3.綾瀬
重い体が、少し軽くなる。
学校には行かないのに、海には行くなんてどうかしている。そう言われることが、頻繁にある。どうかしていることなんて、どうかしている私たちが、一番よく分かっている。
「綾瀬お待たせ」
「ううん。元気?」
「死にたいよ」
「元気でよかった。行こ」
「綾瀬は元気?」
「死にたいかな」
「めっちゃ元気じゃん」
「いつきちゃんもだよ」
「今日、空綺麗だね」
「うん、綺麗。もう夏かな」
「うん。夏空って感じ」
「いつきちゃんは夏と冬、どっちの空が好き?」
「冬かな。淡いほうが儚くて好き」
「だと思った」
「綾瀬も冬じゃないの?」
「夏かなあ」
「意外。どうして?」
「サイダーとか海と一緒に写真撮ると可愛いから」
「そんな理由?それ、価値があるのって空じゃなくて、サイダーと海のほうじゃないの?」
「合わせるからいいんだよ。付加価値ってやつ」
「空そのもので勝負してよ」
「それは難しいなあ」
綾瀬は私によく質問をする。
「夏と冬、どっちの空が好き?」
「いつきちゃんって甘党?辛党?」
「海派?山派?」
そして、ほとんど毎回、「だと思った」とか「いつきちゃんっぽいね」とか言う。
多分、私のことを理解してくれている。理解しようと努めてくれている。だから、綾瀬にはなんでも話せる。私のことを絶対に否定しないところが、綾瀬の一番好きなところだし、綾瀬の良いところでもある。
「いつきちゃんは、儚いものが好きなの?強いものが嫌いなの?」
「両方かな」
「儚いもの3つ」
「星、線香花火、恋」
「強いもの3つは?」
「太陽、打ち上げ花火、幸せそうな他人」
「それは強いね」
「打ち上げ花火はまだいいよ。綺麗だから」
「太陽は?」
「見てらんない」
「幸せそうな他人は?」
「死んでほしい」
「強気だね」
「私、儚くはないからね」
私の家から海まで約10分。私と綾瀬の好きな時間。
人目を少しだけ気にしながら、浜道の真ん中を歩いていく。