2.あかりさん
世界で一番好きな人は、あかりさん。
あかりさんは二つ上の先輩で、学校の生徒会長を務めている。みんなに優しくて、ユーモアがあって、歌とダンスが上手で、弾む声と笑顔が眩しい。私の目標の人。
文化祭のときなんて
「いつきさん、おはよう。起きてる?」
「うん」
「今日、学校は?」
「行かない」
「・・・そっか。お母さんが弁当置いてくれてるからね」
「うん」
おばあちゃんは毎日、一時間目が始まる頃に私の登校意思を確認する。朝起きることは言わずもがな、途中から登校することも、地獄のような辛さなのに。
お母さんは、どんな思いで、毎日お弁当を作っているんだろう。陽の光を浴びないお弁当。ひとり残されたお弁当。いつも静かに、涙とセットで飲み込まれるお弁当。
どうせ今日も行かないかな、って諦めているのかな。行ってくれたら嬉しいな、って願望が込められているのかも。
ごめんなさい。
動けなくてごめんなさい。
なにもしていなくてごめんなさい。
なにも言えなくてごめんなさい。
どうすればいいのか分からなくて、どうにかしなきゃいけないことだけは分かっていて、でもどうにもできなくて、がんばりたいのにがんばれなくて、明日はがんばろうって昨日も決意したのに、今日になると全部だめで、もう、いっそ、死んでしまいたい。
でも、苦しいことは好きじゃない。そっと空気に溶け込みたい。ちょうど、人魚姫が泡になって消えてしまうように。
「おはよう、いつきちゃん」
「綾瀬おはよ」
「今日は学校行く?」
「行かないよ」
「僕もおやすみ」
「でも、行かないと、あかりさんみたいになれない」
「ゆっくりする日も大事だよ」
「綾瀬も休んでるから、まだ救われてる」
「それはお互い様だね」
「学校行ったら、あかりさんに会えるかな」
「会えるよ。門のところで見張っておく?」
「それはストーカーじゃん笑」
「だっていつきちゃん、ストーカーみたいなものでしょ?」
「そんなことはない」
「そっかそっか」
「会いたいな。あかりさんみたいになりたい」
「素敵な人だもんね。ねぇいつきちゃん、海へ行かない?」
「海?」