観覧車が一周する間、ここだけの話をしない?
朝ルームメイトが叫んだ寝言で目が覚めてしまう。
そちらを無言で流し見して薄く息をつく。
カレンダーを見て寮生活も僅かだと起床する。
再開したトレーニングの為、近所を走り込む。
帰路で女子寮に差し掛かり頭上から声をかけられ、立ち止まり顔を上げると紙飛行機が視界を掠めた。
それを辿るとベランダから手を振る女子に行き着き動揺する。
笑顔の同級生に「卒業だし、最後に遊び行かない?」と誘われ、緊張して丸を返す。
プール併設の遊園地へ出かけ、昼にお弁当の後、観覧車に乗った。
オシャレして制服より可愛い相手とゴンドラに二人きり。
今日は嬉しさと緊張で記憶が無く、好きな人を前に膝上の拳が汗で湿る。
「観覧車が一周する間、ここだけの話をしない? 特別な思い出なく卒業は嫌なんだ。だから降りたら一切何も言わないし蒸し返さない。どう?」
唐突の提案。
意図が読めず黙るも、下から覗き込まれるキレイな目。
「一ヶ月前、寮から女子が居なくなったの噂で知ってるよね? 大人は事件に巻き込まれた可能性は無いと考えてるみたい。直前の様子に不審な所は無く、荷物もそのまま、危険な交友関係も出てこなかったからって。でも卒業間近の失踪。変だと思わない?」
「まぁ」
「彼女結構恋人がかわるタイプらしく、別れても次が出来るの早いらしいの。友達の一人が言うには、男子寮にもちょくちょく忍び込んでたみたい」
そこで彼女は首を傾げる。
「けど男子寮も相部屋よね? 同室の人に見つからず女子を連れ込むのは難しいと思うの」
確信めいた口調。
「君、最近またトレーニングしてるでしょ。近所をランニングしたり。登山リュック? あの大きいの背負って歩くの目にした事あるし」
「……大学でも山岳部に入ろうと思って。走るのは体が鈍らないため、リュックは近くの山へ特訓で背負ってただけ」
「山に登る装備は? そのまま?」
「まぁトレーニングだから。ほぼ実際の装備だけど」
「なら折り畳みスコップもか」
「雪山でなければ持ってないかな」
何を言う気か……
「リュックになら女子は入るよね? 歩荷は軽くて三十、平均で七十キロ前後らしいし」
冗談なら突拍子ない話と笑い飛ばすが。
「イジメを止める条件でやらされた? 夏の体育中にチラッと見えた肌、打撲痕みたいのだったし」
ゴンドラが一周、開いたドアから降りる。
「ちょっと散歩しない」
先を歩く後ろ髪は約束通り降りてから話していた話題を口にしない。
気まずいが今しかなかった。
「俺ーー」