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ミデン

「——————と、ツキシロリヒトさん、最終試験へ進まれるのは以上の方々です。皆さん本日は足をお運びいただきありがとうございました。名前を呼ばれた方々はこの後残ってお手続きをお願いします」


 試験の合否は二週間後ぐらいに郵送だと筆記試験の時の試験官が言っていたはずだが、それよりなにより、一体これはどう言うことなのか。

 

 面接の後は身体検査が始まるのだとばかり思っていたのに何故か体力試験が始まり李比人は困惑を隠すことができなかった。

 

 李比人は消防士だ。

 そして今日は水難救助隊の選抜試験にやってきた、はずだった。

 一次試験の筆記と体力試験を無事に通過し、今日は大一番の面接と変哲もない身体検査だけ、のはずだった。


 それなのに次は身体検査だと部屋を出て受付に戻ろうとドアを開けたところで、李比人は今日この日自分が選抜試験の為にやってきた建物とは全く違う建物の中にいたことにようやく気が付いた。


 廊下を歩けば、すれ違う人たちの容姿が日本人のそれとはまったく違ったからだ。ファンタジー漫画で見る着衣の仕方が全く分からないが妙にカッコイイ軍服を着た人や、あまり見たことがない髪や瞳の色の人、李比人の身長よりもかなり大きな人や小さな人……。とにかく李比人の知識の中にある多様性どころの話しではない。

 そして外には出ていないが窓から見える外の景色は、見知ったオフィス街のそれではなく重厚な石造りの街並みが続いている。

 混乱する李比人に優しく話しかける人物がいた。


「リヒトさん、こちらで体力検査しますので……。えっとその服は動きにくそうですが、動きやすい服はお持ちですか?」

「は、はいっ」


 先ほど面接で座っていた赤い瞳の男性が気づかわしげに李比人に声をかけた。

 今日の服装はもちろんスーツで、しかし面接の後は元々身体検査を受ける予定だったので、Tシャツにスエットは持ってきてある。

 はい、と頷くと更衣室へ連れて行かれ、着替えたならばとあれよあれよと言う間に会場に連れて行かれ、腕立て伏せ、腹筋、持久走をこなし、すでに体力検査を終えた人たちとしばし待つようにと一部屋に待機させられ、今に至る。


 考えなくてはいけない事が沢山あるはずだ。ここはいったいどこで、自分は何の面接を受けたのか。しかし聞こうにも面接官と思しき人もおらず、部屋にいるのは最終試験とやらに進む十名だけだ。

 最終試験に進むのだから緊張するのは致し方ないにしても、しばし待てと言われただけだと言うのにみな面差しがかなり真剣で、李比人の間抜けにも聞こえてしまいそうな質問に答えてくれそうな人物は見当たらない……。

 ふと李比人が会場に残っている中から、面接の時に一緒に部屋にいた青年を見つけた。

 このよくわからない不可解な状況の中何も相手の事は知らなくても見知った顔を見て安心して、自分の疑問を解消してくれるわけではないとは思いつつも、その青年の隣に席を移動する。


「やぁ、君も最終試験に残ったんだね。俺は月城李比人。君は?」


 面接のときにはこんなことになっているなんて思ってもみなかった。

 李比人もあの時は目の前の青年に頑張れなんて励ましのジェスチャーで応援なんてしてみたものの、今の心細さを和らげてくれるのはその彼だけだ。


「……?」

「……え、っと……」


 面接で隣に座っていた時は、何というか物静かという感じを受けたのだが、今は何かを探る様にじっと目の奥の、もっと深い奥まで見つめられているように思える。

 沈黙に耐えられないわけではないが、なんだか恥ずかしい部分まで暴かれそうでもぞもぞと落ち着かない李比人は、耐えられずにまた何かを話そうとしたが、目の前で急に起こった変化に目を見張った。


 柔らかな飴色の髪、髪よりも少し濃い瞳の色、綺麗な肌、一つ一つはとてもありふれた色だと言うのに物語に出てくる王子様のような目の前の青年の外見が、ゆらりと揺れる蜃気楼のように変わり始めた。


「え??」


 さらりと揺れる柔らかそうな銀髪、柔らかいのに力強く光を放つ黄金色の瞳。とてもありふれた、とは言い難いその容姿に、飴色の髪も似合うけれどなんだかこちらの方がずっと似合っていて、王子様のようだと妙に納得してしまう。

 急に立ち上がり、李比人を一瞬見てから背筋を伸ばし何故か部屋の前側に進んでいく。


「ルクス……さま……」


 李比人を含め十人しかいないと言うのに、半分以上が急に落ち着きなくざわめき始めた。

 ざわめく、というより色めく、という表現でもいいかもしれない。急に目の前にアイドルが現れたような妙な興奮が室内を満たしている。

 部屋の前に颯爽と立ち、ルクスと言われていた青年がふわりと親しみやすい穏やかな笑みを浮かべた。

 

(え? 誰……?)


 面接のときに見たのは不器用に愛想笑いする青年だった。

 こんな謎のこなれキャラではなかったはず。


 謎の高揚感が包む部屋で、李比人だけがルクスに怪訝な顔を向けている。

 そんな怪訝そうな表情を浮かべる李比人の顔を見てルクスは何故か満足そうに頷き、鷹揚な態度で話し始めた。


「皆さん、初めまして。ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、私がルクス・ファティ・ルプスです。今回は私の直属の隊の募集にお集まりいただきありがとうございました。今回の人員募集はこれから私と共にテネブリュスから国を守り、共に戦う仲間を僭越ながら選ばさせていただくものです。現在残られている皆様も大変優秀ではございますが、皆さんは私と共にひと月の研鑽ののち試験に挑んでいただき、最終的に数名を登用させていただきます」

「ルクス様も、私達と共に過ごされるのですか!?」

「えぇ、もちろんです。私もまだ若輩者。力も知識も足りませんし、皆さん個人個人との親睦も深めながら励みたいと思っています。どうぞよろしくお願いしますね」


 ほわほわと穏やかな笑みをたたえてゆったりとした口調で話すルクスの声に皆が耳を傾けている。


「私は一旦失礼します。この後の手順については皆さんの上司にもなるウルラから説明がありますのでしっかり聞いてくださいね」

「はい!!!」


 そして聞いている半分程度の人間がルクスに向けるそのまなざしは李比人が今までの人生で出会ったどれにも当てはまらない。目の前のルクスを見る数名の表情は尊崇や崇拝も含まれるのだろうが、妙に恍惚としていて……。


 どうにも李比人にはそれが不気味に思えた。


「ではまた、お会いしましょう」


 ルクスは部屋を出るために扉に向かう。一人一人と視線を合わせ笑顔を見せてゆっくり歩くその姿に、やはり違和感を拭えずにいると、最後に李比人の横で立ち止まり皆にしているような笑みを向ける。


「……」


 ぎこちなくその笑顔に応えようとしたが、なぜだかその笑顔の違和感が拭えない。


「よろしくお願いしますね。ツキシロリヒトさん」

「こ、こちらこそ」


 唯一声をかけられたと言うのに李比人は返事をしながら眉を顰めてしまった。


 眉を顰めた李比人をルクスは面接の時に見たあの不敵な笑みを浮かべ、李比人の背中を数回叩く。

 

「は??」


 なんでだ、と不満を隠しきれない李比人の声を聞いたルクスは、さらに満足そうに目を細めて小さく笑って部屋から出ていった。

お読みいただきありがとうございます。

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