの4種の基本単位のうちの半分しか作れていないのだ。これを「ヌクレオチドが……」としてしまうのは詐欺だろう。そういうわけで、この論文は現在では検索してもヒットしないくらいに忘れられている。その程度の論文をあえて引用したのは関根氏にとって都合のいい論文だったからだろう。ああっと、本当に4種のヌクレオチドを作ったと思い込んでいるのかもしれない。それなら本当のヌクレ落ち度だな。〔…………〕
この章には、現在生きている全生物の共通祖先である「LUCA」について「ルカにとっては、食べ物となる還元剤は水素であり、それを酸化剤である二酸化炭素を使って燃焼させる」という記述もある。間違いではない。何度読んでも「二酸化炭素を使って燃焼させる」と書いてある。消化器に使われるほど燃えにくい二酸化炭素を使って燃焼させる? ああっと、これはもしかすると「脂肪を燃焼させると痩せる」に近い話なのかもしれない。化学屋なら「二酸化炭素と水素を反応させてエネルギーを得る」という表現を使うところだと思うが。〔脂肪層を露出させて燃焼させると命に関わる大火傷を負うことになります。よい子は真似してはいけません〕
その先にはRNAワールド仮説も紹介されている。「RNAには、DNA同様に情報が書き込まれている。同時に、1本の鎖であるRNAは、針金のように自由に姿を変える。これにより、タンパク質のような機能をもつこともできる。つまり、RNAがたくさんあれば、あるRNAが情報をもち、同時に隣のRNAがその複製を駆動する機能を果たすことができる」と。ええと……作者の読解力が足りないのかもしれないが、これだと情報を持つRNAは複製されるだろうが、複製を駆動するRNAは複製されないんじゃないか?……まあいいや。
さらに「RNAとは4色の積み木の一つひとつであるヌクレオチドが、数千から数百万と積み重なった塔である。ヌクレオチドが多くある環境が実現したとしても、そこで数千から数百万のそれらが自然に繋がって塔となることが起きうるのだろうか」として、代謝起源説の解説に繋がっていく。
「実際に、熱水噴出孔での水と岩石の反応を実験室で模擬し、二酸化炭素を加えてみると、ピルビン酸やアセチルCoAのような、還元的アセチルCoA経路の主要駅ともいえる化合物が非生物的に生成されうる。これら化合物は、僕らがオーストラリアで歩いたように、熱水循環に従い流れていく。その先で海水と出会い、あるものは消費される。それが再び熱水循環に取り込まれると、海水中で消費されたものが生成される。このように物質循環に沿って、AからB、BからC、CからDとなりAに戻るという回路がまわりだす」
「そこに海水や陸水など別の物質循環が接続されると、主要化合物たちは別の反応経路をつくりだす。陸水から来た化合物と熱水の化合物が出会い、やがて膜状の物質の生成につながる反応経路をつくるかもしれない。化学反応のネットワークは、物質循環の分だけ、東京の路線図のように複雑になっていく。これらネットワークの主要分子は次々と、別の物質循環がもたらした膜の中にとじこめられていく。つまり僕らの体で起きている代謝とは、ミニチュア化されれ、膜内に押し込められた原始地球の物質循環といえる」
はい。ここでやっと細胞膜の起源が語られる。実はこの本には細胞膜についての説明がほとんどない。細胞内のDNAは通常1セット、細胞分裂の前でも2セットあればいい。RNAは必要に応じて作られるからゼロから1セットの間だと思う。しかし、1個の細胞を覆うのに必要なリン脂質分子は……どれくらいになるんだろう? 星の数ほどではないかなあ……。
DNAをアーティストが作った芸術品に例えるなら、リン脂質は一定の品質が保証されている量産品だ。ポリエチレンのカプセルを1個だけ作るようなわけにはいかないだろう。まあ、そんな知識はなくても惑星化学の論文屋さんは勤まるのかもしれない。あるいは、あまり詳しくないから適当にごまかそうとしているのか、だな。
第四章「異形の生命」では、まずリンについて語られている。
「「自己複製」「自己の維持」「自己と外界の隔離」の3つが、生命の古典的な定義だといわれる。「自己複製」に必要な遺伝情報の保存や伝達を担うDNAやRNA、「自己の維持」のためのエネルギー源としてのATP(アデノシン三リン酸)、さらには「自己と外界との隔離」を行う細胞膜を構成するリン脂質。これら機能を持つ生体分子の根幹をなすのが、他でもないリンである」
それでいて、現在の地球では水に溶けているリンの存在量がきわめて少ない。作者など「同じような性質持っている上に水に溶けやすいヒ素を使ってくれればばよかったのに」とまで考えたくらいだ。
この謎を解いたのが、ベルリン自由大学のフランク・ポストバーグらのグループと関根氏らのグループだった。
「カッシーニ探査機の分析器によって得られた土星の衛星エンセラダスの海水には、地球の海水の数万倍かそれ以上の高濃度でリンが含まれていることを明らかにした。同時にこの異常濃集がどのような要因で起きたのかが、次なる問いとしてただちに立ち上がった」
まるでガンダム――。〔やめんかい!〕
「この問いに答えたのが、僕ら日本の研究チームであった。高価な隕石を使った熱水実験の結果、リン濃集を引き起こした要因が、アルカリ性かつ高炭酸濃度のエンセラダスの海洋の化学状態にあることを突き止めた」
なんともドラマチックな展開である。好きだなあ、こういうの。
関根氏はこういうリンやアンモニアに富んだ地下海を「PNオーシャンズ」と呼んでいるのだそうだ。
それに対して土星系よりも太陽に近い氷天体の地下海は硫黄に富んだ「Sオーシャンズ」になるだろうと関根氏は予想しているのらしい。
「Sオーシャンズでは、硫黄が天体で起きる循環と反応の中核元素となっているだろう。具体的には、チオールやチオエステルなど、硫黄を含む有機分子としてである。PNオーシャンズとはまったく異なる化学進化が起き、まったく別の生成物と反応ネットワークが形成されるに違いない」のだそうだ。
その先ではキュリオシティが分析した火星のゲイル・クレーターの堆積物の話が出てくる。キュリオシティが泥のサンプルをオーブンで加熱して、熱分解してガスとなった有機物を分析したところ、大量の硫黄が含まれていて、チオールなどの硫黄を含む有機分子も発見されたのらしい。生物そのものは発見されてはいないものの、もしも火星で生物が生まれていたとしたら、地球の生物とは違う有機物を使って生命活動をしていたかもしれないというわけだ。
ここまで書いただけで消灯時間になってしまった。第五章はまた明日。
12月14日。雨のち晴れ。最低3度C。最高11度C。
午後1時。
午後2時頃までは雨らしいので、先に『生命の起源を問う』の第五章「生命の誕生」に手を付けることにする。なお、この章では地球における生命の起源について考察している。
「系統樹の根元に位置する生命共通祖先LUCAは、約40億年前の熱水噴出孔で生きていたと推定されている」
「生命の起源自体は、このルカからさらにさかのぼること数億年、つまり45億年前から40億年前に起きたといわれる」
細かいことを言うようだが、「起源」は起きたり起きなかったりするものなんだろうか? まあいいか。
関根氏は、自己複製が先だとするいわゆるRNAワールド仮説について「遺伝物質をつくる大量の材料物質(RNAであればヌクレオチド)が生まれ、それらが偶然にも重合し、自己複製を行う物質ができるというものであり、これには類いまれな幸運が必要になる」と言っている。
では代謝起源説はどうか?
「熱水噴出孔は物質循環の交差点であり、熱水と岩石が生み出した水素と、大気由来の二酸化炭素が出会い、化学反応によりエネルギーが絶えず生み出される。熱水噴出孔で起きる化学反応のエネルギーは、周辺に存在する分子に受け渡されて、それが別の分子と別の反応を起こす源となる。反応でできた分子がさらに別の分子をつくり、鉄道の路線図のような、反応ネットワークが形成されていく」
ここまではいいのだが……。
「やがて、ネットワークとなった化学反応の1つで、膜をつくる単純な分子(両親媒性分子)もできてくる。その膜に包まれた小さな球状組織のなかに、熱水噴出孔のネットワークを担う分子たちも閉じ込められていく」
はい。これは完全無欠の大間違い。
素人さんにはわからないだろうが、細胞膜はただリン脂質分子が平面的に並んでいる膜ではない。各種イオンや有機化合物を選択して透過する性質を持っているのだ。RNAやタンパク質などを細胞の外へ出してはいけないのは当たり前だが、水が過度に細胞内に浸入することは阻止しないと細胞が破裂してしまうだろう。また、生命活動によって消費されたものは細胞外から取り込まなければ生命活動が止まってしまうし、廃棄物は排出しなければならない。そういう機能を細胞膜にもたらしているのは各種のタンパク質なのである。
作者は遺伝子を獲得する前の生命前駆体の細胞膜はタンパク質でいいんじゃないかと思ったことがある。強い触媒作用を持つ黄鉄鉱(鉄と硫黄の化合物の一種)の表面に吸着されたタンパク質群が代謝を行うという形だ。これが何かの理由で剥がれた時に餃子の皮のように二つ折りになれば細胞のできあがりというわけである。その近くにRNAが漂っていたなら、餃子の具のように包み込めば自己複製もできるようになるかもしれない。そして、この細胞膜だと機能が過剰なので、機能しなくてもいいタンパク質はリン脂質に置き換えていけば地球型生物の細胞膜ができあがるだろう。
この章の最後には、地球における生命誕生の場として、直径10キロメートルサイズの鉄隕石の衝突によってできた直径約200キロ、深さ数キロのクレーターを想定したシミュレーションが出てくる。これは素晴らしい。作者が知っている範囲では最も優れたシナリオだ。ただし、細胞膜をほとんど無視しているのと、今のところヌクレオチドが2種類しかできないのが欠点だな。ああっと、初期の地球型生物は2種のヌクレオチドでもよかったのかもしれない。使うアミノ酸の種類が少なければそれでもやっていけるだろう。そして、その中から4種のヌクレオチドを使う生物が進化して現在に至るというシナリオだ。というわけで、地球の片隅にはまだ2種のヌクレオチド型生物が細々と生き残っている可能性もないとは言えないかもしれない。
※2種のヌクレオチドで何種類のアミノ酸を指定できるか考えてみよう。
一般的な地球型生物と同じように3個の塩基で組み合わせで1個のアミノ酸を指定できるとすると、シトシン(C)とウラシル(U)の組み合わせは、CCC、CCU、CUC、CUU、UUU、UUC、UCU、UCCで8種類。「ここから翻訳しなさい」と指定する開始コドンと「ここで終わり」という終止コドンを除くと6種類のアミノ酸を指定できる。
もちろん、現在の地球型生物は約20種類のアミノ酸を使っているが、それはアデニンとグアニンのヌクレオチドを獲得してから……だめだ! シトシンと塩基対を形成できるのはグアニン、ウラシルと塩基対を形成できるのはアデニンだけだ。つまり、グアニンとアデニンのヌクレオチドがなければ自己複製はできないのである。サザーランドらの実験が忘れられてしまったのはそういうわけなんだろう。ああっと、グアニンやアデニンと形が似ているタンパク質があれば、それを鋳型にしてRNAを複製できるかもしれない。〔それは「自己複製ができるRNA」とは言えないぞ〕
その程度のトリックは許されてもいいと思うけどなあ……。
さてさて、シミュレーションの環境は以下のようなものとされている。
「クレーターの外海の表層水は、大気中の二酸化炭素が溶け込み酸性の海水となっている。当時の地球には、陸地らしい陸地はほとんどない。地球に大陸ができ始めるのは約30億年前であり、大きなクレーターのリムのみが一面の大海原から顔を出している」
このリムの周囲の浅瀬でチオエステルが誕生するのだそうだ。
「表層海水は大気の二酸化炭素のために酸性を呈するが、水深が深くなるにつれ次第に中性に変わり、やがて海底付近の深海ではアルカリ性になる」
これはクレーターの内部では天体衝突によって地殻の下のマントルまで海水中に露出しているからだそうだ。このアルカリ性の海水によってリン酸塩鉱物から大量のリンが海水に溶け出すのらしい。
「いずれにせよそこでは、チオエステルが豊富なリンと反応してリン酸エステルとなり、またヌクレオチド前駆体とリン酸エステルが結合し、ヌクレオチドを作ると期待される。そして、生成物は海底に横たわるアルカリ性の熱水噴出孔に届けられる」
うーん……地球には重力がある。したがって、熱水噴出孔は直立するような気がするんだが……。
「待ち受ける熱水噴出孔では、もはや代謝と呼んでもいいような熱水循環の反応ネットワークが小胞内に閉じ込められている。大規模なクレーター全体に及ぶ物質循環で生まれたリン酸エステルとヌクレオチドは、小胞にノックするように触れ合い、そして取り込まれる。ここに大規模な物質循環と、熱水噴出孔のローカルな循環が出会い、結合したのである」
だから、リン脂質だけの膜で包まれた小胞をいくらノックしたって取り込まれないってば。
まあ、突っ込みどころが多いという点で面白い本ではあったかもしれないなあ。やれやれ……。
※リボヌクレオチド(RNAの基本単位)はリン酸とリボース(糖の一種)と4種の核酸塩基でできている。生命誕生以前の地球にリン酸イオンが存在する可能性は示されたし、糖や核酸塩基も、窒素と二酸化炭素と水蒸気を主成分とする大気に雷放電や隕石の突入のような大きなエネルギーを与えれば生成しないこともないだろう。難しいのは①リボースと4種の核酸塩基を②同時期に③細胞の核レベルの狭い範囲に揃えることだ。もしも作者がこんなことを依頼されたら「神様にお願いしてください」と言うしかないなあ。
午後3時。
ゴミグモの4ミリちゃんとお隣ちゃんは円網を張り替えていなかった。
自転車置き場の17ミリちゃんも屋根の下にいる。
12月15日。晴れ。最低4度C。最高13度C。
午前11時。
ゴミグモの4ミリちゃんとお隣ちゃんは円網を張り替えていなかった。
自転車置き場の17ミリちゃんも向きを少し変えただけのようだ。
午後1時。
木造ガレージの近くにいる足探りちゃんは産卵していなかった。数センチ移動したかもしれないがそれだけだ。
他のジョロウグモたちはすべていなくなっていた。観察を4日もサボるとこういうことになるのだ。
森の縁にいる17ミリちゃんは1メートルくらい引っ越したようだった。ただし、円網は張らずに糸の束の下にいる。
光源氏ポイントでは落葉広葉樹の葉がほとんど落ちて、カマキリの卵鞘やイラガの繭が見えるようになっている。
7本脚ちゃんは数本の糸の下にぶら下がっていた。やっと絶食を始めたわけだ。この時期から絶食だと産卵は1月になるかもしれないなあ。
歩道を足探りしながら歩いているジョロウグモもいた。体長は17ミリほどで、お尻はラグビーボールとソーセージの中間くらいだから、産卵場所を探しているんじゃないかと思う。
ふと思いついて、この子の前に指を置いてみた。もちろん、「怖くない怖くない……」という呪文も唱える。
すると、この子は脚でチョンチョンとつついてみたり、触肢でもしょもしょしてみたりしてから指に乗ってきた。咬まれてはいないので「怯えていただけなんだよね」と言えないのが残念だ。〔…………〕
その様子を撮影していたら、この子は手のひらの上を歩いて袖口に入り込もうとし始めた。もはやこれまで。枯れ葉の上にリリースさせてもらう。作者はナウシカになれるほどの才能はないようだ。
午後3時。
ガードレールの上を歩いている体長3ミリほどの徘徊性らしいクモを見つけた。この体長で歩かれると撮影がものすごく難しい。
12月16日。晴れ。最低-1度C。最高13度C。
午前10時。
日陰にはまだ霜が残っている。
それなのに、ゴミグモの4ミリちゃんは円網を張り替えていたのだった。この子は、よく言えば傾奇者、悪く言えば変態というタイプなんじゃないかと思う。
お隣ちゃんはノーマルだから円網なんか張っていない。ああっと、もしかしてこの2匹は、お互いに相手が先に休眠に入るのを待っているんだろうか?
自転車置き場の17ミリちゃんも数センチ移動しただけだった。
午後1時。
道端の枯れ草の中でタンポポが咲き始めていた。
木造ガレージの近くにいる脚探りちゃんは動いた様子がない。
森の縁の17ミリちゃんもじっとしている。
光源氏ポイントにいる7本脚ちゃんも動いていない。ちょっと心配になったので7本脚ちゃんの脚をツンツンしてみると、ちゃんと反応した。やはり産卵前の絶食らしい。何よりである。
民家の塀にクビキリギスが1匹とまって日光浴をしていた。夜は冷え込むのだが、昼間なら体温を上げられるわけだ。
12月17日。晴れ時々曇り。最低1度C。最高13度C。
午前10時。
ゴミグモの4ミリちゃんは円網を張り替えなかったようだ。
お隣ちゃんの円網には縦糸が2本しかないように見える。
自転車置き場の17ミリちゃんも屋根の下で水平姿勢のままだ(向きを少し変えたようだが)。
背筋と骨盤の背面側と腿の腹面側が痛いので今日は休み。変温動物であるクモにとって気温の低下は、時間の流れが遅くなるように作用するはずだ。それなら観察は1日おきか2日おきでもいいはずだ……ということにしておく。
12月18日。晴れ。最低2度C。最高12度C。
午前10時。
ゴミグモの4ミリちゃんは円網を張り替えたらしかった。さほど冷え込まなかったせいだろう。直径は変化なし。
お隣ちゃんは円網を張っていない。
自転車置き場の17ミリちゃんは数センチ移動しただけのようだ。
午前11時。
木造ガレージの近くにいる足探りちゃんもほとんど動いていないようだ。
森の縁にいる17ミリちゃんは縦5センチ、横7センチくらいの網のようなものを張っていた。ただし、横糸はないようだ。この場所は昼過ぎから太陽光が射し込むので、日光浴姿勢を取るための「座布団」なのではないかと思う。
光源氏ポイントにいる7本脚ちゃんは縦横10センチくらいのまともな円網を張っていた。食欲はあるわけだ。体長7ミリ以下のゴキブリ体型の昆虫なら元気に歩きまわっているんだが、どうしようかねえ……。
午後3時。
堤防の上の舗装路にはハナムグリの仲間の幼虫が1匹転がっていた。この寒いのにどうして出てくるんだよ! この子はまったく身動きしないので、好きなだけ撮影してから枯れ草の下に放り込んでおく。
午後4時。
今日はサイクリングシューズのつま先部分に養生テープを貼って、風が通らないようにして走ってみた。これがけっこう暖かい。10度C以上の気温であれば使えそうだ。それ以下に下がるようならローラー台(室内練習機)に乗ればいいしな。
12月19日。晴れ時々曇り。最低-2度C。最高13度C。
午前10時。
ゴミグモの4ミリちゃんは円網を張り替えなかったようだ。
お隣ちゃんも円網を張っていない。
自転車置き場の17ミリちゃんは屋根の下でお尻を斜め下に向けていた。よく見ると、黒っぽくなっているバリアーがほぼ水平に張ってある。そこに脚先の爪を引っかけてぶら下がっているのらしい。なお、お尻の白い班の大きさは体長の31分の1になっている。
午後1時。
足探りちゃんと森の縁にいる17ミリちゃんと7本脚ちゃんは動いた様子がない。
午後3時。
森の縁の17ミリちゃんがいなくなっていた。産卵だと思う。円網を張り替えていないのを確認したのは12月15日だから、絶食期間は5日くらいになるだろう。
午後5時。
またサングラスのレンズが割れてしまった。作者が使っているサングラスはテンプルに直接レンズをはめ込むタイプなので、軽くて上方の視界が広いのだが、取り付け部の近くでレンズが割れやすいのだ。
12月20日。曇り一時雨。最低2度C。最高15度C。
午前11時。
ゴミグモの4ミリちゃんは円網を張り替えなかったようだ。ただし、この時間では汚れているから張り替えていないと判断するのは危険かもしれない。円網は張り終えた瞬間から横糸の粘球が劣化していくし、風が吹けば埃が付いていくのだ。
自転車置き場の17ミリちゃんは屋根の下でほぼ水平の姿勢を取っていた。昨日よりは暖かいせいだろう。
今日もあちこちが筋肉痛なのでお休み。無理するとケガするか、車にはねられるかしそうだし……ということにしておく。「いい若えもんが言い訳をしていいわけ?」ということわざもあるのだが、作者は年寄りだから許されるだろう。〔…………〕
午後1時。
ふと思いついて、サングラスのテンプルに残っているレンズの破片を千枚通しでこじってみたら外れた。よかった。これでテンプルは再利用できる。
12月21日。雨時々曇り。最低10度C。最高17度C。
午前10時。
舗装路を黒いナメクジが10匹くらい這っていた。暖かいのだなあ。
ゴミグモの4ミリちゃんとお隣ちゃんは円網を張っていなかった。昨夜は暖かかったはずだから、雨の中で張り替える気にはなれなかったんだろう。
自転車置き場の17ミリちゃんは10センチくらい移動して、お尻を斜め下に向けていた。
路面が濡れているので今日はお休み……もとい、今日もお休み。
午後5時。
発注しておいたサングラス2個が届いたのだが、片方はすでにレンズにヒビが入っていた。レンズをはめ込む部分の工作精度が低いのらしい。アメリカ人に品質管理は無理なんだろうな。
午後10時。
『別冊日経サイエンス シン・進化論』に「試験管で再現したRNA生命体の進化」という記事が載っていた。著者は中島林彦(編集部)。協力:市橋伯一(東京大学)だそうだ。「RNA生命体」ということなので、ついに自己複製ができるRNAが作成されてしまったのか(作者は「地球で生まれた最初の生命は増殖するタンパク質」派なのだ)……と思ったら大間違い! 記事を読み進めていくと「反応液にはRNA複製酵素とRNAの材料が入っているので……」と書かれているのだ。それでは複製ができるのは当たり前ではないか! そもそも、RNAの複製だけでは生命活動とは言えないだろう。
「遺伝情報をDNAではなくRNAの形で保持する原始生命体を模擬した分子システムの進化実験が進んでいる」
「疑似RNA生命体が試験管の中で自己複製を繰り返すうちに、その生命体の力を利用して増殖する寄生体が出現した」
「生命体と寄生体がともに進化することで種の多様化が生じ、複雑な複製ネットワークが形成された。寄生体は生命の誕生と進化に重要な役割を果たしている可能性がある」
ということらしいのだが、複製酵素を加えるのならDNAでも同じような実験ができるんじゃないのか? これは多分「RNA」という用語を使うことで価値をねつ造しようという意図をもって書かれた記事なんだろう。編集者は化学に関する知識が足りないだけかもしれないが、東大の先生は確信犯に違いない。
ただし、油の中の微小な水滴を細胞の代わりにするというアイデアは素晴らしい。細胞膜がないから、いずれは生命活動が停止してしまうわけだが、それまではこの水滴群は「生きている」と言えるわけだ。進化が起こるのも当たり前だろう。
12月22日。晴れ一時雨。最低5度C。最高11度C。
午前10時。
ゴミグモの4ミリちゃんとお隣ちゃんは横糸を張っていなかった。
自転車置き場の17ミリちゃんも屋根の下でお尻を斜め下に向けていた。脚に触れてみたのだが、反応が鈍い。よくない傾向だ。
午前11時。
木造ガレージの近くにいる足探りちゃんは産卵を終えて「卵囊を守る」をしていた。太い枝の下なので、雨が降っていても産卵に支障はなかっただろう。
光源氏ポイントにいる7本脚ちゃんは縦10センチ、横15センチくらいの円網で水平姿勢を取っていた。体の側面を南に向けているから、日光浴で体温を上げようという姿勢だろう。念のために体長12ミリほどのワラジムシを落とし込んでみたのだが、円網にかからなかった。
午後5時。
2日間休んだせいか、80キロを余裕で走ってしまった。休んだ方がパフォーマンスが向上するというのは年寄りの証拠だろうな。
12月23日。晴れ。最低-1度C。最高10度C。
午前10時。
ゴミグモの4ミリちゃんとお隣ちゃんは横糸を張っていなかった。25日と26日は最低気温が高くなるらしいので、雨さえ降らなければ張り替えるかもしれない。
自転車置き場の17ミリちゃんも屋根の下で体ごとお尻を斜め下に向けていた。
午後1時。
木造ガレージの近くにいるジョロウグモの足探りちゃんは今日も「卵囊を守る」をしている。力尽きるまでこのままかもしれない。
光源氏ポイントにいる7本脚ちゃんも体ごとお尻を斜め下に向けていた。撮影しようとして係留糸が固定されている枝に触れると、水平よりもやや上に向けたから、まだまだ元気なようだ。
森の中ではユリ科らしい草の花芽が膨らんでいた。春が来たら、すぐに花を咲かせるつもりでいるんだろう。
縦30ミリ、横35ミリ、厚さ7ミリくらいの土器の破片らしいものを拾った。外側(多分)が明るい赤褐色で内側(多分)は白っぽい。釉薬は塗られていないし、原料の土にも不純物が多く含まれているようだから現代のものではないだろう。
実は作者は土器が好きなのである。縄文式土器なんかを見ていると胸が高鳴るくらいだ。これを専門用語では「胸が土器土器」と言う。〔…………〕
午後4時。
近所のホームセンターで黄色いバンダナを見つけた。今使っているオレンジ色のバンダナはだいぶ白っぽくなっているので、2枚購入する。「幸せの黄色いハンカチ」ということわざもあるしな。〔それはことわざじゃない!〕
12月24日。雨一時雪。最低2度C。最高8度C。
午前11時。
ゴミグモの4ミリちゃんとお隣ちゃんは横糸を張っていなかった。この2匹は、このまま春が来るのを待つつもりなのかもしれない。そういうゴミグモがいてもおかしくはないだろう。
自転車置き場の17ミリちゃんも身動きした様子がない。
12月25日。曇りのち雨。最低6度C。最高13度C。
午前10時。
予想していたことだが、ナメクジポイントには黒いナメクジが多数いた。足の置き場に困るほどだ。ざっと数えてみると一メートル四方の範囲に11匹だったから、長さ一五メートルだと計算上は100匹以上いることになる。
ちなみに、この道路の脇の草地は3方が道路で、残り1方は集合住宅2棟と駐車場で囲まれているのだが、ナメクジが最も多いのは東側の約15メートルである。北側の約30メートルにはやや少なく、西側の15メートルでは2匹しか見つけられなかった。ナメクジにも好みがあるのかもしれない。
ゴミグモの4ミリちゃんはいなくなっていた。1本の糸で吊り下げられているゴミリボンだけが風に吹かれて揺れている。
それに対して、お隣ちゃんはまだそこにいる。横糸はないが、ゴミリボンも上と下から糸で支えられているようだ。作者は無駄のない生き方をしているお隣ちゃんの方が先に休眠に入るだろうと思っていたのだが、見事にハズレだったわけだ。
「そんなこともあるさ、ゴミグモだもの」
オニグモは休眠前に食い溜めをするのだが、ゴミグモは逆に絶食するという可能性もあるかもしれない。今のところ論理的な説明はできないが。
自転車置き場の17ミリちゃんは今日もお尻を斜め下に向けていた。
12月26日。雨のち晴れ。最低7度C。最高10度C。
午前11時。
ゴミグモのお隣ちゃんはゴミリボンごと風に吹かれて揺れていた。
自転車置き場の17ミリちゃんもお尻を斜め下に向けたままだ。
12月27日。晴れ。最低-3度C。最高8度C。
午前10時。
水たまりには氷が張っていて、空き地には霜柱も立っていた。
それほど寒いのに、なんということか、ジョロウグモの新顔が現れた。〔見落としていただけじゃないのか?〕
民家の庭にいるので近づけないのだが、体長は16ミリほどで、ソーセージ形のお尻はすでに黄色と青灰色の横縞模様になっている。おそらく1度目の産卵を終えてからそこにやって来たんだろう。体ごとお尻を斜め上に向けているから、円網も張っているはずだ。庭木の間という陽当たりのいい場所にいるから、これから2度目の産卵を目指すというのもそれほど非現実的ではないかもしれない。
ゴミグモのお隣ちゃんはゴミリボンごと風に吹かれて揺れている。
自転車置き場の17ミリちゃんは屋根の端の方へ10センチくらい移動していた。
午後5時。
ゴミグモのお隣ちゃんがゴミリボンから7ミリくらい離れた位置でお尻を斜め下に向けていた……というか、斜め上に向かおうとしているのかもしれない。やっと休眠する気になったんだろう。
自転車置き場の17ミリちゃんはいなくなっていた。いまさら引っ越しするをするとも思えないから、産卵場所へ向かったんだろう。ただし、その場合は産卵前の絶食期間が25日くらいになってしまう。これほどの長期間絶食したジョロウグモは古今に例がない。半透明の屋根の下では日光浴で体温を上げることはできなかっただろうし、お尻が細い分、体温を維持するのも難しかっただろうが、それだけで説明していいのかどうかは疑問である。
12月28日。晴れ。最低-2度C。最高11度C。
午前11時。
民家の庭にいる16ミリちゃんは――この時期としては異常に活発に――脚探りしながら動きまわっていた。脚探りするということは円網を張るための動きではないだろう。バリアーを張ろうとしているのかもしれない。引っ越し直後には家具の再配置などの作業が必要なのだろう。〔ジョロウグモは家具を置かない〕
ゴミグモのお隣ちゃんはゴミリボンの近くのツツジの葉の上にいた。今の状況では、ツツジの葉の方がゴミリボンよりも揺れないからだろう。ゴミリボンを下から支えていた糸を張り直す気にもなれないが、かといって、引っ越しをするのも面倒だということらしい。
やれやれ……気温が下がると、おかしなことを始めるクモが増えるので困る。
「大っ嫌いだ。冬のクモなんか」
午後1時。
木造ガレージの近くにいる足探りちゃんは「卵囊を守る」を続けていた。この子のお尻はそれほど細くはないのだが、1回の産卵で「いいクモ生だったわ」という気分になってしまうタイプなのかもしれない。
光源氏ポイントでは7本脚ちゃんが姿を消していた。産卵だと思うが、4日間も観察をサボったので、いつ姿を消したのかわからない。クモの神様にへそを曲げられてしまったようだ。〔クモの神様にもへそがあるのか?〕
ああっと、クモは有羊膜類ではないからへそはないだろうな。曲げられるところというと……腹部の頭胸部側くらいか。
午後3時。
森の縁からもう少し森の中に踏み込んだらジョロウグモが2匹いた。おそらく2匹とも産卵を終えた子だろう。
1匹は体長20ミリほどで、低い木の枝の下に数本の糸を張り渡して、そこにぶら下がっていた。
もう1匹は体長18ミリほどで、縦横5センチくらいの範囲に縦糸と横糸を張ってそこにいる。これもお迎えが来るのを待つための座布団だと思うが、それでもきちんと縦糸と横糸を張る真面目な子もいるのである。
午後8時。
ゴミグモのお隣ちゃんはゴミリボンから7センチくらい離れた所にいた。ただし、頭胸部はゴミリボンに向けている。まだ迷っているようだ。
12月29日。晴れ一時雨。最低1度C。最高11度C。
午前11時。
ナメクジポイントには数匹のナメクジがいた。それくらいの暖かさということだ。
民家の庭にいるジョロウグモの16ミリちゃんは獲物を仕留めたらしかった。第一脚と第二脚を高く上げているから比較的大型の獲物か、暴れる獲物だったんだろう。それはともかく、この時期に獲物を食べているようでは2度目の産卵は1月か、ひょっとすると2月になってしまうかもしれない。大変だろうが、作者にできることは見守ることだけだなあ。
なお、この子の近くには体長18ミリほどのジョロウグモもいるのだが、この子はすでに絶食に入っているようだ。
ゴミグモのお隣ちゃんの姿はなかった。休眠に入ったんだろう。さようなら、お隣ちゃん。安らかに眠るがいい。〔やめんかい!〕
12月30日。晴れ。最低0度C。最高16度C。
午前11時。
民家の庭にいる16ミリちゃんと18ミリちゃんは動いた様子がない。明日からは、記録しておくべきイベントがない限りはいちいち記載しないことにしよう。
午後2時。
木造ガレージの近くにいる足探りちゃんは今日も「卵囊を守る」を続けている。お尻は十分に太いのだから、もう1回産卵してもよさそうな気がするのだが、「いいクモ生だったわ」という気持ちになってしまったようだ。
森の中にいるジョロウグモ2匹も動いた様子がない。この3匹もイベントが発生した時だけ記載することにしよう。
午後3時。
カのような昆虫が1匹と多数の小さな羽虫が飛んでいた。暖かいのだなあ。
12月31日。晴れ。最低1度C。最高13度C。
午前10時。
民家の庭にいる16ミリちゃんはホームポジションではなく、円網の向かって左上辺りにいた。多分、そこが日光浴に適した位置だと判断したのだろう。なお、作者はクモを観察してきた経験を基に「クモには判断力がある」と考えている。あるわけない教信者は認めないだろうけどね。
午前11時。
木造ガレージの近くにいた足探りちゃんがいなくなっていた。地面にも落ちていないから立ち去ったのかもしれない。その場合でも、なぜ今になってというのがわからないのだが……。
森の中にいるジョロウグモ2匹はそのままだった。念のために18ミリちゃんの円網(?)に触れてみたのだが、横糸が劣化仕切っていた。張り替えてから好くなくとも48時間は経っているようだ。
今年は人工物に産卵したジョロウグモは1匹だけになりそうだ。強い雨で電線の間に円網を張っていたグループが大きな被害を受けたようだから、そのせいだろう。
クモをつつくような話 2025 完
クモをつつくような話 2025はこれにて完結とします。




