窃盗集団
「……ば、馬鹿が。いる」
突飛な発言をおれは唾棄する。からかい下手な男の嘘を鵜呑みにするほど、切羽詰まっていない。
「試してみようか?」
男は往生際を知らないようだ。ぶつぶつと何か呟き始め、おれの胸に置いている手に力を入れる素振りを見せた。それに呼応するように、男の手は妙な光りを帯び始め、大きく目に見える形で緑色に発光する。
「自己治癒力を一時的に向上させている」
全身に通う血管を知覚できるほど、仄かな熱が通い出し、鮮烈な痛みが鈍痛に変わって、潮が引くように痛覚は息を潜めだす。目蓋の重みに耐えかねて、眠気眼とさほど変わらない視界の狭さに甘んじていたが、快活に目が開き、不明瞭だった男の顔をハッキリと捉えられた。
綺麗に整えられた眉毛に比例する左右対称を意識して短く刈り揃えられた五分刈りは、切れ長に伸びる目元に厳しさを湛え、罵詈雑言を飛ばす上で役立ちそうな大きな口をもとにして、男の性格から身寄りまで、占い師の舌先三寸を授かることで一気呵成に説明できそうだ。そして、
「一見すると、善意を背景に施しを与える真心として目を細めがちだが、相手が自分より弱者であることを前提に老婆心を働かせたものであり、一筋縄ではいかない“優しさ”が見え隠れしている。会話の主導権を常に握り、誘導する先には体のいい結論が待っているはずだ」
このように男に対する心模様をつぶさに形容できた。
「あんたは魔術師なのか……?」
腫れや違和感に塗れていた身体は、以前のような健やかさを取り戻し、恩人とも呼ぶべき男をやや怪訝に見つめ、おれはその裏にある真意について見定めようとした。
「ここだけの話なんだが、自分は魔術師でもなければ、良い人って訳でもないんだ」
自ら善性を否定する男の誠実さは魅力的に見え、耳を傾けたことを悔やむような一寸先の未来を想像して襟を正すより、妙に弛緩した今の感覚を大事にしたいと思った。
「自分は“アニラ”っていう窃盗集団の一人だ」
露悪的な男の語り口を忌避する正義感など、おれには備わっていなかった。それは環境的によるものなのか。それとも生来のものなのか。分別はできないが、少なくとも目の敵にしようなどと義憤に駆られるつもりはなく、あろうことか、次の言葉を窮することなく言った。
「それに入れてくれよ、おれを」
握り込んだ鉱石をきっかけに起きた傍若無人なる暴力を、ただひたすら無為に浴びていた訳ではない。口を濯ぐように左頬を膨らまして、奥歯の隙間に引っ掛けていた物を手の平へ吐き出した。血に塗れた鉱石が僅かな隙間から光を取り入れて、その輝きを遺憾なく発揮し、男の眼差しに炯々たるものを形成する。
「イイねー。その志し買ったよ」
脇を抱えられて半ば強制的に立ち上がると、痛みが消えたはずの足が覚束ず、傾く身体を男の胸を借りてどうにか直立を保つ。
「大丈夫か?」
その情けなさからおれは苦笑しつつ、一歩目を確かめるように踏み出す。
「大丈夫、そうだな。なら……」
爪先から肩まで舐めるように値踏みする視線の嫌らしさは、天下の往来を横に並んで歩く際に耳目の元となり得る原因を取り除こうとする、日陰者らしい目敏い注視であった。
「着替えを買おうか」
猜疑心を抱くより感謝の念がこんこんと湧き、鯔背なその気風に今は寄りかかろう。




