EPILOGUE:メディア王に誰が笑う
目を覚ますとパソコンのまえにいた。
ワードに書きかけの小説。
AIアプリで表紙のイメージも作った。
「メディア王に誰が笑う」
作品のタイトルを読みあげる。
内容がすさまじかった。吉原興行が伊達賢治のライバルである田口エンタメ野郎がメディア王の座をかけ伊達賢治とバチバチにやりあう。しかし伊達賢治がネット配信番組でテレビを凌駕する番組を作りあげる。彼はそれをスマホの画面越しに見て負けを悟る――
なんという妄想だろう。思わず苦笑いをする。
好物のライチジュースを口にしてワードファイルを保存せずに閉じる。
あまりにも馬鹿げた話だからだ。
長谷川さんが自身の書く小説を読みたいと言ってくれた。
せっかくなので思い切った作品を書いて読んでもらおう。
そう思ったけども、あまりにも毒が効きすぎて楽しめないかもしれない。
溜息をついて煙草を吸うことにする。
しかし皮肉なものだ。人間とは平和を愛すると謳っているわりには争いを眺め観ることで楽しんで興奮する。
その皮肉めいたものを何か伝えようとしたが……長谷川さんには伝わらないか。何より伊達賢治だとか田口エンタメ野郎だとか綺羅めくるみたいなリアルにいる有名人をそのままの名前とキャラクターで登場させてしまっているのだから。
苦笑いが止まらない。
外は暗いようだが今は何時だろう?
窓を開けてみる。
「何だよ…………これ…………」
外に広がるのは荒廃した街。
窓を閉じてカーテンも閉める。
スマホは壊れていて全く作動しない。
彼は毛布に潜りこんでまた寝る事にした。
目を覚ますといつもの日常の世界に戻っていた。
でも、自分の名前が伊達賢一から伊達賢治になっていた。
それ以外はいつもの日常。
いや、自分は伊達賢一という男だ。
それなのに伊達賢治という名前で郵便物が届いている。
気にしてはいけないのだろう。
澄み渡る青空を見上げて彼はそう結論づけた――