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兆し

 レラジェは鼻で笑うように息を吐き、類稀なる魔力の漲りに魔術という体裁を借りる。体躯の大きさは、生態系を語る上で欠かせない。そしてそれは、額面通りに弱肉強食を形作り、空を見上げるような顎の角度でもって、人間が如何に小さな存在であるかを体現していた。だがしかし、一個人が所有するにはあまり莫大な魔力の前では、体格による優劣は無きに等しかった。


 割れた地表から、魔物が顔を出してきそうな事々しい音の連続は、人類を滅ぼす天敵を薙ぎ倒すのに相応しい喧騒であった。その異変には、結界を四六時中、維持する為に張った天幕の中で寝息を立てていた魔術師の耳にも届いていた。夜空が割れて光が差し込む、平時では終ぞない奇異な光景を目の当たりにしていた魔術師達は、巨大な影が草花の如く倒れて行くのを呆けた顔で見ていた。


「何が起きているんだ……?」


 切迫した状態にひがな一日、追い詰められていた魔術師にとっては、砂漠に雨が降り出すのと変わらない天啓めいた恵みなのだろう。炯々たる眼差しで、靄がかった未来が露払いされていく様子を眺めた。バエルが舌先三寸で語った成果の話も、今となっては空々しい世迷言ではない。国が向かうべき指針に対して、口を挟んでも全くもって不遜ではない立場に魔術師は位を高めるはずだ。


「はあはあ」


 死生観にも影響を与えかねない、極度の緊張を味わいながら、乱れた息を整える間もなく齷齪と目の前の敵を打倒し続ける。散漫的な思考の乱れは一切ない。汗水を流して傾注する生存本能は、触手による数多の攻勢を尽く避けさせ、発露する魔術でバエルの目論みが達成する瞬間が着々と近付いていた。


「壮観だなぁ」


 当のバエルは、自身の小間使いに満足げだ。九名もの人間が甲斐甲斐しく働く様子に胡座をかき、酒の肴にしてもいいぐらいの心地よさがあるようだ。貴賤に溢れた下卑た笑みが浮かび、召喚に際して必要となる人数の確保の為に静観を決め込む。九名の中でもっとも経験値が少ないイシュは、触手を上手く避けきれず、側頭部や右腕などに多くの出血が見られた。確実に数をこなす度に、身体のどこかを負傷し、ついに足が止まった。


「……」


 顔色は青白く染まり、呼吸の乱れは激しさを増して行く。それは、疲労も多分に含んでいたが、傷付いたことによる恐怖とそれに付き纏う痛み。これが多くを占めており、惰眠を食むばかりの生活がよもや、このような状況に際して悪く働くとは露も思っていなかったのだ。胸に抱く悔恨が重くのしかかり、イシュは顔を上げられなかった。すると、魔術師として酸いも甘いも噛み分けるスミスが、イシュの姿を見かねて声を掛けに行く。


「大丈夫か?」

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