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しょぼい呪いに侵された強面騎士は辺境で癒される~もうお前の言いなりにはならないにゃ  作者: 一理。
その後の話

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14/22

辺境に来ては団長に従え


「パーシヴァル・ランガー、ヒューバート・ノット、ティーノ・オトウェイ、整列にゃ!!」


 オーウェンが声を掛けると三人は一斉に笑い出した。


「ひゃははは、なんだその口調!」


「整列にゃ、だってよ!ぷぷっ、俺たちは赤んぼか?」


「赤髪の鬼神も頭がいかれたか。はははは」


 エイベルが口を出そうとしたがオーウェンは押しとどめた。

 そのままじっと三人を見る。眉間に皺を寄せ三人を見る。

 その眼光に押されて三人は徐々に笑いを引っ込めた。なんといってもオーウェンは騎士団で恐れられていた人物なのだ。鬼の第八隊長、赤髪の鬼神。その二つ名はオーウェンは知らなかったが王都では有名だった。


 やがて渋々と三人はオーウェンの前に整列した。不貞腐れた表情は隠そうともしなかったが。


「お前たちは王都に送り返すにゃ」


「なっ!」


「横暴だ!」


「何の権利があって!」


 三人は憤った。口調を笑っている場合ではなかった。王都を発つ前に懇々と言われてきたのだ。領兵団では上官の言うことを聞くこと。しっかり魔物討伐のノウハウを身に着けてくること。もし半ばで送り返されることがあったら騎士団を首になる事。

 上位貴族の令息だと言っても次男、三男で継げる爵位はない者ばかりだ。騎士団で身を立てなければ騎士爵ももらえない。

 今までは簡単だった。適当に騎士団で働いていれば高位貴族は年数で騎士爵がもらえた。実家の力で騎士団長の推挙が得られたのだ。それががらりと変わってしまった。そして辺境などと言う何も面白みのない場所で修行しなくてはいけなくなった、平民どもの指図を受けて。


「権利ならあるにゃ。俺は領兵団の団長にゃ」


「俺たちは高位貴族だ!逆らってただで済むと思うのか!」


 オーウェンと三人は睨み合った。しかしオーウェンと三人では格が違う。戦ってきた経験の数が違うのだ。やがて三人は視線を落とした。項垂れすすり泣き始める。


 そこでオーウェンは言った。


「俺も鬼ではないにゃ。猶予を与えるにゃ。一週間後までにさぼったりせず、鍛錬についてこれるようになれば送り返すのを止めるにゃ」


 そこまで言ってオーウェンは休憩室を出た。

 あとに残ったエイベルが三人を皆のところに連れて行こうと説得しているのが聞こえた。


「鬼の第八隊長は鬼じゃないのか?」


「ぷっ。何言ってるんだ?オーニャンは気のいい奴だぜ。お前たちも頑張れば認めてもらえるさ。さあ、行こうぜ!」







 何とか三人を鍛錬に戻し、哨戒勤務の第三隊の報告を受けたり書類仕事を片付けてオーウェンは仕事を終えた。明日は魔物討伐があるので午後にはオーウェンも訓練に参加した。

 午前中は主に基礎鍛錬、午後には剣や弓を使った実地訓練を行うのが領兵団の常であった。


 お屋敷に戻り、汗を流して夕食に向かう。

 そういえば今日は客人が来ているのだったな、と思い出した。俺も夕食に同席していいのだろうか?と暫し考える。食事室の前でためらっているとナタリーがやってきた。

 お屋敷内では動きやすいワンピースなどの格好が多いナタリーだが今日はあまり華美ではないものの薄桃色のすっきりとしたドレスを着ている。


「オーニャン、どうしたの?」


「……綺麗だにゃ」


 思わず口を突いて出た言葉に動揺してオーウェンは早口で言った。


「い、いや、今のはつい本音が漏れたにゃ……ってそうじゃにゃいにゃ!あーー、客人がいるのに俺も同席していいか聞こうと思ったにゃ」


「ど、同席していいに決まっているにゃ、じゃなくって決まっているでしょ!オーニャンは家族同然なんだから!」


 ナタリーはオーウェンの手を取ってズンズンと食事室に入っていった。


 食事室には辺境伯のほかに三人が席についていた。中年の男女と若い男だ。彼らが親類の伯爵家一家なのだろう。辺境伯夫人は先月から温泉地に行って留守だ。

 彼らが咎めるような視線を向けたところで辺境伯ののんびりした声が響いた。


「仲がいいな」


 オーウェンとナタリーは手を握り合っていたことに気づいてパッと離した。


「アンドリュー、この男は誰だ?なぜここに居る?」


 中年の男が眉を顰める。


「彼はオーニャン。このヘキーチ辺境伯領の領兵団の団長だよ」


「団長というのは平民か?その平民が何故私たちと同じ食卓に着くのかと聞いているんだ」


 俺はオーニャンじゃなくてオーウェンなんだが……とオーウェンは考えていた。うーん、閣下はわざと間違えたのだろうか?それとも本当に?


「オーニャン、こちらはアドルフ・ファロン伯爵とその夫人、次男のクライドだ。しばらくこの屋敷に滞在する。なにかと煩いかもしれんが我慢してくれ」


 辺境伯は伯爵の言葉を無視してオーウェンに話しかけた。それにしても随分失礼な言い方だ。伯爵の方も侯爵より家格が上の辺境伯に対してかなり横柄な言い方をしていたので仕返しかもしれない。


「よろしくお願いしますにゃ」


 それだけ言ってオーウェンは席に着いた。


「ぷぷっ、君、変な喋り方をするね。それってど田舎の訛り?」


 クライドとかいう伯爵の息子が嘲笑った。オーウェンは黙っていたがナタリーが言い返す。


「この喋り方はオーニャンの個性よ、変でも何でもないわ。あなたのその髪型のほうがよっぽど変よ」


 ナタリーがそう言うので改めて彼を見ると栗色の長髪を後ろでひとくくりにし、派手な羽根飾りのついたリボンでくくっている。サイドの髪はクルクルとカールしていた。

 なるほど奇妙な髪型だ。女性がすれば愛らしいのかもしれないが……


「んーナタリーはやっぱりわかっていないな。これは今王都で流行りの髪型なんだよ。僕は流行の先端を行っているんだ。だから王都でモテモテなんだ」


「あっそう。私の好みじゃないことは確かだわ」


「君はこんなど田舎でこいつみたいな野暮ったい男しか見ていないからセンスが悪くなっちゃうんだよ。しょうがないなぁ、滞在中に僕が君をハイセンスの令嬢にしてあげるね。そうじゃないと僕に相応しくないからね」


「余計なお世話よ」


 ナタリーはばっさり切り捨てるがクライドはまったく気にしていなかった。


「素直じゃないなぁ。まあ、わかるよ、僕みたいな都会のセンスあふれた格好いい男を目にする機会なんてないものね。でもナタリーは素材はいいんだからもう少し磨けば僕に相応しい令嬢になれるよ」


「ナタリーは今のままでも十分綺麗だにゃ」


 たまらずオーウェンが口を挟むとクライドはキッとオーウェンを睨んだ。


「平民は黙っていてくれ!」


「もう嫌よ!!」


 突然伯爵夫人が叫び声をあげた。


「どうしてマナーも知らないような平民と一緒に食事しなくてはならないの!?アンドリュー!今すぐこの男を下がらせてちょうだい!」


 オーウェンはマナーを知らないわけではない。一応は侯爵家の人間だったのだ。侯爵家の中では虐げられていたオーウェンだったが、騎士学校に入る前にマナーや教育は詰め込まれた。家の中では苛められ不当な扱いをされていても外に出れば侯爵家令息という肩書がつくのだ。ホールディス侯爵家の名前に泥を塗るなと徹底的にマナーは叩き込まれていた。だから毎食辺境伯一家と食事を共にしていても違和感は無かったのである。


「そうか」


 そう言うと辺境伯は執事のバートを呼んだ。


「伯爵夫人はこの食卓に着きたくないらしい。至急伯爵夫人の分は彼女の客室にセットしなおしてくれ。手間をかけて悪いなバート。これからはあらかじめ夫人の分は別で構わないから」


「な……な……」


 伯爵夫人は唇を震わせている。顔は茹蛸みたいだ。


「おい、アンドリュー」


「ん?アドルフも夫人と一緒がいいか?」


 夫人がガターーンと椅子を蹴って立ち上がった。


「失礼するわ!!」


 ドスドスと歩いて部屋を出ていく。


「やれやれ、マナーがなっていないのはどっちなんだろう」


 首をかしげて辺境伯が言うと伯爵はその後は何も言わなかった。








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[良い点] o(`・д・´)oマナー大事です。伯爵婦人なのにマナーなってませんね(#`皿´) オーニャン苛める奴は許さん!!っていうか、オーニャンの素性知らないなんて頭がお花畑か、社交に出てなかったん…
[気になる点] 「俺も鬼ではないにゃ。猶予を与えるにゃ。一週間後までに鍛錬についてこれなかったりさぼったりしなければ送り返すのを止めるにゃ」 鍛錬についてこれなくても、送り返さないのですか? 鍛錬に…
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