【漫才】女子大生キョンシーが朝起きてなっていたら困るもの
ボケ担当…台湾人女性のキョンシー。日本の大学に留学生としてやってきた。本名は王美竜。
ツッコミ担当…日本人の女子大生。本名は蒲生希望。キョンシーとはゼミ友。
ボケ「どうも!人間の女子大生とキョンシーのコンビでやらせて頂いてます!」
ツッコミ「私が人間で、この娘がキョンシー。だけど至って人畜無害なキョンシーですから、どうか怖がらないであげて下さいね。」
ボケ「どうも!留学生として台湾から来日致しました。日本と台湾、人間とキョンシー。そんな垣根は飛び越えていきたいと思います。こんな風にピョンピョンとね。」
ツッコミ「いやいや、両手突き出して飛び跳ねなくて良いから!」
ボケ「聞いてよ、蒲生さん!私さ、夏休みを利用して台湾の実家へ里帰りしたんだよ。」
ツッコミ「おお、良いじゃない!私は実家暮らしだからあくまでも想像だけど、久々に家族水入らずで過ごすのは感慨深かったんじゃない?」
ボケ「まぁね、蒲生さん。五歳下の妹も、久しく見ない間に大人っぽくなっていたよ。」
ツッコミ「妹の珠竜ちゃんって中学生だったよね。流石は思春期、成長が早いんだね。だけど思春期だと色々と気難しくなったりしていない?ほら、『お父さんのシャツと一緒に洗わないで!』みたいな事を言ったりとか。」
ボケ「それは大丈夫だけど、こんな事は言われたかな。『くれぐれも、触る時に爪でガリッとやらないでよ。朝起きた時にお姉ちゃんみたいになっていたら困るから。』ってね。」
ツッコミ「ああ、美竜さん以外の家族は普通の人間だったっけ。そりゃ珠竜ちゃんがそう言いたくなるのも分かるよ。」
ボケ「確かに妹の珠竜もお母さん似の美人だからね。これで私みたいにグラマラスで美しいプロポーションになったら、クラスの男子の視線が集中して落ち着かないだろうな。」
ツッコミ「違う、違う!そうじゃないって!『お姉ちゃんみたいにキョンシーになったらどうしよう』って事だよ。噛まれるだけじゃなくて引っ掻かれてもなっちゃうんでしょ、キョンシーに?」
ボケ「あっ、そっち?」
ツッコミ「他に何があるっていうの?そりゃ貴女は大学進学のタイミングでキョンシーになったから良いけど、珠竜ちゃんはまだ中学生なんだよ。」
ボケ「そうなんだよね…体育の授業までに死後硬直が解けなかったら、バスケやバレーみたいな球技でクラスの子の足を引っ張っちゃうし。」
ツッコミ「何処の世界に、両手を伸ばしてピョンピョン跳ねながらドリブルやレシーブをする中学生がいるのよ!」
ボケ「それに制服も問題だよ。いきなり『キョンシーになったので、明日から官服で通学します。』って届け出をしても、先生達だって困っちゃうよ。官服を着た珠竜が生徒指導の先生に『どうして制服じゃないんだ?』って呼び止められるのは忍びないからね。」
ツッコミ「制服がどうこうの問題じゃないよ!」
ボケ「そう言う訳で聞きたいんだけど、蒲生さんには『朝起きてなっていたら困る物や事』って何かある?」
ツッコミ「えっ、随分と急な質問だなぁ…」
ボケ「変化するのは蒲生さん本人じゃなくても良いよ。」
ツッコミ「その条件で強いて挙げるなら、『朝起きたら周りがゾンビの巣窟になっていた』かな。」
ボケ「おっ、周り一面がゾンビ!良いじゃない!一緒にダンスしちゃう?」
ツッコミ「ちょっと何言ってんの?それじゃテーマパークのハロウィンイベントだよ!」
ボケ「踊り疲れてお腹が空いても、その辺でチュロスやポップコーンを買えば良いから楽だよね〜!」
ツッコミ「いい加減にテーマパークから離れなさいよ!ハロウィンイベントのゾンビはテーマパークのキャストだから危なくないけど、こっちは噛まれたらゾンビになっちゃうんだよ!」
ボケ「蒲生さんったら、ゾンビに噛み付かれるような真似でもしたの?リード紐と首輪で繋がれているのを良い事に、執拗に煽りまくったとか?」
ツッコミ「外飼いの猛犬じゃないんだから!ゾンビは生きている人間の肉を食べる為に噛み付いてくるんだ。それで噛まれた人もウイルスに感染してゾンビになっちゃうんだよ。」
ボケ「そうして噛まれてゾンビになった人が、また他の誰かを噛んでゾンビにするんだね。」
ツッコミ「そうだよ!そうしてどんどん仲間を増やすのがゾンビの怖い所なんだ!」
ツッコミ「ここにいる皆さんが知り合いを紹介して、その人達がまた知り合いを紹介します!そうしてみんなで成功して、みんなでお金持ちになりましょう!」
ツッコミ「それじゃネズミ講かマルチ商法だよ!だけど今の例え話は、ゾンビの怖さを的確に説明しているね。」
ボケ「どんどん仲間を増やしていって、思考停止状態で浄水器や健康食品を売りつけていく。全く恐ろしい限りだよ。」
ツッコミ「それじゃ本物のネズミ講やマルチ商法だよ!確かにゾンビは思考停止しているかも知れないけど、浄水器も健康食品も売りつけてこないから。頭の中にあるのは食欲だけで、生きている人間なら親兄弟や友達でも御構い無しなんだよ。」
ボケ「成る程、それは確かに生きている人間には一大事だね。」
ツッコミ「全く、他人事みたいに言っちゃって…あっ、そうか!」
ボケ「その通り!私達キョンシーは既に死んでいるから、ゾンビだって見向きもしないんだよ。まあ、私達もゾンビの血なんて吸いたくないけど。」
ツッコミ「成る程、キョンシーにしてみればゾンビ騒動も所詮は他人事。食べる人間のいなくなったゾンビが朽ち果てるまで、高みの見物をしていたら良いんだね。」
ボケ「そういう訳にはいかないよ。ゾンビが好き勝手し始めたなら、私達は蒲生さんを始めとする普通の人達を守ってみせるから。」
ツッコミ「それは心強い限りだよ!何しろキョンシーは身体も頑丈だし、様々な術を使えるもんね。だけど貴女にそこまでの正義感があるとは驚いたよ。」
ボケ「だって、普通の人達がいなくなったら私も困っちゃうもん。キョンシーの後輩が新しく入って来なかったら、私は何時まで経っても日本キョンシー総会の最若手だよ。」
ツッコミ「ちょっと待って!貴女が普通の人間を守るのは、後々キョンシーの仲間にする為なの?」
ボケ「ちゃんと説得するから大丈夫だよ。元町の御隠居様や島之内の姐さんからも、『無理矢理キョンシーにしたら後々のトラブルになるから、相手方の了解を得てからにしなさい』って言われているからね。」
ツッコミ「えっ、そうかな?そうかも…清代末期から活動されている古参キョンシーの御言葉だと、私も大分揺らいじゃうね。」
ボケ「蒲生さんだって、こないだ『後期高齢者になったタイミングで、アンチエイジングの為にキョンシーになる』って了承してくれたじゃない。私達キョンシーは、こうやって了解を取っているんだから。」
ツッコミ「それはそうだけど、数十年後の未来と喫緊の課題だと、話が変わるんじゃないかな。」
ボケ「状況がどうあれ、事前説明は大切だよ。説明に理解に同意。こんな私でも、インフォームド・コンセントの三原則はきちんと踏まえているんだ。」
ツッコミ「そんな美容整形や臨床試験じゃないんだから。」
ボケ「蒲生さんだって、了解なしに噛みつかれてゾンビになるより心の準備を整えてからキョンシーになる方が良いでしょ?」
ツッコミ「えっ、それは…」
ボケ「ゾンビだと食欲以外何も分からない思考停止状態だけど、キョンシーなら私達みたいに記憶も人格も生前そのままだからね。どっちが良心的で得かは一目瞭然だよ。」
ツッコミ「私も見ず知らずのゾンビに噛まれて訳の分からない状態になるよりは、ゼミ友の貴女に噛まれてキョンシーになる方が良さそうな気がしてきたわ。要は予定を前倒しにするだけなんだし。」
ボケ「理解が早くて助かるよ。その時には私が責任を持って蒲生さんをキョンシーにしてあげるから、安心して。大船に乗った気でいてくれて良いよ。」
ツッコミ「う〜ん、安心して良いのかな?そんな貴女には、『朝起きてなっていたら困る物や事』ってあるの?」
ボケ「よくぞ聞いてくれました!私の場合は、朝起きて普通の人間に戻っていたら物凄く困っちゃうね。」
ツッコミ「えっ…普通は喜ぶんじゃない?元々は人間なんだし。」
ボケ「キョンシーになったばかりの時なら、そう思ったかもね。だけど今は、キョンシーだからって大した不自由は無いんだよ。桃アレルギーになった事以外はね。」
ツッコミ「起き抜けとか冬場とかは、関節が固くなって困っているんじゃないの?」
ボケ「そんな死後硬直なんて、ストレッチして身体を温めたら解けちゃうよ。」
ツッコミ「額に霊符を貼らないと具合が悪くなるって聞いたけど?」
ボケ「こんなの常備薬みたいな物だよ。仮に失くしても、予備を官服に忍ばせているから大丈夫!」
ツッコミ「驚いたなぁ、本当に何の不自由も無いじゃない…それじゃ聞くけど、どうして貴女はキョンシーに拘るの?」
ボケ「キョンシーなら実質的に不老不死だけど、人間には寿命があるからね。もしも私だけ人間に戻っちゃったら、元町の御隠居様や島之内の姐さんを遺して私が逝っちゃう事になるでしょ?そんな悲しい事、考えられないよ。」
ツッコミ「そっか…貴女達三人の間には、そんな厚い友情があったんだね。」
ボケ「それにキョンシーになると口から冷気を吐けるからね。夏場はこれが重宝するんだよ。」
ツッコミ「えっ、冷気?」
ボケ「官服の中に冷気を吹き込めば空調服の代わりになって快適だし、常温で買った缶ジュースもたちまち冷え冷えだよ!」
ツッコミ「全く貴女ったら…人がせっかく感動していたのに!」
ボケ「蒲生さんもそうカッカとしないで、クールダウンしなくちゃ。ほら、頭を冷やして…」
ツッコミ「ヒィッ!ちょっと、いきなり冷たい息を吹きかけないでよ!」
ボケ「どう、少しはクールダウン出来たかな?」
ツッコミ「漫才で寒くなったら死活問題なんだよ!」
ボケ「成る程、死人の私と生きている蒲生さんとで死活問題か。これはお後がよろしいようで。」
ツッコミ「そういう意味じゃないって!」
ボケ「今のボケは良かったよ!蒲生さんも腕を上げたじゃない。」
ツッコミ「両腕を前に跳ね上げてどうすんのよ!死後硬直解けたんじゃなかったの?」
二人「どうも、ありがとう御座いました!」