幻滅
瓦礫が落ちる騒音を横目に着地すると、暗がり故に大気の流れがよく分かる。おれは今度こそ、突き当たりとなる壁を探すように歩き出す。廊下の壁から伝ってきた、ビーマンと魔術師の争いが、今は全くもって届かない。大広間の度量はそれほど大きく、そして深いのだ。絨毯のランタンが照らす先々の行方は尽く、暗がりばかりで外観から鑑みた屋敷の規模を凌駕しているような気がしてならない。薄明すら見えない暗がりからくる感覚の狂いならば、おれは喜んでそれを受け入れよう。しかし、確実に重くなっていく足取りから察するに、実感としてあった。これは勘違いではないと。
「……」
身体の倦怠感に合わせて下がり始めていた視線を忌避するように顎を拙速に上げる。その瞬間であった。暗澹たる頭上の天井から、瓦解する手前の不穏な軋みが耳に届く。身体が瞬く間に硬直し、見えるはずもない天井を凝視する。正味、瞬きに比肩する短い間隙だったはずだ。暗闇の帳から数多の瓦礫が飛び出してきて、おれは瞬時に横っ飛びに前転を繰り返す。背後に降り注ぐ夕立ちは、極めて激しく突風まがいの吹き付けが髪を逆立てる。
「はぁはぁ」
崩れた瓦礫が吐き出す煙の中から、二つの粗い息遣いが漏れ聞こえ、おれは闇夜の礫を嫌ってなるべく距離を保ちながら注視を続けた。すると、煙の切れ間に影法師を捉え、念入りに焦点を絞る。
「ビーマン!」
生き別れた兄弟の名を呼ぶかのように、切実な邂逅を想起させる声の調子で呼びかけてしまった。ゆくりないその呼びかけは、ビーマンと魔術師をほぼ遜色ない拍子で此方へ振り向かせ、あまつさえ目を点にさせる。おれ達を分断し、一人一人を抜け目なく対処する腹積りでいたはずの魔術師については、理解が及ぶ驚き加減であった。だが、援護射撃ともいえるおれの出現に対して、あけすけに驚き、ややもすれば嫌悪感すら匂わせるビーマンの表情に投げるべき次の言葉を逸した。
「手を出すな、カムラ! 自分が相手をする」
獣のような炯々なる眼差しで魔術師と相対するビーマンは、その血の気の多さに捲し立てられておれを煙に巻く。対価を払って初めて手に入るこの世の遍く“物”を意思の疎通なしに懐に収める横暴さから、“価値”を見出すつもりでいたおれにとって、今目の前にしている光景は全くもって度し難い。玩具を手に入れた稚児と一緒で、見ていられるものではなかった。おれは脱兎の如く走り出すと、案内役であった絨毯のランタンも置き去りにする。ビーマンと魔術師が背後でけたたましい音を立てるのをよそに、ひたすら硬い石の床を蹴り続ける。壁を目指しているとは思えない突進具合は、当然ながら以下に繋がった。




