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信頼

 まるで先々を見通しているかのような弁舌で安心は担保されていると断言し、俺の心配は杞憂に終わると丸め込む。日浦の特大な反発をもらったバエルの口から出たと思うと甚だ可笑しかった。


「何故ですか?」


 バエルは自分の頭を指差し、あたかも全てが計算尽くしのような所作をとったものの、答えは下記の通り鵜呑みにすれば手痛いしっぺ返しが貰うような、薄弱なる理論であった。


「勘だよ」


 不敵な笑みがこれほど陳腐に見えるのも珍しい。バエルが実力行使をせずに静観ぎみに事態を眺めている姿は、腹に澱が溜まっていくような不快感が募る。その膨れ具合は、シワが一つもない風船の張り出し方と瓜二つで、指で弾かれれば忽ち破裂するだろう。


「その勘でベレトの悪巧みを未然に防いでくれれば、申し分なかったんですけどね」


 女々しくもチクリと苦言を呈すと、バエルは少しだけバツが悪そうにしたが、咳払いをしたのち、調子を取り戻す。


「まあまあ。柱同士の殺し合いに発展するなら、序列の通りの結果になって、ベレトは……」


 玉座に座るバエルは、目の前で起こる悶着を余暇に起きた戯れとし、ベレトの行く末が破滅の一途を辿っていることを明言した。しかし、それなりの抵抗があって然るべきで、脛に傷を付けられるような不意の一撃を貰うことも念頭に置いておいて越したことはない。


「とりあえず、ベレトが何処へ行ったのかを……」


 忽然と姿を消したベレトを追う手掛かりは一つもなく、砂漠の中から針を見つけるような目敏さが現状を打破する唯一の手段のように思えた。


「バエルさん、どうしますか?」


 この事態をどう見て、どう行動を起こすのか。半ば丸投げに近い形でバエルの指示を仰いだ。しかし、


「どう出るか。それをまず待とう」


 バエルは悠長に構えたまま、部屋を出て行こうとする。後ろ髪引かれる思いを一寸も感じさせない颯爽とした後ろ姿に、俺は傲慢さと、ある種の運命論めいた目に見えぬ轍の上を歩む諦観すら匂わせる。自分の直属の配下であるはずの二人のうち一人が連れて行かれて、手足をもがれるような気持ちにさえならず、淡々と事の成り行きを見守る様子に俺は物足りなさを感じていた。袖を振り乱すまでいかなくとも、怒りや悲しみ、寓意に表す素振りも見せないのは、バエルが俺達に求めていた「信頼」とは程遠い。俺がもし、命の危険に晒されても、バエルは平然とそれを受けいれて前進していくのが容易に想像できた。


「貴方はどう思いますか?」


 部屋に共に残されたバエルの配下へ、意見を求める。


「バエル様の言う通りだと思いますよ」


 首輪を巻かれた人間が主人に迎合するのは当然だが、ここまで主観を失われれば、「信頼」という名の欺瞞的な繋がりをバエルが求めたのも無理はない話である。そして、絶対的な力に基づく不遜なる振る舞いは、ベレトの動向がまるで手のひらの上で繰り広げられる茶番劇のように扱うことへ波及し、極めて太平楽な身構え方をするバエルの背中はある意味で「信頼」がある。

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