~最終幕~
準決勝。綺羅めくるV.S.蒼月しずく。
「ババァが黙れ」
「いつまでもメスガキのアンタに言われる筋合いはない」
凄まじい舌戦が繰り広げられる。勝者は綺羅めくるに。しかしコメント欄では「ごめんなさい! ごめんなさい!!」と試合後に全力で謝りに行っている綺羅めくるが妙だと話題になってやまなかった。微笑み返した蒼月だが、その「恐さ」というのは分かる人間には分かると。
そもそもこの番組でみせる出場者の顏がリアルの顏なのか疑問に残るところはある。俳優業を主戦場としている面々がでている以上はお芝居の延長戦上でそのパフォーマンスをみせる場にしているのではないかと。
その真価が問われたのが次の山田V.S.二宮だと言えよう。
初戦でどこなく優しさが滲みでていた山田はそれこそ最初は様子を伺うばかりだった。しかし「生まれた頃から女優しかした事がないなんて女優しなかったら、無職だよな」と言ったことに対して表情を明らかに大きく変える。その顏はもう鬼としか言いようがないものに。
「小僧が!! 俳優をやった事がないのに俳優を語るな!!」
「じゃあ俺が俳優をやったら、そういう文句は言わない訳だな?」
視聴者は気づく。この二宮という男、相手の感情の高ぶりをひきだすのが凄く上手い。この番組に山田エヴァ万桜が出演しているワケを示してみせたのだ。
この「メディア王に誰が笑う」の優勝者は二宮だろう。
毒舌タレント最強の綺羅めくるを手懐けてしまうのだろうと。
しかし結果は違った。
「うっせぇ! うっせぇ!! うっせぇよ!!! お前が思うより健全です!!!!」
自身の代表曲の名フレーズを多用。
「お前も松薔薇と同じところに連れていってやろうか!!!!」
蒼月しずくとの試合で完全覚醒した綺羅めくるは止まらなかった。
優勝は綺羅めくる。
「おめでとう。見事な戦いぶりだったよ」
クリスタルエデン代表の伊達賢治がトロフィーを渡す。
「こういうジャンルじゃ君が最強だね」
司会者の江川傑が続いてコメントする。
「圧巻されました! 私がでても負けていました!」
もう一人の司会者の倉木理亜奈もコメントする。
「さて、先月ドロップアウトの打ち切りを発表した訳ですが」
急に伊達賢治がセンターマイクをとって話しだす。
「そろそろ儂らの出番か」
「…………………………」
舞台袖から女優の近藤勇美と宇良霧時世がゆっくり現れる。
でも、何だか様子が変だ。
宇良霧は水晶玉を持っていた。伊達がウィスキーボトルを持っているのはいつもの事だが、宇良霧時世が水晶玉を持って現れるのは何か場にそぐわない。また近藤の喋り方もまるで昔話にでてくる悪者婆さんのよう。
「トップン、トップン、トップン。ウィ~」
「何の真似? アンタ、馬鹿じゃないの?」
「お笑い芸人だから馬鹿なのは当然だけど」
動揺しながらも綺羅めくると二宮がコメントを発する。
しかし宇良霧が手をかざした水晶玉が閃光をみせた時に皆気づく。
最初から私たちがみていた伊達賢治は伊達賢治でなかった事に――