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繋がり

 顔を合わせれば必ず挨拶し、親しげに互いの名前を呼び合うような関係ではなかった。無視は当然する。虫の居所が悪ければ、悪目立ちする所作や行動に対して、一言呟き溜飲を下げる。同じ肩書きを有するだけの、赤の他人であった。しかし、バエルの無遠慮な筋書きの上で踊る道化として、奇妙な連帯感は覚えていて、先の気受けに左右されずに篤実な心配りができた。


「まあまあです」


 言葉を濁したのは、自分の限界を知らないからである。“可能性”と言い換えることもできたが、圧倒的な経験不足からくる、身の程知らずだ。


「一人ぐらい休んでいようが、この調子なら直ぐに片が付くさ」


 よしんば、イシュが根を上げてしまっても、さして問題はないと布石を打った。余計な罪悪感に苛まれて、命を賭した特攻に出るような真似は潰したのだ。これは後味の悪い結果に終わることを嫌った、スミスなりの自己防衛であった。


「……」


 責任感の欠片もなかったイシュが、唇を噛み締めて悔しさを滲ませる。友の仇を討つ為に、重い腰を上げたはずだった。しかし、慮外なバエルの登場と目的は、私怨を瞬く間に吹き飛ばし、立場を弁えた口吻と行動に結びついた。それは図らずも、ハーキッシュが生前に望んでいた魔術師らしい奉仕の格好であり、「やり遂げなければならない」といった、無自覚な強迫観念に迫られていた。スミスが再び、人間とは比較にならない、建造物さながらのソレに立ち向かっていけば、重苦しさに俯いた顔がそぞろに上向き、勁草とは似ても似つかない萎びた心根に鞭を打ち、欝勃とした意思のもとに背筋が伸びた。そして、果断を語るのに齟齬がない勢いをもって、一歩目が踏み出された。


 悪魔の名を冠して召喚されたレラジェ、ベレト、ウァサゴの三名は、他の者達とは比較にならない速度で次々と湖の量を増やしていく。すると、何処からともなく立ち込めていた霧が、少しずつだが薄れていき、澱が舞い上がったかのように不透明であった結界の中の景色が透明性を取り戻していく。それはまるで、生態系を乱す外来生物の駆除に似ていた。


 湖の中で残骸が折り重なり、不気味で不揃いな稜線がお目見えする。そして、残すは最後の一体となったところで、レラジェとウァサゴが合流を果たす。惜別の言葉もなく唐突に訪れた別れは、ひとえに神隠しめいた。ウァサゴが病室で味わった孤独感は、他に例えようがなく、レラジェとアイを結び付ける関係に割って入り、悪態をつくほど気もそぞろだった。だが、バエルから課せられた目的の為に、同じ方向を向いて一心不乱に邁進すれば、教室でしずしずと築いた過去の友情が浮き彫りになり、掛ける言葉に悩まずに済んだ。


「良かったよ。足が動かせるようになって」


 不慮の事故に巻き込まれて不自由な生活を強いられたウァサゴの境遇を憂い、今こうして五体満足に動いていることを嘘偽りのない笑顔でレラジェは喜んだ。一方のウァサゴといえば、勃然と顔を赤らめる。旅の恥は掻き捨てのように、再開して早々に浴びせた罵詈雑言を恥じたのだ。


「ひどいことを言ったね……。ごめん」


「気にしてないって言ったら嘘になるけど、気にしてないよ」


 ウァサゴは自身の情けなさに肩を落とせば、レラジェがすかさず気落ちした肩に手を置き、寄り添った。集団生活で爪弾きにされて、互いの孤独感を穴埋めするように関係を続けていた教室での友情から、二人は一歩踏み込んだ関係に発展した。

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