斥候
頭の中で思い描く光景が顕現すると信じて疑わない強迫観念にも似た思い込みは、人の心を掌握することにかけて傾倒する、扇動者の鑑であった。首尾一貫したバエルの趣向に恐ろしさを覚えると同時に、最後までやり切る気概もあるのだと分かり、心の底から異世界の脅威を取り除こうと動いている。何がそこまでバエルを駆り立てているのか。腹の内は分からないが、確固たる意志のもとに行動するだけのものを抱えている。俺は事流れ主義の片翼に乗るつもりで、バエルの動向に足並みを揃えてきた。その感覚に狂いはなく、この異世界にて救世主に相応しい肩書きを得るのに荒唐無稽な過程を口述せずとも、バエルの背中を追っていればいずれ辿り着くような、そんな偏屈さと自信が轍として眼下に敷かれる。
「まぁ、貴方に任せますよ」
お人好しと一言で括り、脇の甘さを指摘したところでバエルからすれば、ベレトが働くあらゆる邪魔立ては清濁併せ飲む際のごくごく小さな障害にしかなり得ない。先々の見通しに憂慮する狭小な心構えにかまけた俺の注進は、ひとえに取るに足らない。
「それじゃあ先ずは、ウォードへ敵情視察だね」
獲物を前にして舌舐めずりする獰猛な野生動物の、こむら返りも厭わない身体の伸び縮みを再現するバエルは、好奇心に溢れた炯々たる眼差しを覗かせる。それは、「第一柱」という嵩に掛かるバエルの事を好む猛々しさであり、これから先に待つ万難が、楽しみで仕方ないのだろう。
「そうですね」
バエルは意気揚々とソファーから立ち上がり、新たな門出を喜ぶかのような笑みを湛えながら呼び込む。
「カムラ」
右腕として従わせてきた、アイやトラビスを失ったバエルに残された配下の一人、「カムラ」は、召喚に際して穴を埋めた一人であり、アイと同様にバエルへの忠誠心を高く持ち、俺の部屋を訪ねた際も思慮深さを垣間見せた。
「はい、バエル様」
敬礼がよく似合う胸の張り具合で部屋の中に入ってくると、カムラは俺の横に並び立ち、バエルからの指示を傾聴しようと真一文字に口を結んだまま、厳かに背筋を伸ばして凝然と固まった。
「君は今からウォードに行き、ウァサゴにベレト、アイの動静をその耳と目で確かめてもらいたい」
それは、トラビスをベレトの城へ紛れ込ませた際に用いた阿漕な手段に通底する謳い文句に感じられ、眉間に皺が寄る。
「はい」
捨て駒と例えて差し支えないトラビスの末路を見る限り、カムラもまた獣道に轍を作る水先案内人として切り捨てられる。そんな薄暗い未来が瞬く間に頭に浮かび、退廃感が身体の中に醸成されていく。
「魔石で漸次的に報告を。もし仮にそれが途絶えるようなことがあれば……わかるね?」




