6.災厄級のドラゴン
◇◇◇
「え、なんですの……」
窓から見えるのは、真っ黒なドラゴン。そのドラゴンが王城を横切り、ゆっくりと王都上空を飛んでいく。
「なっ!ドラゴンだと!?」
「嘘でしょう!どうしてこんなところにドラゴンがっ!」
会場は一気にパニック状態に陥った。
「静かに。皆さん落ち着いてください。大丈夫、ドラゴンは王城にはこれ以上近づけないように結界を張ってあります。私はこれより討伐に向かいますが、皆さんは引き続きご歓談をお楽しみください」
会場にレオナルド王子の声が静かに響く。
「騎士団は全員速やかに戦闘態勢に入れ!久しぶりの大物だ!絶対に逃すな!」
「ドラゴンとは腕が鳴るな」
「ああ、久しぶりの大物だ」
にわかに活気づく騎士たちの姿に、次第に怯えていた令嬢たちも落ち着きを取り戻していく。
「さすがアルムールの騎士たち。ドラゴン相手に頼もしいですわ」
「ええ、百戦錬磨のレオナルド王子がいらっしゃるなら安心ですわ」
その姿をみてライラはふと悪戯心を起こした。
「レオナルド王子、よろしかったら討伐の場に私を同行させていただけないかしら」
「ライラ王女!?何をおっしゃるのです!」
「こう見えても魔物の討伐には慣れてますわ。わたくしに攻撃魔法はありませんけど、傷ついた騎士の皆さんを癒すことはできますから」
ライラの言葉に誰もが胸を打たれた。
「なんと。さすが聖女様だ」
「ああ、ナリア王国の聖女姫はなんと高潔なお方だ」
ライラは内心にやりとほくそ笑む。国に帰る前に、自分の有用さをアピールしておくのもいいだろう。その分妹の見た目だけのふがいなさが目立つだろうから。
「お姉様!危険です!」
「大丈夫よシンシア。あなたは大人しくここで皆さんをおもてなししていてね」
(そしておのれの無能ぶりをしっかりアピールするがいいわ)
「い、嫌です!!!」
「シンシア?」
困ったように首を傾げるライラ。デモンストレーションのためとはいえ、大切な婚約者を守ってやろうというのだ。何が不服なのか。
「私も一緒に行きます!何の力にもなれなくても、いざというときお姉様の盾ぐらいにならなれますわ!」
「シンシア……」
(本当に馬鹿な子。でも、己の無力さを思い知るいい機会かもしれないわね)
だが、そこにレオナルドが割って入る。
「駄目だ。君を危険な目に合わせるわけにはいかない」
「レオナルド様!お願いします!」
シンシアにうるうるとした目で見つめられると弱い。が、ここは心を鬼にして……そう思っていたのだが、
「シンシア。無理を言ってはいけないわ。レオナルド様には戦場であなたを守るなんて無理よ。ベルナードお兄様とは違うのだから」
「なに?」
「ベルナードお兄様でしたらたとえ力のないシンシアでも完璧に守ってくださるでしょうけど。レオナルド様には無理ですわよね」
しれっと言い放つライラに思わず声を荒げてしまう。
「見くびってもらっては困るな!シンシアとライラ殿二人を守って戦うことなどこの私にも造作ないが!?」
「まあ、頼もしいわ~良かったわね、シンシア」
「素敵です!レオナルド様」
意地悪く微笑むライラを見てすぐに後悔したけれど。もはやあとには引けないレオナルドだった。