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決意表明

 俺がふいに目を閉じると、ベレトは慌てふためいて言った。


「ここではやめてくれよ」


 藪を突いて蛇が出る事を嫌ったベレトの堅実なる憂慮に俺は我に返る。悪い冗談だと頭に手を回して戯けて見せたが、ベレトは依然として眉間に皺を寄せたまま、警戒を怠らない。空笑いすれば尚更、部屋の中にいる事が居た堪れなくなり、俺は退出を目指してやおら移動する。


「お世話様でした」


 贔屓にする店主への阿る様を似せた、絵に描いたような低姿勢を拵えて、ベレトになるべく尻を見せないように扉の前まで行った。


「鼠の探し方は任せたよ」


 感覚と想像力を頼りに自分の立ち位置を好転させろと、ベレトは半ば神通力を有する稀有な人間への比類ない信頼を寄せた。荒唐無稽と言わざるを得ないやり取りでも、「力」の存在を保証する力強さがあった。俺は手を捏ねる一歩手前までいった両手で扉をあやなして、平穏無事に部屋から退出した。廊下を数歩、歩き出したのを境に、夢想に耽る散漫的な視線が天井の隅から隅へ動いて回り、落ち着かない心模様を宙に描く。


「さぁさぁ」


 独り言まで飛び出す無性なるざわめきは、部屋に戻るまでの間続き、軋みを立てる心許ない椅子にも遠慮会釈なく座った。そして徐に双眸を閉じると、意識の先鋭に額を借り、深く息を吸い込んだ。


(俺の前に出て来い。犯人、お前に言っているんだぞ)


 見聞を授かってもいない、ベレトの「号令」を真似してみせる。即物的に自分の姿を見下ろすと、馬鹿馬鹿しいにも程がある。しかしこれは、ベレトの言う事を誠実に実行し、俺なりに「力」を扱おうと苦心する精一杯の姿であった。そして、扉の向こうから足音が迫ってくるような気配はなく、念じた分だけ落胆が肩に落ちてきた。期待をしてなかったといえば嘘になる。だが、濡れ衣を着せようとする犯人がのこのこと顔を出す光景も判然としなかった。「力」の扱い方は思っていたよりも難しいのかもしれない。


 曖昧模糊とした糸のように細い道筋を辿っている気分は、前途多難な出だしを意味し、頭を抱えざるを得ない出来事が起きる。


「おいおい」


「勘弁してくれよ」


 口を揃えて呆れる様子に、俺も同調する。大食堂へ行く際に必ず通る広間にて、「力」を誇示するかのように、それはあった。一人目と同様に、両手に杭を打ち込み、壁に飾り付けるやり方は、連続殺人を想起させた。俺を陥れようとする魂胆が丸わかりだ。ただし、効果は的面であり、俺に向けられる視線の疎ましさが輪を掛けて強まった。


「お前らは俺達が絞りカスになるまで身も心も搾取するつもりか」


 権力構造の枠組みから外れた位置にいつも身を置き、知らぬ存ぜぬと教室で過ごしていたせいか。上記の言葉に対する心持ちや返答を持ち合わせていなかった。


「いや、だから!」


 俺は切羽詰まって、なりふり構わず潔白を訴えかけたのを既の所でどうにか呑み込んで、背筋を伸ばす。


「俺が犯人を見つける。必ず」

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