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騎士も歩けば魔物に当たる


 ドーイナック山を南東に下り更に東に行くと海にぶつかる。海岸線に沿って更に南下したところにカイセンの港町はあった。


 ここをさらに南下すると森林地帯がありその向こうは隣のバチリート領だ。

 ちなみにヘキーチの領主の館はドーイナック山の南西の麓にあり、お屋敷を南に下ったところに領都がある。ドーイナック山の北側は隣国である。





 カイセンの港町で魚料理を十分堪能したオーウェンがナタリーと店を出たところだった。


「魔物が出たぞーーー!!ご領主様に知らせてくれ――!!」


 息せききって馬を走らせてくる男がいる。

 周囲の町人たちが慌ただしく動き出そうとする。女子供は家の中へ。男たちは武器を取りに走る。


 ナタリーは走ってきた男に駆け寄った。


「私はナタリー・ヘキーチだ。魔物とはどんな魔物だ?出現場所は?」


「有り難い!!ご領主様の騎士姫様だ!!魔物はオオカミ型で数十頭の群れです。南の草原に出現しました。俺は商隊の護衛です。商隊の馬車が襲われ今仲間の護衛が応戦中です」


「行けるな?」


 ナタリーはオーウェンをチラッと見ると馬に向かって駆け出した。

 オーウェンも無言であとに続く。装備はばっちりだ。ドーイナック山に入るのに丸腰で行くわけがない。ドーイナック山でも小型の魔物を狩りながら進んでいたのだ。





 馬を走らせると程なくオオカミ型の魔物の群れが見えてきた。大きさは通常のオオカミの二倍ぐらいなのだが群れで行動するので厄介な魔物だ。牙が長く跳躍力も普通のオオカミの数倍はある。


 魔物が取り囲んでいる真ん中に二台の馬車が見える。数人の護衛が必死に戦っている。


「援護を頼むにゃ!!」


 そう言うとオーウェンは馬のスピードを上げた。ナタリーは少し離れたところで馬を止め矢をつがえる。

 立て続けに矢を放つ。数頭の魔物が矢を受け唸り声を上げる。魔物たちが新たな敵を認識すると同時にオーウェンは魔物の群れに突入した。


 その働きは鬼神のごとくと言うような表現がぴったりであろう。縦横無尽に魔物を切り裂き跳躍して襲い掛かる魔物も狙いたがわず下から串刺しにする。


 程なくほとんどの魔物は切り伏せられ残り数頭の魔物が逃げ出した。


「にゃたりー!!」


 ナタリーは心得たようにまた数本の矢を放ち足止めされた魔物に近づくと剣でとどめを刺した。

 魔物は逃がしてしまうと厄介なのですべて仕留めてしまわなくてはならない。手負いの魔物は通常の魔物にも増して危険なのだ。


 全ての魔物を仕留めるとナタリーは馬車に近づいた。


 オーウェンは怪我をした護衛の応急手当てをしている。

 戦っていた護衛は魔物の牙や爪で怪我をしていたが命に別状がなさそうでナタリーはホッと胸を撫で下ろした。


 馬車の扉が開き商人の男が下りてきた。


 ヘキーチ領では大手の商会のその男は丁寧にナタリーたちに礼を述べた。


「いや、領内の安全を守るのは私たちの務めだ。礼には及ばぬ」


「いえ、正直もうだめかと思いましたが騎士姫様が近くにおられて助かりました。しかしこちらの方はお強いですなあ。騎士姫様のお婿様でしょうか?」


 オーウェンはナタリーが騎士姫様と呼ばれているのを聞いて吹き出しそうになっていたが男の次の言葉に笑いは一瞬で引っこんだ。


「い、いや!何を言う!この方は我が屋敷に滞在している客人だ!単なる客人なんだ!」


 真っ赤になって否定するナタリーを可愛く思いながらも()()()()()の言葉に密かに傷ついているオーウェンだった。

 いや、何を傷ついているんだ。ナタリーの言っていることは正しい。うん、全く以て正しい。傷つく要素などどこにもない。


「しかしこの草原に魔物が出るのは珍しいな」


 ナタリーの言葉に商人が相槌を打った。


「はい。私どもは隣のバチリート領に商売に行った帰りなのですがバチリート領の森林に魔物の群れが出たと話題になっていたのです。それで護衛をつけることにしたのですがあちらを発つ前日に王都の騎士団が魔物討伐に森林に入ったと聞いたので安心していたのです。まさかこんなところで魔物の群れに出くわすとは……本当にありがとうございました。では怪我人を町の診療所に運びますので失礼いたします」


 商人はもう一度礼を述べ護衛で怪我の酷かった者を馬車に乗せると去って行った。





「オーニャン?」


 ナタリーが声を掛けるまでオーウェンは物思いに沈んでいた。

 商人の言葉から今倒した魔物は騎士団が追っていた魔物だろうと推測できる。こんな群れの魔物が同時に二カ所で発生するとは考えにくい。ということは最初はこの魔物たちはもっと大きな群れだったのだろう。この数十頭は騎士団が討ち漏らした手負いの魔物の群れだということだ。


 しかし騎士団が討ち漏らしなどするだろうか?手負いの厄介さは皆知っているはずだ。手負いは見境なく人を襲う。警戒心がなくなり手当たり次第だ。だから騎士団は討ち漏らしの無いように魔物を追い詰め全て殲滅するのだ。万が一討ち漏らしがあれば直ちに付近の町や村に警戒情報を流し自衛してもらうと共に再び探索し仕留めるのである。

 もし討ち漏らしがあり、それを報告していないのであれば……


「オーニャンってば!」


 ナタリーの声でハッと我に返る。


「魔核を拾って帰ろう」


 ナタリーの言葉に頷いた。周囲の魔物は魔核に変わり始めている。


 

 魔物は死体を残さない。魔物は絶命するとともに体が収縮を始める。小型の魔物は数分、オーウェンが呪いを受けた小山のような大きな魔物でも一時間もすれば体がどんどん収縮していき魔力を帯びた石になる。小型の魔物だと小指の先、大型の魔物でも両手のひらサイズの石だ。それを魔核と呼ぶ。魔核は色々な使い道があり辺境のヘキーチ領では貴重な収入源だ。王都の騎士団でもそうである。

 八隊ある王都の騎士団では近衛の一隊を除く七隊で魔核の量や質を競っている。オーウェンの第八隊は一度もトップを取ったことがない。それには訳があるのだが……



 隣の領にやってきたという騎士団はどこの隊だろう。

 確かめてみようと思いながらオーウェンは帰路についた。







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