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4. アリアの冒険

更新が遅くなってしまいすみません…。




「荷台は居心地悪くないか?揺れるだろ」

「大丈夫です!風が気持ちいいので」

「そうか。天気よくて、良かったな」



アリアはガタガタと揺れる荷馬車の荷台に乗っていた。

本当に、天気が良くて良かった。風が気持ち良い。




なぜこんなことになっているのかと言うと、きっかけは数週間前。

祖母が亡くなった。



突然のことだった。少し体調が悪いから早めに寝るよ、と言って寝室に行ったきり、彼女は帰らぬ人となった。



数日間、アリアは茫然自失していた。

確かに祖母は高齢だったし、最近は外出もせず家で手仕事などをして過ごす日々だった。食も細くなったし、近いうちにこういう日が訪れるだろうという予感も、覚悟もしていた。

でも祖母は、アリアにとって、キールを除けば最後の身内だった。父の母である祖母は両親の思い出を共有できる貴重な存在でもあった。

でも、もう、いない。



村の人にも手伝ってもらい何とか弔いを済ませて、これからどうするかと、アリアはぼんやりと考えた。

天涯孤独になった。でも、両親を失ったときのように、アリアは子供ではない。もう成人した大人だ。

一人でも生きていかねばならないし、ちゃんと自分の人生を考えなければならない。



(キールは、頼れない)



キールももちろん、アリアにとって大事な家族だけれど、彼は立派な大人になった。なにせ、英雄だ。正直、生きる世界が違うとも思う。

彼は今、国で知らない人がいないほど有名で、立派な財産を持ち、爵位まで持っている。この国の王とも話せる立場。一緒に旅する仲間も、名家の出身だったり騎士だったり筆頭魔法使いだったりと、とにかくすごい人たちらしい。



アリアはというと、持っている財産などほとんどなく、食べていくのがやっと。

誇れるものは、魔飾り作りの技術だけだけれど、それもとびぬけて凄いわけではない。

国王様どころか、貴族にも会ったことなどない。




キールは未だに、アリアを気にかけてくれている。

両親を失ってから、ずっとそうだ。彼はアリアを守ろうと、必死になってくれていた。



だから、キールが兵士になると言って村を出た時、寂しかったけれど、どこかほっとした自分もいた。

キールを保護したのはアリアの両親であって、アリアではない。キールがアリアに恩義を感じる必要はないのだ。

それなのにキールは両親の遺したアリアの元を去っていかなかったので、彼を縛りつけてしまっている気がして、ずっと心苦しかった。



キールは出会ったときから、その美しい見た目も含めて、常人離れしているところがあった。剣の腕も、ろくに訓練など受けていないのに飛びぬけていたし、出自のせいか器用で精神的にも強い。



彼ならどこでだって生きていけるだろうし、兵士になってもきっと出世する。

だから、巣立って行く彼を見て、アリアはどこか安心した。




それからもキールはアリアに一緒に暮らそうと提案してくれたけれど、アリアは頷かなかった。アリアが一緒にいたら、キールは結婚どころか恋人もできない。血のつながらないアリアが一緒に暮らしていたら、例え家族なのだと主張しても、普通は受け入れられないだろう。最近ではキールはアリアと一緒に寝るようにまでなってしまい、これで一緒に暮らしでもしたら、彼は永遠にアリアという呪縛から逃れられないと、そう思っていた。



(…それに)


キールにはこの国の王女との結婚話まで出ているというのだ。

アリアの存在は、彼の結婚話の障害でしかない。






「…うん。もう、私も、大人にならないとね」



これまでアリアは、祖母のことが心配だとか、田舎暮らしが自分には合っているとか、何だかんだと言い訳をして、行動していなかった。

でも、もうアリアは一人。自分の人生に、責任を持たなければならない。




アリアは完成していた商品をかき集めると、隣町の問屋へと向かった。



「こんにちは、ユージンさん」

「おう、アリア。どうした?納期はまだ先だったと思うが」

「早めにできたので、持ってきました」



ユージンはこの地域で活動する、アリアのような職人から品物を買って大きな街へ卸してくれる卸問屋だ。アリアはここへ住み始めてからずっと、彼の父にお世話になっており、1年ほど前からは引退した彼の父に代わってユージンが担当するようになった。



「うん、問題ないな。いつもありがとう」

「こちらこそありがとうございます。あの、ユージンさん」

「なんだ?」

「町へ行くとき、一緒に行ってもいいですか?」

「アリアが?」

「はい。一度、町の様子とか、私の商品を買ってくれる人の顔を、見てみたくて」

「おお、それはいいな!ちょうど明日、ローリアに行く予定だが、来るか?」

「はい!お願いします」



ユージンが行くローリアはこの辺りでは一番大きい、地方都市だ。

アリアは行ったことがない。ずっと、商品の販売はユージン任せだった。



でも、ローリアがどんなところか、見てみたい。

生まれてこの方小さな村に住んできて、アリアは外の世界を知らない。

キールから聞く世界の話は、大変そうだけれど面白そうで、ずっと憧れていた。

一人になった今は、ある意味チャンスでもあるはず。



こうしてアリアはユージンの荷馬車に乗せてもらい、初めての冒険へ挑んだ。







ガタゴトと荷馬車に揺られ、お尻が痛くなってきたころ、アリアはようやく目的地、ローリアの町へと到着した。

ここには領主邸があり、この辺りで一番栄えている物流拠点でもある。海が近くにあり、出身が漁村のアリアにとっては懐かしい潮の香りが漂っていた。



荷馬車を降りてユージンに連れられやってきた町の中心部には、市場や商店が並んでおり、たくさんの人が歩いていた。それも、若い人が。数年、高齢者ばかりの村に住んでいたアリアは、自分とそう変わらない年代の人たちが生き生きと歩く様子に圧倒された。



(すごい。皆、お洒落だし…華やか?に見える。私、浮いてないかな) 



一応、持っている中で一番のお洒落着を着てきたつもりだが、それでもアリアは自分の格好が数段見劣る気がしてそわそわと落ち着かない。



「ここが兵の駐屯所だ。いつもここで、アリアの魔飾りを売ってる」

「ここが…」


ユージンは受付に声を掛けると、奥の一室へと向かう。

そこには若い兵士のような人が数人立っていて、ユージンを見ると手を挙げて迎えた。



「ユージン!納品に来たのか?」

「ああ。注文されてた、魔法薬に薬草。あとこれがいつもの素材だ。それに、魔飾りも」

「おう、ありがとな。ちょっと確認させてくれ。…そちらのお嬢さんは?」

「魔飾り職人の、アリアだ。今日は見学に来た」

「こ、こんにちは。アリアです。今日はお邪魔させてもらっています」

「ああ!貴方がアリアさん!」



ユージンがアリアの名を口にすると、部屋にいた数人の兵士らしき男性がわっとこちらに寄ってきた。



「アリアさんの魔飾り、人気があるんですよ。だからいつも誰が作ってるんだろうなって、話してたんです」

「えっ…そうなんですか?」

「ああ。いつも卸した分、全部売れてるだろ?普通は売れ残りがあってもおかしくないんだぞ」

「そっか…あの、いつもありがとうございます。作りがいがあります」


アリアが笑ってお礼を言うと、兵士風の男性たちが騒ぎ出した。


「だから言ったろ?若い女の子だって!」

「お前、きっと老婆だとか言ってなかったか?」

「アリアさん、作る数増やせたりしますか?俺、これから買う数増やすので」

「作り手が女の子だと分かった途端この態度…変態だな」

「うるせー!男所帯にいるんだ、それくらいいいだろ!癒しを求めても!」


ユージンや兵士たちがワイワイと話す様子を見て、ここ数年キールとユージン以外の若い男性を見ていなかったアリアはまたもや圧倒された。



(でも、なんか、楽しそう)



思わずクスクスと笑い声を漏らすと、作る数を増やしてほしいと言っていた男性が恥ずかしそうに頬を掻いた。


「あ、あの、もっと買うのは本当なんで。これからもよろしくお願いします」

「こちらこそ!頑張ってたくさん作りますね!」




その後は少し駐屯所内を見学させてもらったあと、ユージンの仕事に支障がない範囲でついて回った。

ユージンの商売は手広くやっているので、兵士の駐屯所から市場の八百屋、少々お高そうな仕立て屋まで、様々なところを見ることができた。



「もういいのか?」

「はい!これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいかないので」

「俺は全然、構わないけどな。一人で平気か?」

「はい。宿の手続きも手伝ってもらって、すみません」

「良いんだよ。アリアは親父の代からのお得意さんだ」

「えへへ。ありがとうございます」



夕方、アリアはユージンに付き添ってもらい、町の宿に宿泊手続きをした。

広いところなので、もう少し見て回りたい。少しなら貯えもあるので、あと数日、ここに滞在することにしたのだ。



「2日後にまた納品に来るから、その時拾ってやる。昼には宿にいてくれ」

「分かりました」

「じゃあな!」

「ありがとうございました!」



ユージンと別れた後、アリアは改めて町を歩き出した。すでに夕方だが、まだまだ町には活気がある。



(賑やかなのって、いいな)



静かな田舎も良いけれど、人に囲まれている環境は思ったよりも心地よさそうだ。ガヤガヤとした周囲の音も、騒音というよりも生活音として耳に馴染む。



市場を歩き回って、鮮やかな青の布を見つけたので、思わず購入。これで服を作ったら可愛くなりそうだ。道行く若者を見て、少々おしゃれ心をくすぐられての衝動買いだ。


夕食用にと、見慣れない白くて丸いお饅頭のような食べ物も買った。割ってみると中には肉の入った餡が入っていて、食べ応えがあっておいしい。



暗くなってきたので、アリアは宿へ引き上げるため町の中心部へと歩く。

途中、店舗を構える商店街に差し掛かると、見慣れたものが目に入った。



(あ、縫い物屋だ)



立派な店構えだが、置かれているものはアリアが作っているような魔飾りを中心とした雑貨だ。思わず中に入ると、店主は妙齢の女性のようで、アリアにごゆっくりどうぞ、と声をかけたあとは手元を動かしている。作業中なのだろう。


アリアはじっくりと店内を見て回った。



当然ながら、アリアの作る魔飾りとは形も、絵柄も、効果も違う。こういうものは作り手の個性が出る。



(そういえば、私の作る魔飾りの絵柄は…海の民のものなんだっけ)



魔飾りの才能は、遺伝によるものが大きい。アリアの母も魔飾り作りが得意で、アリアに作り方を教えてくれたのも母だ。





母は遠い島の出身で、島民は独特の文化を築いていたらしい。自分たちを海の民と呼んで、島に伝わる歌もあった。アリアが魔飾りを作るとき、よく口ずさんでいるのがそれだ。歌っていると魔力の通りが良くなる気がして、いつも歌っている。



絵柄もそうだ。母が教えてくれた絵柄は、鳥と花がいるものが多い。鳥は、海鳥なんだそうだ。花は色々あるけれど、島にしか咲いていない花をモチーフにしたものもあるらしい。



アリアは実際に見たことがない。母の故郷はとても遠いところにあるし、母曰く自然災害が多い地域なので、人口が減っていて、彼ら独自の文化もほとんどが失われ始めていると言っていた。

母自身も、小さな田舎の漁村で目立つ行動は避けたかったのか、島独特の物は身に着けていなかった。遺品にもほとんど残っていない。



(やっぱりいつか、母さんの故郷を見てみたい。それで、魔飾りを通してでも、少しでも何かを遺せたらいいな)



それは今まで生きるために必死で先のことを考えてこなかったアリアが、初めて考えた『いつか』だった。


いつも読んでいただきありがとうございます!

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