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待てば会議のやり直し


 オーウェンがホールディス侯爵家に向かった日、アンドリュー・ヘキーチ辺境伯は王城に向かった。

 領地からも手紙を出し、昨日王都に着いた際に謁見の申し入れは済んでいる。


 王城に着いて通されたのは国王の私的な応接室。そこで待っていたのは国王と第二王子エリオットだった。


 挨拶が済みソファーに腰掛けると早速国王が切り出した。


「手紙に書いてあったことは本当か?騎士団の内部がそんなことになっていたのか……」


「それを今から調べるんだろう?進言した通り―――」


「ああ、第三隊は討伐任務で遠方に差し向けた。騎士団長も西部の町の記念式典に出席するという名目で出張させている」


 国王はヘキーチ辺境伯の進言通り手はずを整えていてくれたようだ。明日一斉に騎士団に内部調査を行う。その際に証拠隠滅や横槍が入るのを防ぐためだ。

 アンドリュー・ヘキーチ辺境伯の態度は国王に対するには不敬とも思われる態度だが、実はこの二人は学生時代は親友と言っていい間柄だった。その為私的な場所では昔のような喋り方になる。国王がそれを望んでいるのでヘキーチ辺境伯はわざとフランクな態度で接している。


「その、辺境伯……本当だろうか、オーウェンが魔核を横流しさせられていたなど……それに騎士団内の不公正も」


 エリオットが懐疑的な声を上げる。


「それも明日の調査で明らかになるでしょう。殿下もおかしいと思っていたから討伐に同行していたのではないですか?」


「そうなんだが……オーウェンは何も話さなかったし討伐任務自体は何も問題なかったのだ。オーウェンが呪いに侵されるまでは」


「まずは明日の内部調査を抜かりなく行うことです。証拠はすべて押収、かかわっていた者は身柄を押さえる必要があるでしょう。そして騎士団長と第三隊が帰ってくるのを待って全員を集め査問会を開いた方がいいでしょう」


 辺境伯の言葉に国王は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「悪人の身柄を拘束すべき騎士団が査問会にかけられるとは……」


「人手が足りないならば我が領の領兵をお貸ししますよ」


 辺境伯がニヤッと笑って言った。


「それには及ばん」


 国王は終始渋い顔だった。








 数日後、辺境伯、ナタリー、そしてオーウェンは王城に向かった。


 今日の午後に騎士団の第三隊は王都に戻ってくる。バーナビーが騎士団に戻ってきたところをすぐに身柄を押さえ王城に連行し、そのまま査問会にかける段取りだ。

 騎士団長は既に王都に戻ってきている。


 王城の会議室に昼食後、国王、第一、第二王子、宰相、各大臣、司法の上級官吏、騎士団長、副騎士団長、各隊の隊長(第八隊だけはオーウェンが休職中の為副隊長)そしてホールディス侯爵も呼ばれている。なぜか夫人も同行しているが。


 そしてそこにヘキーチ辺境伯、ナタリー、オーウェンが入っていくとざわっとざわめきが起きた。

 大臣たちはこの場に辺境伯が現れたことに驚いていた。滅多に王都に来ない辺境伯なのだ。

 騎士団の者たちはオーウェンの姿に驚いていた。休職中のオーウェンなのだ。そのオーウェンがなぜか辺境伯と共にいる。オーウェンは気が触れたとも奇病にかかったとも言われていた。数名はオーウェンが奇妙な言葉づかいで話すのを聞いて揶揄ったことがある。実力では全く歯が立たないオーウェンを馬鹿にできることは胸のすく思いだったのだ。


 時間になっても査問会は始まらなかった。第三隊隊長のバーナビーがまだ来ていないのだ。

 一同はイライラと扉の方を何度も向き、騎士団長は足でカツカツと床を踏み鳴らしていた。彼は不安だったのだ。数日前に騎士団に調査が入った。娘婿のバーナビーが不正を働いていたらしい。薄々は勘づいていた。だがうまく立ち回る分には問題ないと思っていた。なんといっても彼は侯爵家の嫡男だ、それも武で名を轟かせたホールディス侯爵家の。娘の嫁ぎ先にこれ以上の良縁は無いと思っていたのだ、先月彼が討伐で失態を犯す前は。そして今度は不正疑惑だ。娘は既に実家に帰ってこさせた。ホールディス侯爵家には離縁を申し出るつもりだ。


 ノックの音が響いた。人々が凝視する中、恐る恐る入ってきたのは第三隊の副隊長だった。


「あの、申し訳ありません。緊急会議だと伺いましたが隊長はご自宅に帰られました。おいおい戻ってくるとは思いますが……」


 彼は何故皆が自分を睨んでいるのかわからない様子で戸惑っている。今まで討伐に出かけていた第三隊は騎士団に調査が入ったことなど知らないのだった。


 宰相は補佐の事務官を呼んだ。事務官は部屋を出ていき暫くして戻ってくると宰相に告げた。


「バーナビー・ホールディス第三隊長はご自宅にいなかったそうです。一旦戻られたのですが再び外出されたと。騎士団にも戻ってきておりません」


「逃亡か?」


 誰かが呟いた。


「あの馬鹿が!」


 ホールディス侯爵が小声で吐き捨てる。夫人が眉を吊り上げた。


 宰相は国王陛下に言った。


「急ぎ探索をしてバーナビー・ホールディスの身柄を押さえます。一旦この場は解散して彼の身柄を押さえてから再度査問会を開いてはいかがでしょう」


「うむ、そうだな」


 王の言葉を受けて査問会はいったん中止となった。



「まったく!迷惑な男だ!」


 騎士団長の吐き捨てた言葉をホールディス侯爵夫人は聞き逃さなかった。


「何ですって!!バーナビーが悪いことなどするはずがないわ!迷惑ってどういうことかしら」


「そうであろう御夫人、討伐を終えていながら騎士団にも帰らず行方をくらますなどと」


「バーナビーはそんなことしませんわ。大体家に帰ったなら妻がいるでしょう。彼女はどうしたのです。行先も聞かずにバーナビーを送り出したのですか?我が家に嫁いでいながら贅沢をすることと自慢をすることしか頭にないあの嫁は」


「なっ!!」


 騎士団長は怒りで真っ赤になった。真っ赤になりながら言葉を続ける。


「娘は昨日のうちに我が家に帰させた。無能な男と結婚していても不幸になるばかりだからな。ご令息は騎士の資質よりも女たらしの資質の方が勝っていたようで結婚後もつまみ食いが激しかったようですからな」


 夫人の怒りが頂点に達したときに辺境伯の声が割って入った。


「醜い者同士の争いは見るに堪えん。陛下の御前であることを忘れたか!」


 二人は真っ赤になりながらも黙ったがその時夫人は辺境伯の隣にいるオーウェンに気が付いた。凄まじい目つきでオーウェンを睨んだ。


 オーウェンは夫人が睨んでももう怖くなかった。辺境に行ってヘキーチ領の皆と笑いあうことを覚えた。相談したり頼ったりしてもいいのだと言うことを学んだ。

 何より侯爵夫人に睨まれた時、隣にいるナタリーがそっと手を握ってくれたのだ!!!それはもう!全神経が右手に集まったようで心臓がドキドキと脈打ち正直侯爵夫人のことなど気にしている場合ではなかったのだ。俺は手汗をかいていないだろうか、顔がふにゃけていないだろうか……必死にオーウェンは眉間に皺を寄せていた。





 査問会がいったん解散になった後、辺境伯はまだ用事があると言うことでオーウェンとナタリーは一旦辺境伯のタウンハウスに戻ることにした。


 辺境伯のタウンハウスは王城にほど近い。二人は散歩がてら歩いて戻ろうということになった。オーウェンが一緒なら危険なことなど起こりようもない。それにナタリーも十分強い、護衛をつける必要などないくらい。今は王城に行ったためあまり華美でないもののデイドレスを着ているのでお淑やかに見えるのだが。



「少し騎士団の寮に寄ってもいいかにゃ」


 王城を出たところでオーウェンはナタリーに聞いた。騎士団の寮も王城にほど近い。辺境伯のタウンハウスとは方向が違う為遠回りになってしまうが。

 ヘキーチ領に向かった時には取る物も取り敢えずといった感じで出かけてしまったが思いもかけず滞在が長引いた。必要なものはヘキーチ領で買いそろえていたが二~三持って行きたいものもある。寮の部屋に一旦戻ろうと思ったのだ。この査問会が終わった後再びヘキーチ領に戻れるかはわからない。それでもこの呪いだけはなんとしてでも解きたいので一度は行かせてもらうように頼むつもりだった。

 ヘキーチ領の人達、とりわけナタリーに二度と会えなくなるのは身を切るように辛い事だったが、元から自分には釣り合わない令嬢だ。オーウェンは最初から諦めていた。





 ナタリーが了承したのでオーウェンは騎士団の寮に向かった。


 入り口でナタリーに待っててもらい建物の中に入る。非番だった数名の騎士がオーウェンを見て驚きの眼差しを向けた。

 構わず自分の部屋に入り必要なものを袋に詰めていた時だった。


 ドアから素早く入ってきた人物がいた。その人物は後ろ手にドアを閉めると口を開いた。


「オーウェン、待っていたぞ!」


 その人物、バーナビーは寮を見張っていて正解だったとニヤついた。これでオーウェンに罪を着せられると下卑た笑いを浮かべたバーナビーだった。

 








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