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ドナルドとの出会い

『ヘイズ家のご令嬢、セシリアさまでいらっしゃいますね?』


初めてドナルドに会ったのは王宮で行われた舞踏会だった。


ニコラス王太子との婚約解消が発表されたばかりで本当は欠席したかったのだが、母が国際的なデザイン賞を受賞した祝賀会も兼ねていたためセシリアも出席せざるを得なかった。


元々社交が苦手でめったに舞踏会にも出ない。そのうえ当時十八歳のセシリアは悪意のある噂話に慣れていなかった。


婚約解消をさも大きな醜聞スキャンダルであるかのように陰口を叩く連中に傷つけられないようにと、その日はマリアとオスカーも舞踏会に付き添うことになっていた。


二人の姿を捜してきょろきょろと見回しているところに突然知らない男性が近づいてきた。


それがソーンダイク伯爵の次男であるドナルドだったのだ。


金髪碧眼の華やかな容姿で若い令嬢の間で人気があるという噂は聞いたことがある。


『え、ええ。初めまして』

『いや、運が良かった。セシリア嬢にお目通りをお願いしたのですがヘイズ公爵閣下にはぐらかされて……。良かったら一曲踊っていただけませんか?』


突然距離を詰められてセシリアは戸惑った。


『えー! ドナルド様があんなご令嬢を? 婚約破棄されたばかりなのに……』

『しっ、あれでも公爵家の跡取り娘だからね』

『でも悪名高い変人公爵家のへちま姫でしょ!』

『ドナルド様も趣味が悪いわ~』


ひそひそ声が聞こえてきて非常に居心地が悪い。


『せっかくですが……』

『いや、いいじゃないですか。ね、一曲だけ』


断ろうとしたが強引にダンスの輪の中に連れだされてしまった。


彼がリードを取って踊り始めたので仕方なくそれに合わせる。


(あら……踊りやすいわ。ダンスがお上手なのね)


社交は苦手だが体を動かすのは嫌いではない。子供の頃からダンスはオスカーを相手に練習してきた。


『大丈夫ですか? 踊りにくくないですか?』


少し不安げな表情を浮かべるドナルド。


『いいえ! 楽しいですわ』


そう言うと、セシリアを見つめる碧い瞳が美しい宝石のように煌めいた。


***


その後、ドナルドは正式に婚姻の申し込みに現れた。


『セシリア、無理して結婚する必要はないからな。独身でもヘイズ公爵家を継ぐことに問題はないのだから』

『そうよ。あのドナルド・ソーンダイクという殿方は女性関係が派手だという噂も聞いているし……』


両親は難色を示した。


セシリアは公爵家の跡取り娘であり、野心家の男性に狙われやすい立場にある。慎重になるのも無理はなかった。


『私は反対ですわ。お嬢さまは純粋培養で育ってこられたから手慣れた殿方にとっては赤子の手をひねるようなものですもの!』


侍女のマリアは猛反対だった。


しかし、オスカーは言葉を濁した。


『……お嬢さまが望まれるのであれば、私は何も言えません。お嬢さまが幸せになってくださることだけが私の願いです』

『オスカーは、ドナルド様をどう思う?』

『え?』


いつも余裕のある彼が珍しく動揺を見せた。


『私ごときが意見できることではありません』


結局、当たり障りのない答えしか返ってこなかった。


ドナルドからは毎日のように熱烈な恋文と美しい花束が届く。


『森にひっそりと咲く野の花のように清廉なセシリア様に一目惚れしました』

『ダンスをした時のあなたの可憐さ……』

『こんなに魅力的な令嬢に巡り合えた幸運を諦めたくないのです』

『もしかしたら自分の悪い評判を聞いて失望されてしまったのかもしれません。昔の自分を殴りたい! 過去の恋愛は全てセシリア様にお会いする前のこと。真実の愛を知った今、他の女性に心を動かされることはありません。神に誓います!』


ニコラスに振られたばかりで自己肯定感が底辺だったセシリアにとっては甘美な言葉が並んでいた。それに連日のように熱烈な言葉を浴びせられると本気で愛されているような夢心地になる。


マリアが心配した通り、恋愛に免疫のないセシリアはすっかりその気になってしまった。


両親とマリアが反対するものだから、それに反発を覚えてしまったということもある。


(私をいつまでも子供扱いして! そんなに男性を見る目がないと言われると悔しいわ)


『お嬢さま。どうか感情ではなく理性で判断してください』


オスカーは少し悲しそうに言う。彼の言葉だけは比較的すんなりと受け入れられた。


『でもね。ドナルド様はとても熱心に求婚してくださるし、もう他の女性と会ったりしていないって聞いたわ』

『そうですね。以前と比べると大人しくなったと評判ですが……』

『オスカーも私が世間知らずで殿方を見る目がないと思う?』


オスカーは苦笑いを浮かべた。


『お嬢さまが世間知らずということはありません。新しい化粧品を開発し、事業を立ち上げ成長させるなんて世間知らずのご令嬢にできることではありませんから』


彼に褒められると嬉しくて頬が熱くなる。


そのオスカーが言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。


『ただ、お嬢さまは……ドナルド様に恋していらっしゃるのですか?』

『恋……? よく……分からないわ』

『ニコラス殿下には恋されていました?』

『うーん、良い友達っていう感じだったと思う。でも貴族の結婚ってそういうものじゃないのかしら?』

『そうですか……』


彼は寂しげな笑みを浮かべた。


その後も延々と続くドナルドの懇願にほだされ『こんなに好きになってもらえるのだったら』というような気持ちで彼の求婚を受け入れることにした。


両親とマリアは納得していなかったけれど、オスカーは笑顔でお祝いしてくれた。

*ヘイズ公爵家が何故評判が悪いのか、その理由は後ほど出てきますので(#^^#)

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