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愛しさ余って

「あのさ、たった一日であーだこーだ言えるような関係が築けるとは思えないね。それが人の好意に関わるなら尚更」


 好色が過ぎるハーキッシュの語りに頭を冷やすように訴えた。しかし、嫉妬から出た言葉だと解釈する不遜なる訳知り顔がぶら下げられ、まともなやり取りは出来ないと言下に理解する。


「魔術は万能だ。恋も後押ししてくれる」


 金目の物をチラつかせて若者を誑かす中年男の下卑た笑みが、「魔術」を笠に掛けたハーキッシュと重なって見え、その悍ましさから即座に口を手で覆った。


「今、ボクのことを心底貶めただろう」


「……いや、さぁどうだろう」


 口喧しく紛糾する気にもなれないと、イシュは一線を引いてハーキッシュとの間合いを保った。


「わかったよ。この話はもう終わりだ」


 腹に据えかねる惚気話が手打ちとなり、名もなき圧迫感から解放される。それは異性間交友に乏しいイシュならではのバツの悪さであり、嫌悪感をひたすら提示することによって、命かながら日常へ帰還した、はずだった。


「にしても、聞いたぜ。イシュ」


 如何にも嫌らしい口の利き方するハーキッシュにイシュは辟易とし息を漏らす。


「なにを?」


 ハーキッシュは花を咲かすように笑い出し、イシュの背中を軽く叩く。


「サボり魔が街中で背信者をやっつける目新しさにスミスがびっくりしてたぜ?」


 ご機嫌ナナメなイシュの八つ当たりは、魔術師の間でたらい回しにあったらしい。それも、笑い話の一つとして消費された跡が垣間見え、事も無げに喜ぶことは余程の朴念仁でもなければあり得ない。


「偶々だよ」


 イシュは仏頂面で吐き捨てたものの、ハーキッシュは人を手玉に取ろうとする軽い笑顔を崩さぬまま、気色悪く背中をさすり続ける。


「はぁ」


 もはや溜め息をつくことでしか、今し方に抱いている不満を吐露できなかった。


「遂にお前も魔術師としての自覚が湧いてきたか。ボクも誇らしいぞ」


 涙ぐましい努力の足跡を見てきたかのような口振りでイシュを褒め称える姿は、手前勝手に抱いた老婆心だと言え、気分が見る間に悪くなっていく。そして、口の中に混じった砂を吐き出すように何度も唾を吐き、著しく損なった気分の回復を図ろうとするが、


「これからは一緒にこの街を守って行こう!」


 などと、戯れ言を強要してくるハーキッシュに対して、我慢の限界に達したイシュは、子どもをあやすような背中の手を撥ね付ける。


「勘弁してくれ」


 問答無用でイシュは時計台から飛び降りると、ハーキッシュはいつものようにその後を追いかけた。


「待てよ!」

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