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しょぼい呪いに侵された強面騎士は辺境で癒される~もうお前の言いなりにはならないにゃ  作者: 一理。
その後の話

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13/22

騎士より団長


 オーウェンの一日は夜明けとともに始まる。


 身支度を整えると軽くストレッチをして辺境伯の屋敷の広い敷地内を走る。ひたすら走る。それが終わると筋トレだ。筋トレを終えると剣を構え型の練習をする。この辺りでナタリーが合流し、お互い別々に型の稽古をするときもあれば二人で組んでやるときもある。その後また軽くストレッチをして朝食に向かうのだ。


 朝の鍛錬が終わりタオルで汗を拭きながらオーウェンはナタリーに問いかけた。


「ナタリー、どうしたにゃ?」


 ナタリーの剣がいつもとほんの少し違っていたのだ。心に憂いがあるような、集中しきれていないようなそんな剣捌きだったのだ。


「オーニャンにはわかっちゃうんだ……」


 ナタリーは小さくため息をつくとポツリと言った。


「今日からあまり嬉しくないお客さんが来るんだ」


 今日、王都から辺境伯の親戚の伯爵家一家が来る。この屋敷に暫く滞在するのだということだが。


「それなら俺はお屋敷にいにゃいほうがいいのではないかにゃ?」


 家族でもないオーウェンがこのお屋敷で暮らしていたらおかしいだろう。兵たちの宿舎に移ろうかと提案したのだがナタリーは反対した。


「やめてオーニャン、あの一家が来るだけでもうっとうしいのにオーニャンがいなくなったら寂し……」


 そこまで言ってナタリーは顔を真っ赤にした。


「と、とにかくオーニャンはこのお屋敷にいて欲しいんだ!お願い!……あ、でも……」


「でも?」


「オーニャンが不快な思いをするかもしれない。それなら……」


「ナタリー、俺なら大丈夫にゃ。俺は鋼鉄の精神に生まれ変わったにゃ。此処に来てナタリーや閣下のおかげで強くなったんにゃ。毎日お酢も飲んで鍛えているにゃ」


 お酢を飲むのは関係ないんじゃないかと思ったがナタリーは黙っていた。オーウェンが思わずナタリーの手を握りしめていたので凝視してしまう。

 その視線に気が付いてオーウェンはパッと手を放した。


「あっ!すまないにゃ」


「い、いえ、こちらこそ……ありがとう?」


 なんか訳の分からないお礼を言ってナタリーは俯きもじもじする。離された手がちょっと寂しい。


「ナタリーが望むなら俺はここに居るにゃ。絶対ナタリーの傍を離れないにゃ!」


 そう力強く行った後、オーウェンは眉毛をへにょと下げて言った。


「これから仕事だから離れるにゃ……」


「ふふっお仕事で離れるのは当り前だよ。でも必ずこの家に帰って来てね。さあ、朝食を食べに行こう」


 先ほどの憂いが払拭されたようで元気にお屋敷に戻っていくナタリーを見つめてオーウェンはホッとため息をついた。




 



 朝食後、身支度をしてオーウェンは領兵団の本部がある建物に向かう。といってもお屋敷の裏手に建てられているので目と鼻の先だ。



 領兵団はおよそ三百名、三つの隊に分かれて哨戒、護衛、討伐などの任務に交代で当たっている。それぞれの隊の隊長を束ねているのがオーウェンということになる。今までは副団長のエイベルが束ねていたらしい。オーウェンの前の団長は辺境伯が領主の仕事と兼ねていたので実質領兵団を回していたのはエイベルとナタリーだったそうだ。


 それではエイベルが団長になるのが順当では?と思ったがエイベル曰く


「俺は補佐の方が性に合っているんだ。それに団長の座はナタリーのお婿……ぐえっ!」


 いきなりエイベルは仲間の兵士に飛び蹴りをくらっている。

 その兵士たちはエイベルを引きずって行ってオーウェンに言った。


「俺たちはオーニャンの剣の腕に惚れ込んでいるんだ。団長、引き受けてくれるよな!」


 オーウェンは頷いた。


「皆がそう言ってくれるなら頑張るにゃ。よろしく頼むにゃ」


 ヘキーチ辺境伯領の領兵団は王都の騎士団のように上下の差があまりない。団長と言っても敬語で話される訳でもなくざっくばらんだ。領主の娘のナタリーをみんなが呼び捨てで呼んでいるのもその表れだろう。その近い距離がオーウェンは嬉しかった。





 本部に着き団長室に入ると副団長のエイベルと第二隊長のローレンが挨拶をした。


「「おはようオーニャン」」


「おはようにゃ」


 こういった何気ない挨拶さえ今まで経験がなかったオーウェンは嬉しかった。畏まって挨拶されることはあったがささいな気の置けない挨拶や軽口など無縁のオーウェンだったのだ。辺境に来てからそれが日常になった。オーウェンの顔に笑みが浮かぶ。


「騎士団から預かった騎士たちはどんな具合かにゃ」


「ほとんどの奴は問題ないな。魔物の討伐経験さえ積めば大丈夫だろう。使えないのはこの三人」


 ローレンが指し示したのはいずれも高位貴族の次男や三男だった。


 王都の騎士団は魔物討伐に圧倒的に経験が足りていない。しかしその他の盗賊団や凶悪犯の捕縛などの業務はつつがなく行ってきたのだ。日々の鍛錬も欠かしたことがないはずだ。だから領兵団に同行して討伐経験を積めば問題ないはずである。だからオーウェンは騎士団から預かった騎士たちを今月の魔物討伐担当の第二隊に預けた。第一隊は領南部に出張中であり第三隊は哨戒勤務にあたっている。


 預けられた騎士たちはほとんどは問題ないようだった。騎士は貴族も平民もいるが領兵団の兵士たちはほぼ平民だ。彼らの下に付くことで不満もあるだろうと思ったが、王都でよくよく言い聞かせられて来たらしく表立って不満を言うものはいなかった。しかしローレンがあげた三人は違ったようである。彼らは最初の体力測定、走ったり筋トレの時点で音を上げた。王都でも基礎をさぼっていたのだろう。そして反抗的な態度をとった。平民に指図されるなどまっぴらごめんだ。私たちはお前らが口もきけないような高貴な身分なんだと鍛錬をボイコットしているらしい。


 オーウェンはため息をついて鍛錬場に向かった。

 騎士たちを預かるときに身分は関係なく思い切り鍛えてくれと言われている。オーウェンが何をしようと不敬には問わないと。

 それは当たり前のことだ。魔物は身分など考慮してくれない。弱いものはやられるのだ。弱ければ自分だけでなく周りの者にも被害を及ぼす。命令を聞けない者もそうだ。


「オーニャン、おはよう」


「よう!オーニャン!」


 鍛錬場にいた兵士たちが声を掛けてくる。それを吃驚した目で見つめているのは王都から来た騎士たちだ。王都ではニコリともしなかったオーウェンが兵士たちとフレンドリーに会話をしている。いつも眉間にあった皺もなく口元には笑みも浮かんでいる。

 そうした柔和な表情をしているとオーウェンは意外と整った顔立ちをしているのだった。


 オーウェンが問題の三人の騎士がどこにいるか聞くと皆は鍛錬場に併設された休憩室を指し示した。


「ありがとうにゃ」


 オーウェンはエイベルと共にそちらに向かう。


 王都の騎士たちはオーウェンが『にゃ』言葉で話すのを聞いて吹き出しそうになったが領兵団の兵士たちは誰も気にしていない。普通にオーウェンと会話をするので笑いも引っ込んでしまった。



 休憩室の扉を開けてオーウェンが言った。


「パーシヴァル・ランガー、ヒューバート・ノット、クライヴ・オトウェイ、整列にゃ!!」


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