その足取り
我ながらその白々しさに溜息が溢れそうだ。そして、切って貼った演技の尻拭いに歯の浮くような気遣いを恥も外聞もなく口走る。
「あの二人は大丈夫かな?」
ここまでくると虚飾というより露悪的な下卑た振る舞いのようにも思えてきた。
「え? ああ、一応」
城内に於ける俺の正体については言うに及ばず、皆が察しる所だろう。死体が廊下に転がっていた理由も、召喚に因んだ犠牲者だと咀嚼できるはずだ。故に、トラビスは当然の事のように受け入れて、目下に任された案内役を恙無く終える為の人形めいた無感情さを湛えている。
「じゃあ、着いてきて」
俺は再び、トラビスの背中を追い始める。一直線に部屋へ案内されると思いきや、その道中は紆余曲折あった。
ガチャ。
「なんだよ!」
ガチャ。
「無礼な奴だな。ノックもせずに」
ガチャ。
「……部屋、間違えてんぞ」
開く扉を尽く間違えるトラビスは、上手く事が運ばない苛立ちから頭を何度も掻いた。露見するトラビスの鬱憤を軽薄にも指摘し、導火線に火をつける真似は避けるべきだろう。だからといって、徐に降り積もる不穏さを掻き消すかのように口を回せば、癇癪を起こす引き金にもなりかねない。微睡むように意識を保ち、しずしずとトラビスの背中を見ていればいい。
「それにしても、この城は広いな」
違う。今のは誤解だ。舌が独りでに動いたのだ。
「……」
此方を一瞥したトラビスの横顔から覗く、顔色はそこはかとなく悪く見える。いつ雫となって落ちてきてもおかしくない、汗ばんだ額の濡れ具合に唾を飲んだ矢先、トラビスと正面切って顔を合わせる。
「どうしました?」
向かい合ったバツの悪さに顔を背けかけると、トラビスは何も言わず来た道を戻り始めた。まさかのちゃぶ台返しに俺は力が抜ける。徒労な足運びは無性に腹を立たせたが、ベレトの喚起を守るならば、寛大な心持ちであらゆる物事に対処する術を持つのが大事だ。そして、逡巡を感じさせない歩調から感じる、今度こそ俺を部屋へ案内するという貫徹した意思の強さを信じた。
「ここ」
他人が生活していた名残がそのまま残った部屋の様子は、「召喚」がどれだけ難産であったかを示し、俺がここにいるのは願ってもない僥倖だったのかもしれない。
「ここが俺の部屋?」
「そうだ」
王様気分で部屋を値踏みするつもりはないが、俺と同じような境遇であるベレトに実行支配された城で、これほどまでに立場の貴賤があるとは思うまい。ただ、トラビスに八つ当たりして溜飲を下げる性分でもなければ、嫌悪感に苛まれて恨みを募らせるほど、後ろ向きな状態ではなかった。部屋に足を踏み入れると、俺の所感を待たずしてトラビスが扉を閉めた。まるで文句は受け付けないといった具合に。