5.意地悪なお姉様
◇◇◇
どうして私は平凡な金の髪なのだろう。どうして私にはあの澄み切った青い瞳が与えられなかったのだろう。ライラの心はいつも、シンシアに対する劣等感でさいなまれていた。
こうして美しく着飾ったシンシアを見ると、また抑えきれない醜い嫉妬心が沸き上がってしまう。まるで大切な宝物のように、シンシアを愛おし気に見つめる王太子の態度も気に食わない。
(冷徹と噂の王太子も所詮女の色香に迷う俗物だったってわけ。笑えるわ)
アルムール国の王太子については、魔物を討伐するしか能のない冷徹な王子というイメージしかなかった。ナリア王国に縁談を申し込んだのも、何か意図があってのことに違いない。今日はそのことを探りに来たのだ。
「あ、あの、ライラ様。どうかお気を悪くなさらないでくださいませ」
随行に選ばれた貴族令嬢がおずおずと機嫌を取ってくる。
「あら、なんのことかしら。妹の元気な姿を見て、胸を撫でおろしているところですのよ」
ライラがにっこりと微笑むと、ほっとした空気が流れる。
「さすが聖女ライラ様ですわ。それにいくら美しくとも、しょせんはそれだけのお方ですから」
令嬢の言葉にライラはそっと睫毛を伏せた。
「そんなことおっしゃらないで。わたくしにとっては掛け替えのない大切な妹ですのに」
ライラの言葉に周囲から感嘆の声が漏れる。
「やはり聖女様は品格が違うわ」
「ああ、神から特別な力を与えられた特別な方だからな」
聖女のイメージを崩さないため、心にもないことを言うことにも慣れた。王太子からの要求を聞き出したらとっとと国に帰ることにしよう。
ライラが王太子の前に進み出ると、
「お姉様!」
シンシアが弾んだ声を上げた。
「ああ、お姉様、お忙しいのにわざわざいらしてくださったのですか!」
ライラは心の中で小さく舌打ちすると、いつものように慈愛深く微笑んで見せる。
「シンシア。急に国を出てしまうのだもの。とても心配したのよ。肩身の狭い思いはしていないかしら。良くしてもらっているの?」
国で散々冷遇しておいて、いけしゃあしゃあと苦労はないかと言ってのけるライラに、レオナルドがぴくりと反応する。
「ご心配なく。シンシアに苦労はさせません。私が守ってみせますよ。あらゆる悪意からね」
(この男、感じ悪いわね)
含んだ言い方をするところを見ると、ナリア王国でのシンシアの扱いに対して不満を持っているのだろう。
「まあ、優しい婚約者様で安心したわ。何しろあなたはか弱い女の子ですもの。冷徹と噂されるぐらい頼もしい王太子殿下なら、安心して任せられるわ」
ちくりと刺すようなライラの言葉にレオナルドもまたムッとする。
「お姉様。レオナルド殿下はとても優しい方ですのよ」
にこにこ笑顔を向けてくるシンシアにライラは内心イライラしていた。いつもこうだ。陰でどんな意地悪をしても、ライラがシンシアを嫌っているなどとは微塵も思っていない。
「そう。何よりね。これからは遠く離れてしまうけど、何か困ったことがあればいつでも手紙で知らせてね」
「はい。ありがとうございます」
内心二度とくるかと思ったライラだったが、次の瞬間城に大きな影が差した。