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退屈な日々

「それじゃあ……」


 イシュは自身が想像するバエルの概算に怖気を覚え、言霊を払い除けるかのように、性急に口を閉じる。よしんば、その方法がまかり通るなら、というあまりに理不尽な発想に対して自衛の為に軽はずみな発言を避けたのだ。


「おずおずと結界を張り続けるより、建設的なやり方だ」


 沈黙していたレラジェが、イシュに代わって尋ねる。


「一体誰が魔力を流し続けるんだ?」


 対象になるのを恐れたイシュにとって、その質問は真綿で首を絞められるより息苦しかった。


「誰でもいい。陣がある限り、それは大した問題じゃない」


 全て上手くいくと楽観的な考えを口にするバエルの不敵さにレラジェとイシュは眉根にシワを作る。遍く判断はバエルの一存でのみ機能し、傍若無人な身の処し方に絶え間なく振り回される。そんな機運を察して、容易に同調するような真似は避けた。


「人柱を作るほどの“価値”が、この国にはあるのかね」


 天真爛漫に瞳を輝かせ、事態がどのように発展するかについて、ひたすら胸を躍らせていたイルマリンが気怠げに言った。


「ほう。そういう考え方もあるか」


 敷居を跨ぐかのような何気なさで世界を乗り換えた者達にとって、土地に根付く常識や成り立ち、見慣れぬ景色に人々は、全て新鮮に映り込んで、魅力を語り出せば一昼夜を簡単に過ごせた。以前の世界でそこはかとなく感じていた、行き詰まりの日々が霧散するほどの一変した現実は、エンターテイメントの皮を被った虚飾で鬱血した感情に尻を叩くより、地に足が着いた実感があった。今し方起きている切迫した状況を乗り越える為に苦心し、解決に向けて邁進する充足感は倒錯的でありながら、それほど的外れな感覚とは言えないだろう。ただしやはり、物心ついた頃からこの世界に定住する者からすれば、年嵩に合わせて色褪せていく景色の中に宝石の如き華やかさを見つけるのは甚だ困難だろう。どの世界にも通底する紛れもない倦怠は、イルマリンのような厭世観を育んだようだ。


「この世は等しく無価値なのかもしれないぜ?」


 絶え間なく皮肉を口走るイルマリンの見目は、明らかに「健康」とは言い難い風貌をしている。窪んだ眼底に張り付く肌は、色素がとりわけ沈んで、身体の節に散見される黒ずみがベッタリと鎮座し、この世の醜悪さと向き合ったかのような苦労が滲む。贅肉を削ぎ落とした頬の痩せ方からして、栄養を積極的に摂取してしている様子はない。他人の物を横取りし、肥やしにするイルマリンの素性を鑑みるに、腹が空いたと嘆く姿は想像できず、自らそのような状態を招き入れているように見えた。つまり、生来の性質に因んでおり、同情するような遠因ははない。ならば、イルマリンが醸す退廃的な言葉や態度は、環境によって形作られたものではなく、子宮内で育まれた先天性の体質のようだ。吊り上がった口角は、影が付き纏い、斜めに構えた身体の角度に天邪鬼さを空目する。


「あまりに主観的な物の見方だ」


 バエルは視野狭窄に陥るイルマリンの価値の計り方に疑問を呈し、反抗を窺わせるその態度に釘を刺す。

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