否応なし
死地に飛び込む斥候役に求められるのは、奉仕を厭わない忠誠心だろう。少しでも打算や利己的な考えを介在させる者がその役目を任されれば、下手を打った際の尻拭いに洗いざらい情報を吐き出し、ひたすら保身に走りかねない。猜疑心を抱えて吉報を待つのは骨が折れ、バエルが力を分け与えた配下にしか、今回の役回りは果たすことができないだろう。
「承知しています」
バエルから与えられる責務を墨守する、徹底した忠誠心のようなものが、仕草や言葉遣いに立ち現れ、この先に待ち受ける結果如何に感情を揺さぶられる気配が一切ない。それは、バエルの意向に沿うだけの傀儡として収まる器量に相応しい。
「俺は嗚呼はなりませんよ」
盲目的に指示に従う侍従関係を前もって潰そうとすると、そんな布石を腐すようにバエルは言った。
「当たり前だろう? 僕達は唯一無二の理解者で、この世界に於ける特異点だ。柱の序列があるとはいえ、それを最上のものとして腹に据えれば、全てが虚飾めいて仕方ない」
自分の思い描いた通りに事が進まないのは、バエルにとって肩を落とすほどのことではないようだ。根なし草さながらの夢見がちな想像力が顕現する万能さは、確かに現実のものとして咀嚼するには甚だ納得感に欠け、紙細工のような軽々しさで異世界を謳歌すればするほど、荒唐無稽な意思決定が蔓延る。俺が召喚士を殺してしまったことや、予期しないベレトの蜂起にバエルは笑みをこぼす。
「ベレトには感謝しているんだ。本当に」
常人の境地とは著しく逸脱した感覚は、第一柱として召喚されてしまったが故の孤高なるものとして腑に落ち、うだつの上がらない第十四柱のレラジェには到達し得ないと推察できた。だからこそ、おいそれと相槌を打つことはままならず、同情するような素振りすら憚られた。
「難儀な立場ですね」
掛ける言葉は空々しく、空虚な響きとなってバエルの鼓膜を叩いた。異世界の門を潜った者同士が心の拠り所として機能せず、睨み合うことに毛ほども不信感を抱かないバエルの胸を打つのは、ほとりに根を下ろす理不尽な影の大群だけであった。
「僕はこの役回りに損得を感じたことはないよ。あくまでも、自分で選んで考えられる立場にあるからね」
窮地に追いやられて袋小路に迷い込む想定がないバエルの思考はまさしく、「強者」のそれであり、俺が踏み入れるべき領域ではないことをまざまざと言葉と振る舞いによって見せつけられた。




