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雲行きは暗く、黒く

 荒唐無稽な事象が次から次へと起きるのをまざまざと見せられ、そして起こしてみせた身としては、ベレトの言うことを否定する気にはなれなかった。


「僕のやりたいことも、バエルとやらがその気になればご破産か」


 中村とバエルが手を取り合って共に行動を起こすことは最も恐れるべき事柄になる。いくら思索しようと圧倒的な「力」の前では稚児の花と変わらない。摘まれて終わりである。


「君は彼女から伸びる赤い糸が見えていると言ったね?」


「ああ」


「それはレラジェに繋がっていて、辿ることも容易い?」


 痕跡も残さない瞬間的な移動は、僕を追いかけようとする中村にとって、何の手がかりもない闇雲な詮索になる。そうなると、逢瀬の駆け引きなど夢のまた夢。展開は偶然性を多分に含み、僕が思い描いた景色とは乖離したものになりかねない。ならば、この赤い糸が頼りの綱となり、僕達の行方を左右する。それでも、恋とは、愛とは、追いかけさせる方が出色の面白さがあることも知っている。おいそれと赤い糸が指し示す中村への道筋を辿るような、妥協に甘んじてそこに嬉々として飛び込む舞台はあるのか?


「……」


 逡巡が如何に時間を浪費するかを、宙を泳ぐ木の葉が落ち葉に変わる瞬間を見届けて気付いた。だからといって、天啓が体よく脳裏をよぎるようなことはなく、ひたすら徒労に終わる思索とも呼べない時間を過ごすしかなかった。とかく難産になりがちな僕の遅々とした思考はやがて、一つの答えらしきものを見つけた。それは狩猟時代から着想を得た、原始的な構造で獲物を誘導する罠の伝来である。


「餌を撒こう」


 僕は未だに地面へ腰を下ろしたままの女の前にしゃがみ込み、下腹部を弄った。




 片手で足りる狭小な交流関係は、異世界で召喚に挑む上で大きく作用し、舵取り役を買って出たつもりはなかったが、貧弱な想像にによって友人の「日浦」を呼び出してしまった。その上、アイが目の前で連れ去られるという、嵐のように目まぐるしい事態が立て続けに起き、俺はみすみす全てを取り逃し、とてつもない虚脱感から膝を折るしかなかった。


「何を打ちひしがれているんだ」


 瓦礫となって壁が崩れる音は、砂利道を歩けば匂い立つ土煙の気配が鼻を掠める。


「虎視眈々と機を窺っていたベレトに出し抜かれましたね」


 常に共生を考え、柱の結束をより強固なものへと導こうとしていたバエルの顔に泥を塗るベレトの行動は、俺でさえ苦悶する。日浦にアイといった、友好を結んだつもりの二人を拐われ、異世界の命運を握るはずの者達が半数も姿を消した。これは些か許し難い事態と言ってもいいはずだ。ベレトを徹底的に糾弾し、バエルの支配下に置いてボロ雑巾になるまでこき使うのが正しい。


「上手く逃げられたな」


「太平楽に物を言いますね。このままだとベレトに二人を殺されかねませんよ」


 第三柱とはいえ、日浦はまだ此方に来たばかり。右も左も分からぬまま、ベレトから有る事無い事を吹聴され、手のひらの上を転がされるのはまだいい方だ。バエルへの私怨を募らせたベレトが、嫌がらせと称して命を奪う最悪の結末を迎えれば、異世界を守るなど戯れ事に等しい。


「僕はそうは思わないかな」

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