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門前の卑怯者、行方の分からぬ異母弟を探す


 討伐を終えバーナビー率いる第三隊は王都に帰ってきた。


 通常ならそのまま騎士団に向かい報告をする。

 しかしバーナビーは副隊長に言った。


「おい、私は一度屋敷に帰る。報告は君がしておいてくれ」


 運悪く昼食を摂って馬に乗ろうとした時に昨夜の雨でぬかるんだ道を疾走する早馬に出くわしてしまった。馬の跳ね上げる泥をまともに被ってしまい気持ちが悪くて仕方がなかったのだ。こんな泥だらけの姿を騎士団の入り口でたむろしている令嬢方に見せるわけにはいかないと新居として与えられている屋敷に一度戻ろうと思ったのだ。



 屋敷に戻ってみると何か様子がおかしい。

 執事に妻の様子を聞くと「奥様は昨日身の回りの荷物を纏めて出ていかれました」という。

 驚いて妻の部屋に向かうとそこはもぬけの殻だった。抜け目なく買い与えた宝飾品や高価なドレスは持って行ったようである。

 まあいい、あいつは離婚するつもりだった。しかし私がいないうちに出ていくなど侯爵家を馬鹿にしている。きっちり抗議せねば。


 バーナビーは入浴し衣服を改めると実家の侯爵邸に向かった。


 門を入るときに門番が何か慌てた素振りを見せたが構わず中に入る。


 エントランスに差し掛かった時、中から怒ったような声が聞こえバーナビーは思わず植木の陰に隠れた。その声はいつもはオーウェンに向けられる怒声でバーナビーに向けられるものではなかった。しかしその声ははっきり言っていたのだ。「バーナビーは、あのバカ息子はどこにいる!」と。


 バーナビーが隠れると同時に侯爵がエントランスから姿を見せた。その後を夫人が追いかけてくる。


「あなた、あの子が不正を犯していたなんて何かの間違いですわ。きっと……そう、あの下賤な子の策略ですわ。あの卑しい子はどうにかしてこの侯爵家を乗っ取ろうとしているのです。可哀そうにバーナビーは嵌められたのですわ!」


「しかしバーナビーが不正をしていた証拠があると王城からの使いが言っていたのだぞ」


「それこそあの下賤な子の策略なのです!」


「とにかく私は王城に向かう。エリオット殿下が関係者を集めて事実関係を明らかにするそうだ。事は侯爵家の後継者問題にもかかわってくるからな」


「私も一緒に行きますわ。絶対にあの下賤な子にこの家を渡したりしませんからね!」


 二人はバタバタと馬車に乗って出かけていった。


 バーナビーは進退窮まったことを知った。

 どこからか魔核の横流しが漏れたのだ。

 オーウェンが喋ったのだろうか?と一瞬考えたが即座に否定した。あいつは私や母に逆らえない筈だ。そうなるように子供のころから身体に覚えさせてきたのだ。

 世間ではオーウェンの体格や鋭い眼光、寡黙な性格やとてつもなく剣の腕が立つことからオーウェンを恐れる者が多い。しかしそれさえもバーナビーが誘導してきたことだ。あいつを孤立させ頼る者を作らせない。そうすればあいつはいつまでもバーナビーの奴隷だ。


 しかし実際にバーナビーの不正は漏れたらしい。

 もともとそんなに念入りに隠ぺいしていたわけではない。それでも発覚はしなかったのだ。仕事の割り振りもどこの隊がどのくらいの魔核を回収していたのかという報告も騎士団内部の話だ。その監督責任は騎士団長にあり騎士団長が各隊の魔核の回収量や任務の成功率を見て有能な者を出世させる。そして騎士団長は妻の父親だった。騎士団長の娘の夫、侯爵家の嫡男、それだけでバーナビーの不正は騎士団内では見て見ぬふりをされた。

 それなのに不正は発覚し王城から呼び出しを受けているらしい。これは騎士団外部の人間の手が入ったということだろう。それも権力者の手が入ったのだ。


 エリオット殿下が不正を暴いたということか。あの王子はオーウェンを気に入っていた。

 しかしそれならまだ挽回の余地はあるかもしれない。


 バーナビーは必死に頭を回転させた。

 エリオット殿下は以前からオーウェンに目を掛けていた。だからオーウェンはバーナビーに虐げられている、魔核を横流しさせられていると()()()()をでっちあげエリオット殿下に泣きついた。

 エリオット殿下はオーウェンに目を掛けていたからそれを信じた。


 というのはどうだろう?騎士団内の官吏たちもオーウェンに脅されて偽の証言をした。

 うん、いけそうだ。オーウェンは皆に恐れられている。脅されてオーウェンの言うことを聞いたというのは信憑性がある。

 そうと決まればオーウェンを探し出すことだ。

 あいつに証言をさせなくてはいけない。侯爵家の後継者になりたくてバーナビーを陥れようとしました、と言わせなくてはならない。

 大丈夫だ、あいつは私には逆らえない筈だ、どんなに自分が不利になろうとも。学生時代も騎士になってからもそうだったのだから。


 少しは優しい顔も見せてやろう。オーウェンが罪を告白すれば騎士団にはいられない。私が侯爵家を継いだら下男として雇ってやってもいい。それとも辺境の荒くれ者兵団に紹介状でも書いてやると言ってみようか。


 バーナビーはだんだん上手くいくような気持ちになっていた。

 とにかくオーウェンを見つけることだ。もう一度騎士団の寮のオーウェンの部屋を調べてみよう。なにか手がかりが見つかるかもしれない。


 それにしてもあのまま騎士団に帰らず一旦屋敷に戻ることにして良かった。

 騎士団に帰っていたらそのまま王城に連れていかれただろう。そうなれば万事休すだった。


 今頃は新居の方にも王城から使いが来ているかもしれない。

 けれどもバーナビーは侯爵邸に行くなどと一言も言わずに家を出たのだ。だからバーナビーがどこにいるかを誰も知らない。


 このまま隠れながらオーウェンを見つけて先ほどの事を了承させる。その後で二人で王城に向かう。バーナビーは何も知らずオーウェンに襲い掛かられた。しかし説得してオーウェンを出頭させた、ということにすればいいのだ。


 横流しが発覚したのは痛いが挽回の余地はある。最悪の結果は免れた。まだ私は運に見放されたわけではないぞ。


 バーナビーはこそこそと隠れながら侯爵邸を後にした。





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