ピリピリとグチグチ
そこらじゅうを走り回ってしらみ潰しに顔を覗かせたい気分だった。「果報は寝て待て」ということわざを額面の通り受け止め、実際に知行できるのは形而上からくる老生した心の余白にあり、今の俺にとっては耐え難い腹の据え方だ。来し方の人生に於いて、俺はとかく受動的な姿勢に終始し、教室の隅で見透かしたような賢しら顔をぶら下げる、平たく言えば阿呆であった。だが、今回ばかりは居ても立っても居られない感情の起伏を抱いており、徒然と時間を謳歌する斜に構えた座持ちに執心するような拘泥と懇ろになるつもりはない。
「コンコン」
だから、部屋の扉が叩かれれば、間を置かず応答し、喉から手が出る勢いを持って訊ねる。
「進捗は?」
三人の行方に関する情報の伝達でなければ、新聞の契約を蹴るように扉を閉める準備があった。その形相はきっと目の前にいるバエルの配下にも伝わったはずだ。性急に言葉を紡ぐより、深い呼吸を一つ入れて、慎重に言葉を選ぶ仕草が垣間見える。
「バエル様がお話があるようです。直接の対話を望んでおり、部屋へ訪ねてきて欲しいと」
後手を組み、胸を張ったベレトの配下は、俺がどう動くかの手綱を握るつもりがないようだ。アイにはよくよくお世話になったが、窮屈さにも繋がっていた為、一歩目を自ら選んで踏み出せる自由さに少しだけ感謝する。
「今すぐに?」
「出来るだけ早い方がきっと、お互いの為になると思いますよ」
曖昧に濁した言葉遣いは、内訳を自らあらます立場にはないと、身の程を弁えた自制心が強く窺える。今の俺に足りない理性的な判断を持つ目の前の男の言葉に大人しく従った方が物事は好転するように感じる。ならば、行きずりの二枚舌や天邪鬼な態度に身を委ねて、わざわざ遠回りするのは馬鹿らしい。
「わかった」
俺は男の言伝を鵜呑みにして、直ぐに部屋を後にする。遠大な期待はしないが、進展を匂わせる男の身の振り方に幾ばくかの予兆を感じ取り、足早にバエルの部屋へ向かう。城の見取り図を見た訳でもないが、内部の構造はベレトが支配下に置いていた城より単純かつ、規模もまたほとんど変わりなかった為、右か左かに惑わされて、道を引き返すような千鳥足めいたものを演じる謂れはなく、その足が望むままに道程を踏みしめてバエルの部屋の前に辿り着いた。
俺は礼節に欠くと知りながらも、信頼関係の構築を望んでやまないバエルの心根に託けて、扉を叩かずに入室を試みる。それは、慮外な知らせを受けようと勇み足に出る青臭さとなり、多少の無礼も飲み込む度量があるかどうかを試す指針にするつもりでいた。
「レラジェ、君は本当に素晴らしいよ。常識に囚われない自由な発想をもとに行動し、それによって生じる不利益など、考えもしないんだ。召喚士を殺したのもそう。自分の力を直感的に理解していながら、思うがままに振るうほどに」
直下に思い出す。陰湿な猿回しを趣向するバエルの手引きによって、身に覚えのない殺人の容疑者として俺を仕立て上げ、針の筵にさらす底意地が悪い持ち主であることを失念していた。決して、懐が深い訳ではない。並々ならぬ力を偶さか受け取った、少し前まで俗世にどっぷりと浸かっていた現代人なのだ。




