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しょぼい呪いに侵された強面騎士は辺境で癒される~もうお前の言いなりにはならないにゃ  作者: 一理。
本編

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10/22

とらぬ魔物の皮算用


「オーウェン、待っていたぞ!」


 バーナビーは部屋に入り後ろ手にドアを閉めると言った。


「お前に私の役に立つ任務を与えてやる。有難く思え」


 バーナビーは唇をゆがめてオーウェンに言うがオーウェンは静かに立ったままバーナビーを見つめているだけだ。


「いいか、お前はこれから私と王城に行くんだ。そしてこう証言しろ『バーナビー第三隊長に魔核を横流しさせられたふりをしました。バーナビー第三隊長に罪を着せて廃嫡に持ち込む事が狙いでした。俺は庶子なのでバーナビー隊長が羨ましかった。だからバーナビー隊長を陥れようとしたのです。しかしバーナビー隊長は俺を優しく諭してくれました。俺が間違えていました。罪を償います』とな。いいか、覚えたか?お前の脳味噌まで筋肉な頭で覚えられなかったらもう一回言ってやるぞ」


 バーナビーの言葉にオーウェンは無反応だった。静かにバーナビーを見ているだけだ。その目の中に今までは宿していた恐れの色も卑屈な色も見えないことにバーナビーは苛立った。

 今までは悔しそうに眉根を寄せるもののバーナビーに逆らえないオーウェンだったのだ。目の中にいつも恐怖を宿していたのだ。


「おい!わかりましたといえ!!」


 苛立ってバーナビーが叫ぶとオーウェンはやっと口を開いた。


「もうお前の言うことは聞かないにゃ」


 オーウェンの言葉を聞いてバーナビーは噴き出した。


「ははっ、なんだその言葉使いは。頭がおかしくなったのか?頭がいかれても私の役には立てよ」


「もう言うことは聞かないにゃ。バーナビー、大人しく罪を告白するにゃ。一緒に王城へ行くにゃ」


「下賤な奴が私を呼び捨てにするな!王城へは行くさ。お前がさっき言ったことをちゃんと覚えたらな。いいか、お前の存在価値は私の役に立ってこそあるんだ。この私、ホールディス侯爵家の嫡男で由緒正しい貴族の母から生まれたこの私の役に立つことがお前の生きる理由だ」


 なんと言われてもオーウェンは頷かなかった。平行線では埒が明かないとオーウェンはバーナビーを捕らえようと一歩踏み出した。


 

 その途端、バーナビーは踵を返した。

 部屋のドアを開け一目散に逃げだす。なにか考えがあったわけではない。逃げたら余計不味いことになると冷静になればわかる事だったしどこに逃げるか当てがあったわけでもない。ただ本能的に逃げ出したのだ。怯えが見られないオーウェンが恐ろしかった。オーウェンが一歩踏み出したのに怯えて咄嗟に逃げ出してしまったのだった。


 騎士団の寮の入り口までバーナビーは一気に駆けた。後ろから追ってくるオーウェンの足音が聞こえる。

 バーナビーは入り口脇にたたずんでいたどこかの令嬢を咄嗟に盾に取った。


「オーウェン!近づくな!!この女を傷つけたくなかったら言うとおりにしろ!!」


 令嬢を片手で抱き込み喉に手を掛ける。無茶苦茶である。人質に取った時はこの令嬢とオーウェンが関係あるか無いかなど微塵も考えていなかったのだ。ただそこにいたから盾にした。それだけだった。


「にゃたりー!!」


 オーウェンの悲痛な叫び声ににやりとする。この『にゃたりー』とかいうふざけた名前の女はオーウェンの知り合いらしい。


「オーウェン、この女が―――」


 突然バーナビーの鳩尾に激痛が走った。


 女が日傘の柄でバーナビーの鳩尾を突いたのだった。


「ぐっ!こ、このっ!」


 掴みかかろうとするバーナビーの手をするりと抜けて『にゃたりー』とかいうふざけた名前の女はバーナビーに向き合った。

 すっと日傘を剣のように構える。


「女だてらに嘗めた真似を!」


 バーナビーは剣を抜いた。本当に切るつもりでは無い。しかし自分に逆らった女に少々痛い目を見せるつもりだった。


 バーナビーが剣を向けても女は怯えず腰をこころもち落とした。


 ここまでやるつもりは無かったが、とバーナビーは切りかかった。

 しかしその剣を受け止めたのはオーウェンだった。

 二三合打ち合って軽くバーナビーをいなし、オーウェンは剣の柄でバーナビーを打った。


 バーナビーはへなへなとその場に崩れ落ちた。


 



 騒ぎを聞きつけ飛び出して来た騎士たちにナタリーは王城に知らせてくれるように頼んだ。

 オーウェンはバーナビーを縛り上げている。その手つきは乱暴だ。

 オーウェンはバーナビーがナタリーを人質にしたことをひどく怒っているのだった。


「オーニャン、私自分で戦えたのに……」


 バーナビーが王城へ引っ立てられていった後、王城に引き返しながらナタリーはオーウェンに文句を言った。


「俺が守りたかったにゃ」


「オーニャン……」


「俺がただにゃたりーを守りたかったにゃ」


 ナタリーはただナタリーを守りたかったと繰り返すオーウェンの言葉に真っ赤になった。

 

「……ありがとうオーニャン」


 真っ赤になったナタリーを見てオーウェンも真っ赤になった。真っ赤になりながら二人でズンズン歩いて王城に向かう。

 ふとオーウェンがナタリーに聞いた。


「にゃたりーはどうして俺と一緒に王都に行くと言ったにゃ」


「オーニャンが思いつめた顔をしていたから」


 足を止め背の高いオーウェンを見上げてナタリーははっきり言った。


「オーニャンが何か悩みを抱えていたから。私で力になれることがあったら力になりたかったし傍で支えたかったの」


 ナタリーが足を止めたのに気づいてオーウェンも足を止めた。

 ナタリーの方を向くと真剣な瞳にぶつかった。


「ありがとうにゃ。にゃたりーは十分力になってくれてるにゃ。……俺はにゃたりーがいたからここまで強くなれたにゃ」


 二人で暫し見つめあう。

 オーウェンが口を開こうとした時に王城から駆けて来た衛兵が言った。


「お二人とも急ぎ王城にお戻りください。査問会をやり直します」








 先ほど集まった会議室に一同が引き返して来た。

 どの顔も不機嫌を隠そうともしていない。暇な者たちばかりではないのだ。いやむしろ忙しい者たちばかりなので入室するなり二度手間を掛けられたバーナビーを睨む者は多い。


 そのバーナビーは一旦かけられた縄は解かれ第三隊長の席に不貞腐れて座っていた。


 ホールディス侯爵夫妻が入室すると夫人は「かわいそうなバーナビー!」と叫んで駆け寄ろうとしたが侯爵に自身の席まで引っ張って行かれた。



 国王陛下が入室し査問会が始まった。





 今度は騎士団の各隊長の他に魔物討伐の仕事を割り振る官吏や魔核の管理をする官吏なども部屋の隅に控えさせられている。彼らは騎士団の内部調査の際、書類の押収と共に身柄を拘束されていた。


「第二隊から順に過去六か月の魔物討伐の種類と規模、回数を言ってくれ」


 騎士団の仕事は多岐にわたる。王都の治安維持は平時は駐在の衛兵が行っているが大きな災害や事件が起こった時には出動するし、盗賊団や凶悪犯の追跡、捕獲なども騎士団の仕事だ。王都以外でも大規模災害が起これば派遣される、そして貴重な収入源にもなっているのが魔物討伐だった。


 魔物討伐は王族の直轄地を始め領兵団を持っていない領地からはほぼ依頼が入るし、領兵団を持っていても大型やとりわけ凶暴な魔物の時は依頼が入る。自領の領兵団で全て討伐してしまうのはヘキーチ辺境伯領だけだった。


 魔物討伐は大体月に各隊、二~三回の頻度で割り振られている。


 第二隊から過去半年間の討伐内容を報告していく。会議室はざわざわと騒めき始めた。正確な数字はわからないまでもこの半年に何度か大型の魔物やきわめて凶暴な魔物の襲撃があったと大臣たちは記憶している。しかしその報告は一向に上がってこなかった。隊長たちも次第にばつが悪そうに報告していく。第七隊長の報告でやっと凶暴な魔物の討伐報告があった。


 そして第八隊。第八隊の副隊長はオーウェンを見た。オーウェンは隊長の席に座らずなぜか辺境伯の隣に座っている。そのオーウェンが立ち上がらないので仕方なく副隊長は立ち上がった。


 チラッとバーナビーを見る。報告を後回しにされたバーナビーは不貞腐れて座ったままだ。

 しかたなく第八隊の副隊長は報告を始めた。


 会議室のざわめきは大きくなった。

 第八隊の討伐は全てが大型の魔物、もしくは極めて凶暴な魔物、百頭を超す群れの魔物だったのである。

 誰の目にも不均衡は明らかだった。むしろよく今まで一人の死者も出さなかったものだ。


「最後に第三隊隊長、討伐内容の報告をしてくれ」


 宰相が言葉を掛けてもバーナビーは立ち上がらなかった。


「陛下の御前であるぞ」


 再度言われて渋々立ち上がる。

 第三隊は他の隊にも増して簡単な討伐ばかりであった。


 ざわめきを制して宰相は騎士団長に問うた。


「隊により討伐内容に不公正が感じられるがこれは騎士団長の指示かね?」


「とんでもありません!私は……どの隊にも公正に討伐任務にあたるよう……指示を……」


 指示を出してなどいないことは明白だった。流石にそれは言いづらかったのだろう。騎士団長の声は尻つぼみになった。が、急に勢いよく言葉を繋いだ。


「魔核の!毎月の魔核の数や質は各隊均衡が取れていました。若干第七隊と第三隊が多かったような気がします。けれど他は同じくらいだったので私は均等に任務が割り振られていると……」


 騎士団長の言葉にまた会議室が騒めく。今の討伐報告によればダントツで第八隊が多くなければおかしいのだ。


「では魔核の回収報告を過去六か月にさかのぼって報告しなさい」


 部屋の隅に控えさせられていた官吏に宰相が目を向ける。

 官吏は諦めたように報告をした。第三隊と第八隊を除く五隊は概ね討伐内容と数が合っていた。しかし第八隊は異常に少なく、逆に第三隊は数も多く、討伐した筈のない大型の魔核や質のいい魔核が回収されたことになっていた。


 誰の目から見ても魔核の横流しは明らかだった。


「まず、討伐依頼の割り振りだが、これは君の独断かね?」


 宰相が聞くと官吏は大袈裟に首を振った。


「ち、違います!バーナビー・ホールディス隊長に指示されたのです」


「何故騎士団長でもない隊長の指示に従うのかね?」


「脅されて……」


「嘘だ!」


 立ち上がってバーナビーは叫んだ。


「お前は金を受け取ったじゃないか!『以前から平民どもの隊には難しい討伐を回していましたからね。その頻度が多くなるだけです。いただいた金の分は上手くやります』と言ったじゃないか!」


「ほお……以前から。そして君は買収されていたのか」


 第七隊長は憤怒の表情だ。

 騎士団長は慌てて立ち上がった。


「以前からということはありません!こいつはバーナビーに買収されて私を騙していたのです!」


「まあ、そのことはもっと前からの記録を調べればわかる事です。しかし知っていたにせよ知らなかったにせよそんなことが騎士団の内部で横行していたということはあなたの監督責任でしょうな、騎士団長」


 騎士団長は黙った。その顔はどうにかして窮地を脱することが出来ないかと目がせわしなく動いていた。


「それから魔核の横流しですが、君は知っていたのかね?」


 宰相が聞いたのはさっき魔核の数を報告した官吏だ。

 彼は力なく頷いた。もう調べはついている。悪あがきしても心証が悪くなるばかりだった。


「私もバーナビー・ホールディス隊長に買収されておりました。買収されていた者は……」


 彼はスラスラと官吏たちの名前を挙げた。そして第八隊の副隊長の名前もあげた。


 副隊長は狼狽えて言った。


「俺が!自分の隊の不利益を承認するわけがないじゃないですか!俺だって危険な討伐ばかりさせられたら命の危険もあるのに!」


「でも君は討伐の現場にいなかったよね」


 突然の声はエリオット第二王子だった。


「私が討伐に同行したのは数度だけど、その時にはいつも隊長のオーウェンが同行した。隊長が同行するときは副隊長が残って討伐任務以外の隊員を纏めるんだろう?オーウェンは危険な討伐は全て彼が引き受けると部下のみんなが言っていたよ。つまりここ六か月の報告を見る限り必ずオーウェンが討伐に行っていた、そして君はお留守番組だ。しかし回収した魔核は毎回君が騎士団本部に届けていた。だよね?」


 第八隊副隊長は何も言えなかった。














すみません、十話で終わりませんでした。あと二話で終わります。


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