4.大嫌いな妹
◇◇◇
シンシアが城に来てから三カ月。王太子殿下の正式な婚約者のお披露目として、国内外の王侯貴族を招いた歓迎パーティーが開かれることになった。結婚式は、その後一年の準備をかけて盛大に行うこととなったらしい。その間、シンシアの身分は王太子殿下の婚約者となる。
晴れの場にふさわしく、華やかなドレスに身を包んだシンシアを侍女たちはうっとりと眺めていた。
「姫様、お美しいですわ~」
「本当に。これではどのご令嬢も霞んでしまいますわね」
「あなたたちのお陰よ。ありがとう」
美しく結い上げられた髪には小さなパールが煌めき、動くたび揺れる滑らかな絹のドレープがスタイルの良さを際立たせている。
「失礼、用意はできましたか?」
レオナルドはシンシアの姿を見るなり、その輝くばかりの美しさに目を見張った。つややかな唇に思わず視線が吸い込まれる。
「とても、お似合いです」
「あ、ありがとうございます」
顔を赤くする二人を見て、微笑みあう侍女たち。
レオナルドはシンシアを優雅にエスコートすると会場に向かった。
この三カ月、レオナルドはナリア王国の内偵調査に追われていた。優秀な二人の兄姉と、力を持たない末姫の差は歴然で、国ではかなり冷遇されていたらしい。年頃になったシンシアの姿を見たものはほとんどなく、貴族の間では「役立たずの姫がいる」ことだけが広まっていた。
(ずいぶんとひどい扱いを受けていたんだな)
遠国に嫁ぐのに側近や侍女、メイドすらつけてもらえず。一国の王女に対してこれほどの扱いができるのかと宰相にも憤りを感じた。
(この儚い美しい少女を。ナリア王国で辛い思いをしてきた分、幸せにしてやりたい)
◇◇◇
天井には煌びやかなシャンデリア。食べきれないほどの豪勢な食事に、笑いさざめく美しい令嬢たち。中には初めて目にする異国情緒溢れる衣装に身を包んだ人たちもいる。
まさか自身の歓迎パーティーがこれほどの規模になるとは思わずに、シンシアは気の遠くなる思いがした。
「れ、レオナルド様。わたくし、なんだか足が震えて」
レオナルドは、自信なげに俯くシンシアの腰を優しく引き寄せる。
「大丈夫。私が付いています。みな、あなたのことを一目見たいと集まったものばかりですよ。笑顔を見せてあげてください」
「は、はい!」
緊張にうるんだ瞳で見上げるシンシアの姿に、レオナルドの理性はすでに悲鳴を上げていたが、会場からも同様にため息が漏れる。シンシアが会場に現れてからというもの、誰もがその美しさに釘付けになっていたのだ。
「ほう、あれがナリア王国の第二王女。今までお見かけしたことがないのが不思議なほど美しい方だ」
「まるで妖精のようだわ。こう言ってはなんだけど、他のご兄姉よりよほど……あ」
思わずそう言いかけた令嬢は、ばきっと折れる扇の音にハッとする。
そう、今日この場には、ナリア王国からライラ王女が来賓として参加していたのだ。
先ほどまで会場の視線を独り占めしていた「ナリア王国の大聖女ライラ」ライラもまた、金の髪に青い瞳が美しい美少女だった。しかし、「初代大聖女と同じ特徴である銀髪に青い目」を持つ妹が生まれたとたん、ライラの美しさへの賞賛は薄れ、妹へ与えられることになった。
それが、ライラには許せなかった。幸い治癒能力のギフトが開花し、押しも押されぬ大聖女の地位と人気を手に入れたが。それでも、年追うごとに人間離れした美しさを増していく妹が、嫌いだった。