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創造

「目を開けて」


 耳元で囁かれたその言葉に誘引されて、俺は双眸をまんじりと開く。先刻に部屋の狭さを憂いて魔術の指南に支障をきたすと評した俺の意見を覆す、黄金色に輝く草原が風に波打つ風景が目の前に広がった。景色の早着替えに慣れたとはいえ、ここまで変化が激しいと目を白黒して仕方ない。


「アイ、どこにいる?!」


 その上、手引きをした張本人の所在がないとくれば、叫ばずにはいられなかった。連綿と続く黄昏時の草原を走り出そうとすると、頭を通じてそれは届けられる。


「わたしは外から貴方を見ています」


 頭蓋骨の内側で何度も反響を繰り返す。あまりの煩わしさから、滑稽にも耳を抑える身の処し方で声から逃れようとした。


「そこならば、いくらでも魔術を試せます」


 心配事の一つとしてアイに告げた問題が瞬く間に解消された。神通力と呼んで差し支えない逸脱した魔術の使い方は、その万能感に手を引かれ、尊大な身の処し方を育んでも不思議ではない。いや、真っ当である。


「何でもござれだな」


「ベレトさんから、貴方は既に詠唱や陣などを用いずに何度も魔術を使っていると伺いました」


 足首に鉄球を繋げられているかのような遅々とした歩行で日々を繰り返す怠惰な暮らしぶりが、俺の想像力を根こそぎ荼毘に付した。しかし、この異世界に来てからというもの、現実に再現が不可能な事象を次々と起こしてみせた。


「まぁね」


 俺はライターに火をつけるかのように、人差し指の先に炎を灯す。


「際限ない人の欲こそ、人類を導く肥料となり、名もなき道を露払いする。魔術とはひとえに、人の欲求を再現する神様から与えられた願望の依代なのです」


 時代が前後した訳ではなく、あくまでも隣り合って存在する世界だ。「魔術」がなかったからこそ、俺達は社会民主主義を形成し有象無象の資源に目を向けた。住み心地を常に探究し、不満があれば叩き台に上げて侃侃諤諤とやり取りを行う。そんな時代の狭間で俺は妙に満ち足りたような顔をし、身に余る諦観を教室の窓辺で咲かせた花は、今は散った。


「……」


 俺は想像する。三日月の月明かりの下で、寄せては返す波のような風にたなびく柳の優雅さを。


「さすがです」


 目を開ければ、絵に描いたような景色が広がっていた。アイが提供する夢見心地の中でなら、心置きなく魔術の扱い方を学べるはずだ。身体がいつもより軽やかに感じ、俺は思わず足踏みを繰り返す。それは誕生日を前にした稚気そのものだ。すると、右足に重みを覚える。例えるなら、掛け布団を足蹴にしたような重みである。「夢」と形容した以上、目覚めて確かめる以外にその如何を確かめる手立てはない。俺は目を閉じながら、目を開く。矛盾した所作を頭の中で強く描いた。


 空間を仕切る壁の出現は、外気の有無を生み出し、皮膚は見目なき変化を鋭敏に看取した。俺はやおら目蓋を持ち上げて、右足に覚えた違和感のもとを確認すれば、床に倒れたアイが腹をさする姿がそこにはあった。俺は右足の感覚と合わせて、恐ろしく簡単に結論は出たが、胸が痛むような罪悪感に染まりはしなかった。

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