10.二人の聖女
◇◇◇
「本当に、転んでもただでは起きないとはこのことだな」
「姉が、本当に申し訳ありません」
縮こまるシンシアに、レオナルドはふっと笑って見せる。
「いや、君の姉上は大したものだ。負けたよ」
あれからライラは、レオナルドと密約を交わすことにした。シンシアの持つギフトを国に報告しない代わりに、定期的に上質な魔石を提供すること。それを使い、ライラは治癒のギフトを込めた治癒石を作り出し、ますます大聖女としての地位を高めていた。
「ええ。お姉様のしたたかな強さは、昔から憧れだったんです。ちょっぴり意地悪ですが、根は優しい人だから」
「シンシアがライラ殿みたいになったら、私は嫌だが」
「もう!レオナルド様!」
シンシアはコロコロと笑うが、レオナルドは本気だった。
「きっと、ナリア国の大聖女として、お姉様のお名前は後世に残るでしょうね」
屈託なく微笑むシンシア。しかし、レオナルドは気に掛かることがあった。
「シンシア、あのときはああ言ってしまったが、本当に良かったのか?」
シンシアのギフトを世間から隠すことは、シンシアにとって果たして本当に幸せなことだろうか。
───誰よりも得難いギフトを与えられたのに?
シンシアの与えられたギフト。それは、他人の魔力を吸収して、新たな魔力に変える力。
ドラゴンの持つ魔力を吸収して新たな結界を作り上げたように、奪った魔力を望む力に変換することができる。使い方によっては善にも悪にもなる恐ろしい力。これこそが、初代聖女が持つ、真の能力でもあった。
ライラは結界のギフトだと思っていたが、このギフトの真の力に気が付いたのはシンシア自身だった。ドラゴンから奪った魔力を結界に変えた夜、レオナルドの体に刻まれた傷跡を癒したいと思ったシンシアは、治癒の力すら使えることに気が付いた。
「私の力はギフトなどと呼べるものではありませんわ。使い方を誤ると恐ろしい力です」
シンシアは、静かに俯いた。
「私は空っぽのままでいい。こんな力は、無いほうがいいと思いませんか?」
シンシアは怖かった。あまりに強すぎる力は、世界の在り方すら変えてしまう。
だが、レオナルドはシンシアの目を真っ直ぐに見つめた。
「君の力は恐ろしくなんかない。心から誰かを守りたいと思ったときしか発現しなかったのだから。どんなにギフトが欲しいと願っても、君は誰からも奪おうとはしなかった。私利私欲でギフトを使えない君だからこそ、その力を与えられたんだろう」
「レオナルド様……」
「君は誰よりもその力にふさわしいよ。でも、大聖女の名はライラ殿にお任せしよう。彼女くらいしたたかでないと、大聖女はやっていけそうにないからな」
「はい、私もそう思います」
顔を見合わせて微笑む二人。
「愛しています。私には、大切な人を守ることができる力があれば、それで充分です」
その後ライラは類まれなる治癒能力で多くの人々を救った大聖女として歴史に名を遺すことになる。その活躍の陰に、役立たずと言われた妹姫の密かな協力があったことは、誰も知らない。
おしまい
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